Ben日記

ベンクー

思ったこと、感じたことの日記

タケシの武勇伝…第二部(13)

自作小説

---第1部あらすじ---
 野球で将来を期待された北野健(タケシ)は、中学3年の冬、流れ弾で利き腕を撃たれて指が動かなくなってしまい野球ができなくなってしまう。
 仕方なく地元高校に進んだタケシは、成績不振から夏休みの補習授業を受けることになり、そこで佐々木真也(シンさん)と出会い、彼から事故の事情と手術とリハビリをすればもう一度野球ができるようになると告げられ手術を受けることになる。
 リハビリに励みながら2学期を迎えたタケシは、始業初日の昼食時、野球部の新顧問となった富山先生(ゴリ山さん)から友達とともに野球部に誘われるが、決断を出せないままその日の帰り道、シローから相談を持ち掛けられ目を丸くして眉を顰めた・・・

≪シローの事情…その2≫

 甲高い旋盤音が坂の上にまで響いている。坂道を降りきった突き当たりにある小さな鉄工所から聞えている音である。そこがシローの家であり、タケシの視界にもすでに工場の屋根が見えていた。
「…シローちゃんはどうしたいの?」
「そりゃぁできれば辞めたかないよ。でもよ、俺は頭悪ぃから勉強ぜんぜんできねぇし、運動だってウチの部活なんてどこも部員いねぇからできねぇし……だから親父が『やることねぇーんならとっとと辞めてウチの仕事しろ』って言うのも分かるんだよ」
「・・・」
 いまだリハビリ中ながらも手術後のタケシは学校を辞めることなど考えなくなっていた。しかし、今シローが抱えている悩みはつい半月前までタケシが考えていたことだった。
 何とかしてやりたい気持ちになったが、その方法としてシローが提案したことにすぐに賛同する気にもなれなかった。
「だからって、昼間いきなり言われたばっかだぜ。ちょっと考える時間を置いた方が良いんじゃないかなぁ…それに入るったってすぐに部活できる訳じゃないんだしさ!」
「時間がないんだよタケちゃん!俺にはよぉ…」
「何で時間がないんだよ?どうしてそんなに急がなきゃなんないんだ!?」
「実はよぉ…」
 シローが入学して以来、そもそも彼の進学に反対していた父親はシローのことで母親と意見が対立することが多くなっていた。ことにシローが夏休みの補習を受けることになってからはいっそう激しくなって、それまで『せめて高校くらいは…』という母親も、『せめてやることが見つかるまでは…』と唱えるのが精一杯の状況になっていた。
 だが、今のシローに学校内でやることなどすぐに見つかる訳もなく、これ以上ゴタゴタ言われるくらいなら辞めちまおうかと考えていた。そんな時にゴリ山さんから野球部への勧誘を受けたのだ。
 学校に残るにはまたとないチャンスだが、いきなり野球部に入ると言っても活動してない部活では説得にもならない。ゴリ山さんを引っ張って来れれば一番だが、さすがにそれはムチャな話ということでタケシに説得して欲しいと頼み込んだのだ。
 タケシが眉を顰めたのは、シローちゃんの父親が昔気質の頑固なおじさんなのを知っており、とても説得するする自信がなかったからだ。
「ところでさ、シローちゃん野球やったことあんの?そうじゃなきゃオバさんだって説得できそうもないよ。俺…」
「やったことがないからタケちゃんにしか頼めないんだよ……タケちゃんのことはウチのお袋だって知ってるくらいだからさ。『ケガさえしなけりゃ凄いピッチャーになってた』って…」
「・・・」
「あっ、ゴメン!悪気があって言ったんじゃないんだ……でも本当にタケちゃんにしか頼めないんだよ。マサミはとても一緒にやれそうな雰囲気ないしさ……頼むよ。助けると思ってさ、一緒にウチに来てくれよぉ…」
 シローはタケシに手を合わせてひたすら頭を下げるばかりだった。
「・・・」
 正直タケシも困ったが、ここまでシローに頭を下げられてはとてもイヤとは言えなくなってしまった。
「んじゃ、とにかく親父さんたちには会うけどさ……上手くいかなくても文句言わないでくれよ。ダメだったらそれこそゴリ山さんに頼むしかないだろうしさ!」
「すまない!感謝するよぉ…!」
 シローは、もう一度タケシの前で手を合わせると頭を上げて大きく一つ深呼吸した。メガネの下の目が怖いくらいに据わっているのがタケシにも見て取れた・・・

※※つづく※※

  • でふぉると

    でふぉると

    2010/03/17 23:01:52

    堅実に生きるシローの親父さん。
    オヤジさんは生活が苦しいとかの理由では無く、息子の将来を考えた上で
    ダラダラと高校生活を送るなら手に職を付けた方が良いと考えているのだろうか。
    「高校に通う事はシローの為になる」と言えれば、きっと納得してくれるハズだが...
    シローも高校に愛着を持っている様子だが、シローは何が好きで通学しているのだろう。
    気の合う友達かな?
    タケシはどんなアプローチをするのだろうか。
    次回に期待。 ^^

  • ソラちゃん

    ソラちゃん

    2010/03/17 10:25:34

    頑固親父を説得しに行くのは大変ですねぇ~。^^;
    でも、シロー君って、鉄鋼所の跡取り息子ですよね。
    経営者になるのだったら、高校ぐらいは出ておいたほうが確かにいいと思います!
    シロー君、タケシ!! 勇気を振り絞って親父に立ち向かうんだぁ~~\(o⌒∇⌒o)/ガンバレー♪

  • スイーツマン

    スイーツマン

    2010/03/17 04:02:10

    自分の意志で手術を受けたタケシと違って、タケシに付き添って貰って、どうにか親と向き合おうとする詩ロー。頼りないけれども、目標をみつけかけているような気がします。応援!