天使の棲む街

くりす

日々の事やら趣味の事、たまに気まぐれに短編詩とか徒然に…。

Virtual Marionette

自作小説

1年前の今日、この場所で私は生まれた。
生まれた、と言ってもお母さんのお腹からオギャアと生まれたわけじゃない。気が付いたらそこに存在していたのだ。

私の名前はID21****。マスターに貰った便宜上の名前もあるけれど、本当の名前は識別番号のそれだ。
マスターと、私は呼んでいるだけで彼女の事は私もよくは知らない。ただ、この世界にいる私を操り動かしてくれるからそう呼んでいるだけで呼び方は何でもいいのかもしれない。そういう意味では彼女は私の全てであり絶対的な神でもあると言える。
マスターは私に自由を与えてくれた。綺麗な洋服を着せてくれ、私にこの世界にある沢山の物を見せてくれた。一人では物を言う事もできない私に言葉を与えてくれた。
誰かがそれは単なる操り人形じゃないのか?と言っていた気もするが、だとしたらそれが何だと言うのだろう?例えマスターにとって私は単なる操り人形だとしても、実際のところマスターが居なければ私達は動く事も話す事もできない。ただ、そこに存在するだけの電子のデータでしかないのだから…。

いつしか私は恋をした。…いや、正確には私を操っているマスターが、と言うべきだろう。
私は頻繁に彼の家へ行き、時には彼が私の家へ来て、私はマスターの言葉を代わりに彼のマスターへと伝えた。

そうして何ヶ月が経ったのだろう?私にとっては何も普段と変わりのない日々。その日も私は彼の家に行くのだろうと思っていた。しかし、いつもと1つだけ違っている事があった。
彼の家の場所への道順…正確には住所でもあり、彼自身の名前でもあるIDがどうしても思い出せないのだ。思い出せない…というのは人間ではない私にとっては不適切な表現かも知れない。だって、そのデータが存在しないのだから。
思い出せないというのは、どこか心の奥底に眠っているけれど、その引き出しの開け方を失念している状態だ。でも私の場合は違う。まるで、始めから存在しなかったかのように私の記録から彼の住所の部分だけがすっぽりと抜け落ちて空白になっているのだ。忘れたのではなく、消失したと言った方が適切だろう。どちらかが、或いはお互いにリストからお互いの存在を消したのかもしれない。

何故…なのだろう?人間じゃない私には善悪の判断はよく分からない。でも、或いは…。先日彼と会った時に彼と彼のマスターに言われた言葉、そして私を通してマスターが伝えた言葉が原因だったのだろうか?それすら私にとっては想像の域をでないのだけれども。

そして、間もなくマスターは現れなくなった。どうしたのだろう?
マスターが居なくなった私は動く事も着替える事も、まして言葉を発する事も出来なくなった。それどころか、この世界に概念として存在している、という事実だけで姿を存続する事もできなくなった。
マスターが居なくなってから、訪問してくれる人は1人減り、2人減り…以前に比べると半分以下になってしまった。姿を存続できない、というのは私にとって殊の外堪えた。概念で存在するという事は、他人に忘れ去られたら存在しない事と同じ事なのだから。このまま、他の誰からも存在を忘れられてしまったらそれは=私というアバターの死 を意味する。
もし万が一マスターが戻ってきてくれても、“退会”ボタンを押されてしまったら私は電子の藻屑となり、儚く消えてしまうだろう。もしそうでなかったとしても、何年かの後にこの世界が消えてしまう日が来たときにはこの世界と共に私は電子の海へと還る運命だ。どちらにしてもそんなに大差はない。ならばいっそのこと今すぐマスターの手で息の根を止めて欲しい。いつしかそう願うようになっていた。

…でも、何故だろう?何故だか分からないけれど、今はまだその時ではない気がした。私からはその存在を感じるだけで、見ることも触れる事も叶わない存在だけれども、マスターがどこかで泣いている気がした。そして、私に謝ってる声が聞こえる気がしたのだ。

ねえ、泣かないで…泣かないでマスター-ママ-…。私には貴女の涙を拭う事も、直接慰めの言葉をかけてあげる事もできないけれど貴女には、まだ心配して私の所に言葉の花束を届けてくれる人達がいる。それだけじゃ駄目なのかな?
私にとってマスターが世界の全てのように、マスターにとっては彼のマスターが世界の全てだったのだとしたら、きっとマスター自身も今の私のように動けないでいるのだろう。自分の意思で動けるはずなのに動けない。それはとても…とても哀しい事だ。
でも覚えていて。私はここにまだ確かに存在していて、貴女の還りを待っている。泡となって、電子の海に還るその日まで…。

  • くりす

    くりす

    2010/05/18 04:36:13

    >ぽち様

    コメントありがとうございます。
    ニコに限らず、ネット上には唐突の別れがいつも隣り合わせですよね。
    私も昨日まで普通に接していた知人がいきなり消えてしまうといった経験を何度もしています。

    また、どちらかが退会しなくてもリストから削除、
    もしくはブラックリストへの登録をする事によってもアバにとっては
    その人との関係が無かった事になってしまうんですよね。
    何とも儚く、切ない関係ですがそれでも人は画面を通した向こうの人物に惹かれてしまうのですよね。

    >はんぎょ様

    拙い小説をしっかりお読みくださった上にお褒めのお言葉までありがとうございます(/ω\)
    ちょうど最近読んでいたせいでちょっと○ーゼンの世界を
    引きずっている部分もありますがそこはご愛嬌^^;

    一周年という事で、ちょっと視点を変えてみてアバターがもし思考能力があったのなら、
    と仮定してお話を書いてみたくなりましたところ
    よくよく考えれば電子のデータであるアバターはある意味
    エーテル人形のゆっきーみたいなものだなぁとふと思ったものでこういう手法にしてみました。
    アバターの存在価値と意義、そしてマスター(プレイヤー)との関係性、
    これを読んでそんなものを考えていただけるきっかけになったのであれば幸いです。

    本当はもう少しエピソードを盛り込もうと思ったのですが、
    2000文字の制限がある為余計な部分は省きましたところ
    却ってゴチャゴチャしなくて良かったかも…ですw

  • はんぎょ

    はんぎょ

    2010/05/17 07:38:52

    以前くりすさんに教えていただいた、小説「アバター」もざっと読み、大変面白かったですが、バーチャルな電子データは、理性的に考えてみればはかないものではありますが、不思議な息遣い(?)を感じ、魅力もあります。

    そうした不思議さを、うまく表しつつ、背後にいるマスターの感情も、よく表現されていると思います。極めて完成度の高い作品だと思いました。

    …なんか書評みたいになってしまいましたが、とても楽しませていただきました。訪問者1万人突破、本当におめでとうございます☆

  • くりす

    くりす

    2010/05/17 04:44:38

    >sakino様

    ご丁寧にありがとうございます。って、いえいえ、そんなお気になさらずΣ(゜д゜)
    こんなの眠い目を酷使してまで読む価値はありません^^;
    暇な時にでも目を通していただければ幸いです。

    お祝いコメントもありがとうございます。
    はい、これからも楽しんでニコやっていきたいと思います♪
    これからの1年sakinoさんにとっても良い1年になりますように。

  • ぽち

    ぽち

    2010/05/17 04:16:28

    ぽちが ぽちっとお返し訪問

    10000軒 おめでとう♪

    マスター 電子の海 ポチは静電気になりそうだ

    アバターを愛しているマスターの心が物語になった気がする
    ときどき 消える データー いわゆる ページがある

    昨日もらったコメントのお返し訪問すると 無い もういない
    最初はショックだったけど、2度目3度目で・・・

    あっ また消えた そういう寂しさが 伝わる気がします

  • sakino

    sakino

    2010/05/17 03:22:14

    くりすさまへ

     私はもうしわけないのですが、目が悪くとっても読みたいのですが、

     この夜中の時間には厳しいものがあるので、また改めて伺って

     拝読します。10000軒目おめでとうございます。

     これからもステキなニコライフをおくってくださいね~

     またおいでくださいませ。

  • くりす

    くりす

    2010/05/17 02:10:37

    一周年記念という事で何か形に残る事をしたいと思ったものの、
    何かしら企画を立ち上げるという余裕も気力もないのでささやかながら
    こういう形(自作小説)でちょっとだけいつもと違う事をしてみました。

    何だか厨二病っぽいタイトル(英語仏語ミックス)とか内容でお恥かしい限りですが、
    視点を変えてアバターの気持ちとかを私なりに解釈表現してみました。
    読んでくださった方の中に誰か1人でも何か感じるものがあれば幸いです。