Ben日記

ベンクー

思ったこと、感じたことの日記

タケシの武勇伝…第二部(10)

自作小説

---第1部あらすじ---

 将来を有望視された野球少年北野健(タケシ)は、中学3年の冬、不慮の事故で野球ができなくなってしまう。その後、成績不振者が集められる夏休みの補習授業で佐々木真也(シンさん)と出会い、彼から事故の裏事情と手術とリハビリをすればもう一度野球ができるようになると教えられる。
 手術後、タケシはリハビリに励みながら2学期を迎え、その初日の昼食時、野球部の顧問となった富山(ゴリ山)先生から仲間とともに野球部に誘われるが
・・・

≪トラウマと思い≫

 マサミは、小学生の頃ずっとリトルリーグをやっていた。小柄だが運動神経の良い彼は、どんなポジションでも器用にこなす選手だった。
 だが、あるゲームでエラーをした時、それでチームが敗れたと主力選手から責められた。そのことが元でヤル気を失くして野球を辞めてしまったのだ。
 今でも、マサミの耳にこびりついて離れない言葉が残っていた。
『てめェのせいで負けたんだ!』という一言が・・・
 結局マサミが辞めた後、そのリトルリーグはチーム内の軋轢が浮き彫りになり、チーム自体解散となった。仲間のミスをなじる行為がまかり通るのだからそれも当然だった。
 黙って相手の言葉を受け入れたマサミだったが、そいつのことだけは今でも殺してやりたいほど憎んでいた・・・

 マサミは、箸を取らないままゴリ山さんに正対すると怖さを振り払って返答した。
「先生。自分は野球やりたくありません!…失礼します!」
 こう言って、すかさず席を立つと店から出ようした。

 すると、一人テーブルに両肘をつき、頬張ったご飯をもぐもぐ食べていたゴリ山さんが、扉を開こうとしたマサミの背中に突き刺さるような言葉を投げた。それは、他の3人の胸にもグサッと突き刺さるものだった。
「おう、待てや高岡。返事は分かった!…だがな、このメシだけは食っていけ。おう、お前らもまだ手もつけとらんけど、まさかメシおごったから野球やらにゃいかんとか考えてんじゃないだろうな?…俺がそんなケツの穴のちいせえ男だとでも思ってんのか。おう!?」

 座ったままの3人は、この言葉に余計に萎縮して箸を手にしたまま固まってしまった。ただ一人マサミだけが、振り返ってゴリ山さんを見つめ返していた。
「高岡、いいから戻って座れや。お前がそんなこと考えてるとは思っとらん。だがな、せっかく作ってくれたものを食べずに帰るのは失礼だろ!…断ったって構わんが、とにかくメシだけは食って行け。なっ、おう!」
 ゴリ山さんの口調は、マサミを呼び止めた時とは打って変わって優しくなっていた。また、マサミを見る目も何か痛ましいものを見るような眼差しだった。

 無言のままマサミが席に戻ると、ゴリ山さんが再び全員に言葉をかけた。今度も、らしくない優しげな口調だった。
「おう、お前ら。何か遠慮しとるようだが、こんなメシくらいでお前らに野球してくれなんて俺は思っとらんからな!…ここだけの話、俺は今の学校をちょっとでも良くしたいと思っとる。そのために運動やる奴をちょっとでも増やそうと思っとるんだ。分かるか、おう!」

「・・・」

「いいか。学校ちゅう所はな、授業だけで成り立っとる訳じゃない。みんなが一緒の目標を持たんとできんこと覚える所でもあるんだ!…ウチの学校が今こんなていたらくになっとるのも、一緒に何かをやろうとする気持ちがなくなったからだ。それが一番やりやすいのが運動だろうが。おう!だから、一人でも運動してもらおうと思って声かけたんだ。だから、無理やりやらせようとは思っとらんぞ。それじゃ面白くないし、やっても意味がないからな…」

 4人は、またしても首だけ向けてゴリ山さんの話を聞いていた。ただ、4人の気持ちは始めにテーブルについた時とは大きく違っていた。怖いだけの人と思っていたゴリ山さんが、予想外に思慮深い人であることに気付かされたからだ。
 いつのまにか、4人の眼差しからゴリ山さんに対する萎縮の気持ちが消えていた。特にマサミは、真摯な瞳でゴリ山さんの顔を見つめていた・・・


※※つづく※※

  • でふぉると

    でふぉると

    2010/03/05 01:09:40

    男は物で人を釣ったりはしないものさ。 ( ̄ー ̄)ニヤリ

  • スイーツマン

    スイーツマン

    2010/01/27 23:38:21

    「あおはる」ものにはこういう熱血先生がつきものですよね。

  • 咲

    2010/01/27 17:03:52

    私は運動が苦手なので、マサミくんのような体験もけっこうあります…そりゃあ、野球がいやにもなりますよね。
    子供達のことを真摯に考えるゴリ山先生がすてきですね。個人的に、作ってくれた人に悪いからご飯を粗末にするなという言葉が好きです。素朴で大事なことをきちんと教えてくれる、よい先生ですね。

  • しまたつ

    しまたつ

    2010/01/27 06:11:36

    一通り拝見させていただきました。キャラクターにそれぞれ個性があるように丁寧に書かれていますね。僕は好感を持ちました。宜しければ友達申請させていただきたいので、どうぞ宜しくお願いいたします。
    武勇伝というタイトルなので、きっと主人公が大活躍する場面が待っているのでしょうね。僕も草野球してますのでどんな物語になるのかとても楽しみです。

  • 修哉

    修哉

    2010/01/26 22:39:48

    ゴリ山さんは無理やり野球をやらせようとしてい無いところがいい。
    しかし、ゴリ山さんは野球部に入って欲しいと思う。
    でも、それよりもご飯は作ってもらった人に失礼だからといって
    マサミを引き戻したけど、たぶんそれでも気持ちを改めて欲しかったと思う。
    そのおかげもあり4人とも誤解?ゴリ山さんに対する想いを思い直したのがよかったです。

    僕がマサミの立場だったら野球は二度とやりたくないですね。
    いい思い出が無いとスポーツッて成り立っていかないと思うし
    辛い事があってもいい事があるように、作ろうとする気持ちで
    努力などに繋がっていくと思うので、その努力をしようとは思わ無いと思います。

    ゴリ山さんが学校をすこしでも変えようとする前向きな姿勢が伝わってきた気がします。
    ゴリ山さんは多分勉強も大事だけどスポーツもそれと同じくらい大事と思っていると思うので
    これからこの学校が変わっていき、4人とも野球部に入ればいいと思います。
    小説書くの頑張って下さい!長くなってすいません。

  • おはる

    おはる

    2010/01/26 17:49:05

    ゴリ山さん、ゴリだけど良いこと言いますね!
    学校は勉強だけするところじゃないですね。
    私は損得勘定抜きの最後の友達を作れる場所なんではないかとも思ったりします。
    みんないいチームメイトになれるといいなぁ。

  • ソラちゃん

    ソラちゃん

    2010/01/26 16:23:37

    うんうん。
    ゴリ山先生は、ただ怖いだけの先生じゃなかったねぇ。
    たよりになるいい先生なのかもぉ。

    それにしても、早くスペシャル定食食べないと、、冷めてきちゃうヨォ~。

  • ゆちゅ.com

    ゆちゅ.com

    2010/01/26 15:46:49

    ゴリ山さんてホントいい先生
    だよねぇ☆
    マサミはどぅなっちゃうのかなぁ