ようこそお越し^^

ラト

なに描こか?なに伝えよか?

冬の朝顔 3 珠生 ①

自作小説


「君さあ、絵はいいんだけどねえぇ。話があぁ、ふっるいんだよねぇ」

(この担当さんの話し方は、ほんま間延びしてるなあ。いつまでたっても慣れへんわあ…)

内心そう思いながら神妙な顔つきで、珠生は担当編集者の話を聞いていた。
相手は原稿を丁寧にそろえて、封筒にしまいこんだ。

「まあ、こことりあえずは預かっておくからあぁ。もっとさぁ、セックスもアクションも派手~な話かいてよねぇ!」

封筒に入った原稿を机に置いて、相手はこう続けた。

「はい、失礼しましたあぁ」

わざと語尾を延ばした返事をして、頭をさげる。
これは没だな。
そう考えながら、もう一度、軽く礼をして編集室を後にした。
ここは弱小出版社だけど、珠生の原稿を載せてくれる貴重な仕事先だ。
不満はあるけど、失礼な態度はとれない。
この辺が、珠生にとっての痛し痒しのところだ。

自分の描きたい作品と、雑誌が求める作品にはズレがある。
その辺をどう妥協して、ある程度自分の描きたいものを描きながら、必要とされる作品を描くか?
珠生が最も苦労するのがこの部分だった。
あまりにズレが大きい時は、どうしたらいいのかわからなくなる。
必然性のない恋愛や、セックスやアクションシーンなんて描きたくない。
これが最低限の、珠生が譲れない一線だった。
年々、この一線を守るのが難しくなっている。
編集部のあるビルから外にでて、珠生は大きく伸びをした。
11月だというのに、東京の空は春のような淡い水色だ。
東京の空は、こんなにも優しい色だったのか。
珠生は、いつまでも空を見上げていた。

上京して5年たった。
さすがの珠生も、夢を追うのに疲れる時があった。
そんな時、いつも懐かしく思い出すのは、親友の緑と佐奈だ。
一人前になるまでは甘えてはいけない。
そう考えてずっと音信不通を貫いてきた。
実家の母親経由で、佐奈が子宮筋腫の手術を受けたことも、緑が結婚して女の子を出産したことも、全部知っている。
知っているけれど、あえて音信不通を貫いた。
頑張って、冬の朝顔咲かせる親友達に負けたくはなかった。
それを知った東京の友達は、珠生を強情だとか馬鹿だとかせめる。
連絡しなさいよ、しまいには見捨てられるよといわれる。

(それだけは、あらへんわ。あの2人に限って!)

そう思えるだけの強いつながりがあると,珠生は信じている。
きっと、あの2人もそうに違いない。
まだ小学生だったころ、ある暖かな冬の日に朝顔の種を蒔いたっけ。
あの時も東京の空のように、淡い水色の空だった。

「なあ、何で夏の花やのに、冬に朝顔まくの?」

と聞いたのは佐奈。

「朝顔は夏の花やけど、ちゃんと育てたら冬でも咲くんねんで」

と答えたのが緑。

「冬に咲く朝顔ってかっこええやん!私もそんなんになりたいわ」

と、かっこつけたのは珠生。

この時の記憶は、この後もずっと3人の心に貴重な思い出として刻まれている。


「冬の朝顔になりたいんと違うの?」

と、珠生に上京を決心させたのは佐奈だ。

「ちゃんと心の花、育てるんやで」

と、励ましてくれた緑。

この2人の親友が、東京で孤軍奮闘する珠生の最も大きな心の支えだった

  • ラト

    ラト

    2010/05/25 20:38:03

    たかりんさま
    会わなくても心が通じる友情ってあると思うんだなあ。
    私もそんな友人がいるから。

  • たかりん

    たかりん

    2010/05/25 20:27:13

    3人それぞれが心の中でいつも意識しあって、会わずとも高めあっている。
    素敵な友情だね~!!(゚¬゚*)

  • ラト

    ラト

    2010/05/16 18:40:00

    だあくさま
    珠生のパートは、3人のお話がリンクする話です。
    どうやって結末にもていくか、苦労しました^^;

  • だあく

    だあく

    2010/05/16 18:04:38

    珠生さんの ストーリーが始まりましたね^^
    どこにいて見 何をしていても 3人が繋がっている
    私も そろそろ友人に会う約束します^^ 
      

  • ラト

    ラト

    2010/05/15 00:02:25

    シンさん
    思い出話と珠生の応援をありがとう^^
    出会えるといいね。「たまお」さんと^^

  • シン

    シン

    2010/05/14 22:27:10

    ものすごくひさしぶりに思い出した!
    昔、よくいじめられていた私をかばってくれたのが、
    たまおちゃんという人だった。
    お礼言いたいけど所在分からないし><
    かわりに

    「珠生がんばれ〜!」

  • ラト

    ラト

    2010/05/14 22:11:40

    かおりんさま
    このお話は、佐奈と緑のパートもアップ済みです、
    この珠生のパートで全部繋がります。

  • かおりん

    かおりん

    2010/05/14 21:52:27

    私も地方出身者なので、小説を読んでいて珠生の気持ち
    分かるような気がします。

    1人東京で頑張る自分にとっての支えは、家族だったり友達だったり
    職場の同僚や先輩だったりしますしね。

    冬の朝顔って言う、斬新なタイトルも素敵ですね。