Ben日記

ベンクー

思ったこと、感じたことの日記

タケシの武勇伝…第二部(9)

自作小説

---第1部あらすじ---

 将来を有望視された野球少年北野健(タケシ)は、中学3年の冬、不慮の事故で野球ができなくなってしまう。
 その後、成績不振者が集められる夏休みの補習授業で佐々木真也(シンさん)と出会い、彼から事故の裏事情と手術とリハビリをすればもう一度野球ができるようになると教えられる。
 自分を応援してくれる人々の思いに触れたタケシは、手術後のリハビリに励みながら2学期を迎えることとなった・・・

≪不意打ち…その2≫

「おう!実はな、この新学期から野球部の顧問も任されたんだがな…知っての通り、野球部っつたってウチの学校はまともにやってる部活動なんて一つもないだろ。だからまずは部員から集めにゃならんだろ。おう!そこでだ。北野と石橋は昔野球やってたろう…経験者がおらんことにはいくらなんでもなぁ…おう!?」

 ゴリ山さんはこう言って、どう見てもおちょこにしか見えないコップのビールをクイッと一口で飲み干した。 そして、珍しく苦虫を噛んだような顔をしながら腕を組んでイスの背にもたれかかった。その姿は、まるで初めてもらったエサの食べ方に困っているゴリラそっくりだった。
 しかし、実際に困っていたのは4人の方である。全員、ゴリ山さんに向けた首が固まってしまった。何しろゴリ山さんのお誘いである。ここで「イヤです」と即答できる勇気を持っている者は誰もいなかった。野球をやりたい・やっても良いと思っているタケシとリョウでさえ、ゴリ山さんに見張られて野球をやるのは正直願い下げだった。

「どうだ、おう!やってみる気はないか、高岡…おう!」

「え、えーっ!自分がですか!?」

 名指しされたマサミは、困り果てた目でタケシ・リョウ・シローちゃんの顔を見た。だが、当然誰も目を合わせられず、仕方なく下を向くしかなかった。

「まあ、すぐには返事できないのは分かるけどな…ちょっと考えといてくれや。おうおう!来たぞ。まずはメシ食おうや!がはははーっ」

 5人の前にスペシャル定食が置かれた。だが、早速箸を取ったゴリ山さんを除き、誰も箸を取ろうとはしなかった。腹ペコだったタケシでさえ箸を取る気にならなかった。全員、「これを食べたら断れない…」という思いが頭の中を駆けめぐっていたからだ。
 ゴリ山さんは、そんな4人の気持ちはおかまいなしとばかりに、美味そうに揚がった大振りエビフライに小皿のタルタルソースをたっぷりからませてパクリと一口で食べ切った。

「おお、こりゃ食い応えがある。美味い!…おう、どうした?遠慮すんな。みんなも食え。美味いぞ!がはははーっ!高岡、ほら心配すんな。あとで金取るなんてことはしないから!…がはははーっ」

 タケシとリョウは、妙に多弁なゴリ山さんの言葉にしぶしぶ箸を取ったが、これ以上ない深刻な顔をしたマサミは、まだ箸すら取れずに俯いたままだった。

「高岡、そんなに考え込むな。単なる相談だ、相談!返事はあとで良いんだからな…今はとりあえず食えや。メシが冷めたら作ってくれた人に申し訳ないだろ。おう!がはははーっ」

 ゴリ山さんは軽い気持ちかもしれないが、マサミには重い決断だった。
 マサミにも他人に話したくない思い出があったのだ・・・

※※つづく※※

  • 借暮しの鶴本なお

    借暮しの鶴本なお

    2010/01/24 18:48:13

    んふふ…ゴリ山さんには抱かれたくないわ…

  • クレイド@ひな

    クレイド@ひな

    2010/01/24 12:56:07

    BENクーさん小説好きですね~

  • 咲

    2010/01/23 22:58:36

    野球をやりたいタケシ君でさえ躊躇うゴリ山先生の迫力…。
    でもなんだか、意外と良い顧問になりそうな気がするのは私だけでしょうか?
    マサミ君は何やら深刻そうですが、昔なにがあったのでしょう。

  • ソラちゃん

    ソラちゃん

    2010/01/23 13:04:59

    う~~~、スペシャル定食をエサに勧誘を迫るとは、、ゴリ山先生よぉ~~。
    ここは、、じっくり考えないとぉ・・・って、考えてももうすでに時遅し・・・・?

  • スイーツマン

    スイーツマン

    2010/01/23 08:07:00

    たしかに相手が相手だと美味しい料理も喉に通らない。
    意外とゴリ山氏には栄光の過去がにおってくる。意味深なキャラですねえ。