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ラト

なに描こか?なに伝えよか?

冬の朝顔 2 緑と正人 ⑤

自作小説

冬の朝顔。
正人は思い出していた。
初めて2人行ったデート、中之島公園の咲き誇る満開の薔薇園での緑のセリフを。

『冬に咲く朝顔は奇跡みたいなものでしょう?私はあなたにとってのそんな存在になりたいなあ』

・・・そうだった。
正人にとっての冬の朝顔は、彼女そのものだ。
心から一緒にいたいと思った、大切な大切な存在だ。
それなのに、どうして憎まれたほうがいいなんて思えたのか。
そして、美里。
いとしい娘、冬の朝顔が与えてくれた大切な家族。
それなのに、どうして今までこの手で触れようとしなかったのか。
どうして、どうして、どうしてなのか。
正人の心の中にあった壁は、ゆっくりtとひび割れ崩壊していった。
どうして、こんな簡単なことが解らなかったのか。
ただ、愛するだけでいいんだ。
ほんとうに簡単で、もっとも難しいことだけれども。

「緑、僕は・・・君と美里と3人で・・・冬の朝顔を咲かせたい」
「私もよ」

そして笑って続けた。

「美里はきっと、愛する人と咲かせたいかもね」
「そんなん、あかん!まだ早すぎるやろ」
「ほんまにあほやね。何十年も先の話やんか。美里はまだ赤ちゃんよ」
「さっきから何べんもあほ、あほゆうな。美里は誰にもやらん!」

正人は座り込んでいた床から立ち上がり、そわそわと体を動かした。
その様子はまるで冬眠から覚めた熊のようで、緑は思わず微笑んでしまった。
さっきまでの正人とは違って、彼の表情は明るくなっていた。

「美里は泣いてないか、ほったらかしちゃうやろうな!」

(もう、大丈夫かな?佐奈、珠生、ありがとう)

朝まで美里を避けていたはずの正人は、人が変わった様に美里を求めて緑の寝間へ突進していった。

「美里、寒ないか?おなか、空いてないか?」

いくらなんでも、態度の豹変が早すぎじゃないかと思うほどの、正人の騒ぎようだった。

この半年、正人がそれほど美里を思っていたということだ。
美里と緑を失いたくなくて、自分を追い詰めていた反動が、今一気にやってきたのだろう。
暴走しそうな彼を止めるべく後に続こうとした時、電話が鳴った。
なんだか妙な胸騒ぎがして、緑は電話に出るのを優先した。

「はい、竹田です。ああ、佐奈のお母さん、お久しぶりですね、どうしはったの?」

佐奈の母からの電話では、佐奈が会社を無断欠勤して連絡がとれない、携帯にもでないとの話だった。
昨日も無断早退したらしい。
真面目な佐奈には考えられない話だった。
佐奈の家族は、佐奈の父の転勤に伴って、今は大阪府外に住んでいる。
だから、一番近くに住んでいる緑に様子を見てきて欲しいとの話だった。
緑は二つ返事で引き受けた。
その後すぐに、佐奈の携帯と固定電話にかけてみたが、どちらも不通だった。
いったい何があったのか、あの佐奈に限って、こんなことは考えられない。
胸騒ぎの正体はこれだったのだ。
緑は真剣な面持ちで、美里の眠るそばでしゃがみこんでいる正人に声をかけた。

「正人、美里のこと、頼める?ちょっと佐奈になんかあったみたいやの」
「佐奈ちゃんにか?どうしたんや」
「なんか、無断欠勤して連絡取れへんのよ。ちょっと様子をみてきたい」
「そうか・・・解った、任しといて」
緑はまっすぐに、正人の目を覗き込んだ。

正人の目には迷いがない。まっすぐ緑の目を見返してくる。
その揺るぎのない視線に、緑は安堵した。
もう、大丈夫。正人は大丈夫だと信じられた、
緑はそう判断して、佐奈の所へ向かう準備を始めた。

そして、玄関先のコルクボードに止められた葉書に気がついた。
右上がりの丸みを帯びた表書きの文字は、懐かしい親友のものだった。
緑の心臓が大きく鼓動を打つ。
一瞬、息を止めて、そして吐き出す。

「珠生!」

無理やりはがすようにその葉書を手にして裏返すと、小さな紫の花がプリントされ、

『冬の朝顔』

と書き添えられていた。

「珠生、連絡くれたって事は・・・この葉書、佐奈にも届いてるってことやんな」

大丈夫、この葉書を見たなら、佐奈は大丈夫。
そう確信して、緑は佐奈の住みマンションへと向かった。
佐奈の部屋のインターホンを何度も鳴らすと、ゆっくりとドアが開いた。
真っ青な顔の佐奈が立っていた。
片手に冬の朝顔の葉書を持って。

  • ラト

    ラト

    2010/05/18 20:42:54

    たかりんさま
    確かに、この状態が長く続いたら、どうなってたかわかからないね。
    話し合いは早いほうがいいときもあると、私も思うなあ。

  • たかりん

    たかりん

    2010/05/18 20:36:04

    ④から読みました!

    頑なな心が長く続けてしまうと、理由がある一時の行動でもその人自体の行動へと変化してしまうと
    思うんです。
    この話し合いが例えば美里ちゃんが3歳になってからだったら間に合わなかったかも。
    半年でパシッと決めるとは、緑ちゃんグッジョブだったねっ^^

  • ラト

    ラト

    2010/05/14 15:09:01

    だあくさま
    次から最後の結びのパートになります。
    しばしお待ちくださいませm( )m

  • だあく

    だあく

    2010/05/14 14:35:09

    佐奈ちゃんのとこに行ったのは 緑ちゃんだったのね^^

    正人君も 吹っ切れてよかった~ 

  • ラト

    ラト

    2010/05/13 07:20:12

    シンさま
    まだ話の途中なんだなあ^^;
    このパートは、これで終わりだけどね。

  • シン

    シン

    2010/05/13 06:29:07

    ミステリーみたいになってきたね^^;