現代版・竹取物語(前編)
よく晴れた昼過ぎ、沖菜武雄は定年後の日課である散歩に出かけた。
散歩コースの途中の竹林で、武雄は妻の陽子のことを考えていた。一流企業に定年まで働き仕事人間で家庭を顧みなかった武雄は内心熟年離婚も覚悟していた。だがそれも杞憂だとわかり、それどころか老後は農業をするために田舎に越そうという半ば勝手な提案にものってくれるなど、残りの時間を仲良く暮らしていた。
そんな妻に対し、自分のできること。武雄は毎日のように考えたが、思いつかなかった。本人に聞いても、夫が健康でいることが一番だと言っていたが、武雄はもっと別の形で表したかった。
子供もいなかったから、金は十分にあるのだけど。そんなことを考えていると、武雄の目にまばゆい光が入ってきた。日の光ではないと一目でわかるそれは近くにある竹の根元から放たれていた。
「なんだこれは」
竹に近づいてみると、根元にとても可愛らしい赤ん坊が入った籠があった。
沖菜邸。赤ん坊を前に武雄と陽子はこれからするべきことを話し合っていた。竹林で見つけた子供を武雄は連れて返ってしまったのだ。そうした理由は2つあった。
1つ目は、状況から見て赤ん坊は置き去りにされていたということ。武雄は人気のいない竹林に置かれたままでは生命に影響するのは早いと思った。
2つ目は、もし置き去りにされていたのだったら自分達で育てたいと思ったからだ。子供のいない二人は今まで触れないようにしていたが、陽子が子供好きだということは武雄は気づいていた。いろいろとあって子宝には恵まれず、養子も検討したが諦めていた。
その二人にとって、子育てができるかもしれないという状況は嬉しかった。が、常識で考えてここは警察に届け出て、親を捜すべきなのはわかっている。陽子も武雄にそう言った。結果、二人は今日は遅いから明日にして床についた。
次の日、二人はまた警察に行くか考えていたが、一日に4本ほど通るバスに乗り遅れてしまい、届け出は延期になった(自家用車は車検中)。
その次の日も陽子の体調が悪く、家で安静にしていたため延期。
それまた次の日もトラブルに遭い延期になった。
そんなこんなでいろいろな都合が重なり(実際は二人で意図的に重ねていることが多い)、赤ん坊は二人で育てていた。二人にとって赤ん坊を離したくなかったし、不思議な魅力がこの赤ん坊にはあった。
しかし二十年という月日が経ち、赤ん坊が成人になったとき一大騒動に発展するのだが、それはまた次回の中編で。
龍成
2010/05/09 16:25:41
おぉww
面白いっすね!
中編が気になるな!ww
晶
2010/05/09 14:58:32
おもしろそうです~。
続きがきになりますね。
綺麗な文章ですね。