ギガピャ

現代版・竹取物語(後編2)

自作小説

武雄は唖然とした。
月代が宇宙人?そんなことなどあるわけがないと思った。それも当然のことだろう。武雄でたくても、そんな話を信じることはないのだろうから。
だが、月代が嘘や冗談をいうとも思えない。この話をしているときも真面目な表情であり、ふざけているとは到底思えないのだ。
そこで武雄はあることを思いだした。80歳を過ぎている武雄は普段、民放を見ることはないのだが、最近は自分のことを宇宙人やそれに似たような発言をしたり、無知をテレビで披露したりして人気を得ている芸能人がいることを。それらは計算による部分があるのだろうが、大学も企業も勉強や働くことばかりだった武雄には理解できない部分だったため、全て素で言っているものだと思っていた。だから、月代も俗にいう”天然”という分類の人物なのではないだろうか。武雄はそう思うと、他所の娘がそのようなことを言えば鼻で笑ったり軽蔑すらするのだろうが、月代がますます愛おしく思えた。
そんな武雄の考えを察したのか、月代はこれは本当の話であり証拠もあると言った。そしてその証拠であるDVDを持ってくると再生をした。

DVDに映っていたものは、衝撃的を通り越してエキセントリックといえるほどの物だった。映像には馬車のような乗り物の前で人間らしき2体の生物が、カメラに向かって語りかけている光景があった。どうやら月代の両親らしく、内容は今までの礼や迎えにくる日時を伝えるものだった。

武雄はよく出来た映像だと思った。まだ信じてはいなかった。それもそうだろう。こんな映像を見てなにをどう考えればいいかすらわからないというのは、他の人物が見てもそう思うだろう。宇宙人が使用する乗り物がなぜ馬車のような物なのか?かなり突っ込みどころが多い映像だと思えた。
が、武雄はこの映像の意味を違う方にとらえた。それは、こんな映像を産みの親が送ってきたのは、20年間も月代を育ててきた沖菜夫妻が易々と手放すと思わなかったなどの理由で、こちらを動揺させたり、信じず油断している隙に月代を連れて行こうとしていると思ったのだ。
確かに自分の腹を痛めて産んだ子供だから、また子供と暮らしたいというのは理解できる。武雄も陽子も先が短いため、月代の幸せを考えれば1人になるより、産みの親の元に行くのが最善だろう。しかし、このような映像を使い、沖菜夫妻ならまだしも純粋な月代を惑わしてまで引き取ろうとしている産みの親が許せなかった。

迎えに来る当日。沖菜邸には最新鋭の警備システムと大勢の警備員がいた。これらは鑑定士のときのようなコネを使ったものであり、宇宙人の件は説明しないことにした。これで鼠だろうがキングアラジンだろうが侵入することは出来ないだろうと武雄は思った。
月代は産みの親がこれらの警備を掻い潜って来た場合はついて行くことにし、それを沖菜夫妻も了承したため、陽子が着物に着替えさせていた。

そして予定の時刻。沖菜邸の上空から、まばゆい光が差し込んできた。武雄は急いで庭に出て行くと、馬車のようなものが降りてくるのが見えた。
どんなトリックを使っているのかはわからないが、兎に角追い払うだけだ。そこで武雄は金縛りにあったように体が動かないことに気づいた。警備員は全員気絶しているらしい。
しかし、月代だけは動けるらしく馬車に乗り込んでいくのが見えた。武雄は叫ぼうとしたが声が出ない。そんな武雄の方を振り返り、月代は微笑んだ。
こうして沖菜夫妻と月代との生活は、悲しい別れで終わった。

馬車型宇宙船の中。月代は本当に宇宙人だった。
「予定通りいったね」
「だけど、沖菜さんには悪いことをしたのでは」
満足げな父親に、母親が心配そうに言った。
「いいんだよ。こっちだって苦しいのだから。現在、私達の星は危機的状況に瀕している。少子高齢化やゆとり教育による学力低下。それによる教師の質の低下や人数不足。不景気も加わり、子供達に満足な教育を受けさせることもできない状態だ。だから、容姿や言語のみならず生活スタイルも近い、日本という国に子供を送って育ててもらったんじゃないか。相手もちゃんと考えて、金銭にも時間にも余裕はあるが子宝に恵まれなかった老夫婦。竹林にしたのも、人気がないことを利用して捨て子を警察に届けず育てると思ったから。だけど20年間でも子育てを経験できたんだから十分だろう。こっちも子供を手放すのは苦しい思いをしたんだし」
母親も納得したようだ。月代も頷いている。
「じゃあ、月代も戻ってきたことだし外食にでも行くとするか」
地球でも見せたことがないほどはしゃいでいる月代を見て、父親はそう言った。
宇宙船の中にあるモニターにあるものが映っている。それは日本中の竹林で光が放たれている光景だった。

【完】


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