ひっくり砂時計~後編~
恵はおやつにマドレーヌを作っていた。ところが、焼く温度を間違えて、焦がしてしまった。
「あっちゃ~、せっかく作ったのに・・・・・・。」
ふと、恵はあの砂時計のことを思い出した。
「ま、まさかとは思うけど・・・・・・。」
半信半疑ながらオーブンの前で例の砂時計をひっくり返してみた。
すると、見る見るうちにマドレーヌは焼く前の状態に戻ったのだ。
「やっぱり夢じゃなかったんだ!この砂時計すごい!あっ・・・・・・、そういえばこれ3回しか使えないって書いてあったわよね。バカラのグラスのときで1回目、今ここで使ったのが2回目だから・・・・・・、後1回しか使えないんだ。」
恵は残りの1回を何に使おうか迷った。
あまりたいしたことではないことに使わない方がいい気もするが、かといって使わないのももったいない。
ここ2,3日で使おうかと思ったことも数回あったが、なんだかんだで使わなかった。
砂時計を使わないまま数日後、恵は買い物に出た。歩いていると、横断歩道の信号が赤になったので、止まった。
すると、目の前に小さな子供が走って横断歩道を渡ろうとしているのが見えた。だが、そこに車が近づいてきている。
「危ない!戻って!」
大声で呼びかけたが子供は気がつかない、このままでは車に轢かれてしまう。
「そうだ!」
恵は、急いで砂時計をひっくり返した。
すると、子供は前を向いたまま後ろの方へ走り出した。つまり、道の真ん中まで走る前にまき戻されたのだ。間一髪のところで子供は助かったが、数秒遅かったら車に轢かれるところだった。
「これで、もう砂時計は使えなくなったわけか。けどまぁ、これでいいよね。」
その週末、常盤一家は山登りへ行くことになった。
途中、休憩していたら、未来が勝手に立ち入り禁止のところへ入っていった。
「未来!そっち行っちゃ駄目よ!戻ってきなさい。」
「未来!戻って来い!」
恵と兼成が呼びかけたそのとき、
(ガラガラガラ)
未来が立っている足場が崩れて、未来が崖から落ちそうになった。
「あっ!!」
「みらーーーーい!!」
2人が急いで助けようとしたそのとき、未来の足場が突然元に戻り、未来も落ちそうになる前の立ち位置に戻った。
急いで兼成が未来をひっぱってその場から放した。
「なぁ、今恵があの砂時計を使ったのか?」
「え?あの砂時計はもう使えなくなったはず・・・・・・。」
使えなくなってからもアクセサリーとして身に着けていた砂時計を手に取った瞬間、砂時計が「パリン」という音を立てて粉々に砕けた。
「おかしいな。確か、使えるのは3回までだったから、もう使えないはずなのに・・・。」
「なぁ、お前確か、3回目のときは車に轢かれそうになった子供を助けるために使ったって言ってたよな。」
「うん。」
「ひょっとすると、それを使って1人の人間の命を救ったことで、砂時計にもう1度力が与えられて、未来を助けることができたんじゃないか?」
「そうかもしれない。もしかしたら、時の女神様が、もう1度力を与えて助けてくれたのかも。」
このとき恵と兼成は、時の女神様は本当に存在しているという気持ちになった。
壊れた砂時計はその直後、光る砂となって空へ飛んでいった。3人はその光景をしばらく眺めていた。