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ラト

なに描こか?なに伝えよか?

北の少年 砂海編 20

自作小説

このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣(メタモルフ)の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。

長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;

感想のコメントはとても励みになりますです^^v


バールのオアシスには、いくつかの共同井戸がある。
ここに住む住人や砂海を渡る旅人たちは、この井戸から水を汲み上げて生活や旅に必要な水を補給していた。
ロヴもお湯を沸かすための水を、一番近くの井戸まで汲みにきていた。
少年がラルムと出会ったのは、その帰り道だった。
大きな水桶を運ぶロヴを見て、ラルムはすぐさま手を差しだした。
「ロヴ、水は俺が持っていく。お前は治療士の先生の手助けをしてやってくれ」
ラルムはほろ苦い微笑を浮かべて、言葉を続けた。
「今は俺のほうが、足手まといになる。今度はお前の出番だ」
「ラルムさん…」
「ジェンの命に別状はないそうだ。俺もそう思う。ただ怪我をして動きすぎたから、出血がひどくて意識がないようだがな」
「解りました。じゃあ、これ、お願いします!」
「まかせとけ、風呂に入れるぐらい、沸かしておいてやる」
身軽になった少年は、全速力で宿舎のほうへ駆け出した。
その後ろ姿を見送りながら、ラルムはつぶやいた。
「よっぽど心配していたんだな…」


治療魔法士がジェンの手当てを始めようとしたとき、彼女は意識を取り戻したらしく微かに目を開いた。
「気がついたかね」
彼の問いかけに、視線を動かして今いる場所を確かめてから、ジェンは口を開いた。
「ここ…は?」
「傭兵用の宿舎だ。これから傷の手当てをする」
話しながら手を休めることなく、濡れた薄物をジェンの上半身から脱がせていく。
左腕の傷はもう出血も止まって、それほどひどくはなかった。
問題はまだ血が止まらない、左わき腹の引き裂かれた傷だった。
鋭い鉤爪で斜めに3本、深く切り裂かれていた。
生々しい傷口からは、まだじわじわと出血が続いて寝台を紅く染めている。
その上、人狼の毒に犯されているのだ。
「消毒をするから痛むぞ」
そう警告してから、清潔な布と水で傷口を清めて、消毒作用のある薬草から調合した軟膏を塗りつけた。
その痛みにジェンの体が少しだけ強張った。
だが、うめき声一つもらさなかった。
ジェンの体には、いくつもの傷跡がある。
どれも古いものらしく、白っぽくなっていた。
中には致命傷と思われる傷跡もあった。
(ふむ…、このジェンという傭兵は見た目以上に、戦の修羅場を踏んでいるようだな)
すり潰した血止めの薬草と解毒の薬草を混ぜたものを、乾いた布に広げてわき腹の傷全体の上にかぶせる。
傷にしみるはずだが、ジェンは今度もうめき声を上げなかった。
ロヴが戻ってきたのは、ちょうどこの時だった。
あいていた寝室の扉から上体を突き出して、中を覗き込んだ。
「先生、ジェン、の、様子は?」
ぜいぜいと荒い息をつきながら、そう質問する。
「心配することはない。手が空いているなら、包帯を巻くからジェンの体を支えてやってくれ」
「はい」
「寝台の向こう側に回って、支えてくれ」
治療魔法士の指示に従い中に入って、初めてジェンが半裸で寝台に寝かされているのに気がついた。
ロヴは今までジェンの素肌は、よく日に焼けた顔や手足しか見たことが無かった。
彼女の素肌の予想以上の白さに驚き、思わず視線を逸らせてしまった。
非常時だというのに、ほほが赤くなっている。
「ロヴ、早くしてくれ」
「は、はい!」
声をかけられて我にかえったロヴは、あわてて治療魔法士と反対側の寝台の脇に移動した。
そして、ジェンの背中にそっと腕を回して、彼女の上体を起き上がらせた。
(ジェンてこんなに小さかったんだ…)
予想していたよりも、ジェンの体は小さく思えた。
二人で並ぶと、まだジェンを見上げないといけないほどの身長差がある。
活発に動き回っている彼女は、いつも大きく思えた。
今までロヴの意識の中では、ジェンという存在は大きく聳え立つ目標のような存在だった。
だが、たった今、ロヴにとってジェンの存在が、初めて女性として意識されたのである。
何気なしにみたジェンの左わき腹の傷口に、黒いもやのような物が漂っているのに気がついて、ロヴは思わず声を出してつぶやいた。
「…この黒いのはなんだ?」
このつぶやきに反応したのは、治療魔法士だった。
毒に犯された毒気を視認できるのは、魔法が使える者だけだ。
ロヴにはどうやら、それが見えているらしかった。
「ロヴ、君はこの傷口の周りの黒いもやが見えているのか?」
包帯を巻きながら、さりげなく問いただしてみた。
「はい、ここと、あと左手の傷のまわりにも見えます」
「そうか、よし、そのまままたジェンを寝かせてやってくれ」
少年に指示を与えつつ、治療魔法士は確信した。
ロヴには、魔法使いの才能があるということに。

  • ラト

    ラト

    2010/05/28 19:21:14

    たかりんさま
    怪我をすると、人間、気弱くなりますからね^;
    本当の自分が大きく出てきます。
    さて、ジェンの年はいくつなんでしょうかw?
    そのうち、謎解きいたします。

  • たかりん

    たかりん

    2010/05/28 18:49:31

    ラルムに続きロヴにも女性の魅力を放ってしまったのね…
    というよりは普段は封印しているといった方が正しいか!☆

    古傷がいっぱいで、戦士としてのキャリアもそこそこ長そうなジェン。
    いくつ位の女性なのかな~。


  • ラト

    ラト

    2010/05/18 20:49:31

    momokaさま
    まだ解らないよw
    魔法使いの才能があるとわかっただけだからw

  • momoka

    momoka

    2010/05/18 20:32:44

    ロヴが魔法使いなんて....

    想像してませんでした><

    勇者になると思ってました。

    ハリポタみたいにすごい人なんだね^^

  • ラト

    ラト

    2010/05/18 19:07:46

    らてぃあさま
    ロヴは一応、魔法王国の世継の王子だからなあ。
    どういう風に書いていきましょうか?w

  • ラト

    ラト

    2010/05/18 19:06:22

    だあくさま
    それは、すんません@@;脳内映像不気味すぎかもw
    え~、恋愛って何や? の作者なんで、どーゆー展開になるかなw

  • らてぃあ

    らてぃあ

    2010/05/18 18:34:13

    ロヴの魔法使いとしての可能性、楽しみですね

  • だあく

    だあく

    2010/05/18 17:19:16

    おお・・・
    「もののけ姫」の 祟り神の呪いの あのどろどろを思い出しました^^;
    ジェンに女性を感じたロヴ・・・  2人はどうなるのかしら~