絵本の扉
「ママ、えほんよんで。」 「あ、ココちゃんだぁ!」 二人は声をそろえていった。
「はいはい、今読んであげるからね。」
夢子は母親の優子に、絵本を読んで欲しいと頼んだ。
「いつもの仔猫ちゃんの本?」
「ウン!パパがくれたこのえほんのねこちゃんだいすき♡」
夢子の大好きな絵本とは、黒い仔猫のココが、満月の夜に散歩をし、月の光から現れたきれいな石を拾うという物語だ。
これは、絵本作家である父親の幸一が、誕生日プレゼントに夢子のためだけに描いた絵本で、世界に一冊しかない絵本なのだ。
優子が絵本を読み終えると、夢子はうとうとしながら言った。
「ねぇママ、こんどおひっこしするおうちでは、ねこちゃんかえるの?」
「ええ。新しいおうちでは仔猫ちゃん飼えるわよ。」
「あのね、あたし、このココちゃんみたいなねこちゃんがほしいなぁ。」
「はいはい、新しいおうちに引っ越したら探しましょうね。」
「ウン。」
夢子を寝付かせると、母親はベッドの近くにおいてあるパソコンで仕事を始めた。
夜中の何時くらいだろうか?夢子はふっと目が覚めた。窓から月の光が差している。優子は、ベッドの横に出した机で転寝をしている。「ママ~、おねんねしてるの?」
と、そのとき(チリリン)
「ん~?」
と、どこからか鈴の音がした。「なんのおと?」 見ると、目の前に黒い仔猫がいる。
夢子の目の前にいるのは、絵本に出てくる仔猫ココと同じ、首に青いリボンと銀色の鈴をつけた黒猫だ。
「にゃ~ん。」
と鳴くと、仔猫は突然歩き始めた。
「ココちゃん、まってー!」
夢子はココに付いて行って部屋から出て、そして家の外に出た。今日は満月である。
と、次の瞬間月から光が差し込んできて、目の前に光る石が現れた。
「あれれ~?これ、えほんにでてきたいしとおんなじだぁ~。」
「夢子ちゃん、これは、月の女神様と私からのプレゼントだよ。」
「ココちゃん?ココちゃん、おしゃべりできるの?」
「そうだよ。今は女神様から力をもらって、夢子ちゃんとお話してるの。」
「すご~い。」
ココは石を口にくわえ、夢子のそばに置いた。「夢子ちゃん、私、絵本の中で、ずっと夢子ちゃんに会いたいって思ってたの。そうしたら、月の女神様が、夢子ちゃんと暮らしていいって言ってくれたの。」「じゃあ、これからココちゃんといっしょにいられるの?」「ウン。お引越ししたら、その街で会おうね。この石を出せば、私すぐにわかるから。」
気がつくと、夢子は自分のベットの中で眠っていた。「あれ~、ココちゃんは?」 見ると、夢子の手の中にはあの石が握られていた。
数日後、夢子たち一家は別の街に引っ越してきた。
夢子は新しい家の庭を眺めていた。すると、「にゃ~ん。」 どこからか、猫の鳴き声が聞こえた。「あっ!もしかして・・・・・・。」
夢子はポケットからあの石を取り出した。すると、あの仔猫が自分のほうへ駆け寄ってきた。
「ココちゃんだぁ!」 庭で夢子は大はしゃぎした。
その様子を、窓から幸一と優子が覗いていた。「あなた、あの黒い仔猫・・・・・・。」「俺が絵本に描いたあの猫と似ている・・・・・・よなぁ。それでな、ちょっと。」「え?」 幸一は、夢子に上げた絵本を優子に見せた。
「こ、これっ!?」
なんと、その絵本から、ココの絵だけが消えているのだ。
「俺もさっき見たときは驚いたよ。それに、夕べ、不思議な夢を見てな。」
「不思議な夢って・・・・・・あっ!」 優子はすぐにピンときた。優子も不思議な夢を見ていたからだ。 その夢とは、満月の空から白い装束を着た女神のような女の人が、ココをよろしくと告げる夢だったのだ。「夢物語みたいなこともあるものねぇ。あの仔猫はココ・・・・・・ってことよね?」「だろうな。きっと人に言っても信じてもらえないだろうなぁ。」 少ししてから、2人は庭へ出た。夢子がココを抱っこしている。「ねぇ、パパ、ママ。このねこちゃんかってもいい?」「いいぞ。」「いいわよ。」
「やったー!!」
庭で一家3人はココを囲んで笑った。