ようこそお越し^^

ラト

なに描こか?なに伝えよか?

北の少年 砂海編 43

自作小説

このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣(メタモルフ)の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。

長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;


「ま、待って!」
そう叫んでロヴは、勢いよく半身を起こした。
その勢いで傍らに寄り添って寝ていたカイルが、寝台から落ちそうになったほどだ。
四本足の爪を全て毛布に立てて、カイルはなんとか踏ん張った。
背中の毛を逆立てて、ロヴを睨みつける。
(いきなり、なにすんねん!もうちょいで落ちるとこやないか!どないしたんや?)
カイルは盛大に文句を言いながら、ロヴのそばまで歩みよった。
半身を起こした少年は虚空を見据えて、心ここにあらずという表情だ。
しっかりと握りしめた両手が、小刻みに震えている。
すぐそばにいるカイルの存在すら、気が付いてはいないようだった。
その様子にただならぬものを感じて、カイルはあわててジェンの心に話しかけた。
(ジェン、ロヴの様子がなんかへんやで!)
いつもならすぐに答えが返ってくるのに、しばらく答えがなかった。
(…どうした?カイル)
生き生きとしたジェンの心の声とは思えない平板な声が、遠くから返ってきた。
どうやらジェンの方にも、なにか変事があったようだ。
(ジェン、なにがあったんや?)
ジェンの答えはなかなか返ってこなかった。
(ジェン、どないした!?)
さすがに楽天的なカイルも焦りを覚えた頃、やっとジェンの声が答えを返してきた。
(人狼が死んだ…自ら命を絶った。…ロヴがどうかしたのか?)
(なん…やて?)
今度はカイルが絶句する番だった。
人狼に肉を食べさせ、話をしてからそんなに時間は経っていない。
人狼の持つ情報をもとにケニスと交渉したら、なんとか人狼を自由にしてやることが出来るかもしれない。
カイルはそう思っていたし、懐の深そうなケニスなら交渉しだいでそれも可能だと思えた。
また、ジェンの人柄に触れたら、人狼も話してくれるだろうと楽天的に考えていた。
それなのに。
人狼は自ら命を絶ったというのだ。
自ら命を絶つことを最も禁忌としているジェンが、ここまで心を押えつけているのも無理は無かった。
平板で静かな心の奥底では、大嵐が吹き荒れているだろう。
(そうか…解った。ロヴのことは大丈夫や。俺にまかしとき)
カイルは勤めて平静に、ジェンに話しかけた。
(ケニス殿に話をしたら、すぐに戻る。契約破棄になるかもしれないしな)
ジェンとの心の繋がりは、ここで唐突に切れた。
雇い主のケニスに報告するために、ジェンが心の障壁を閉じてしまったのだ。
カイルは目を閉じて、人狼に文句を言った。
(なんで、死を選んだんや。あほが!)
人狼の自分を見つめる目。
不思議そうな金の目が、カイルの脳裏に蘇ってきた。
『おまエ、変ダ。ばかなのカ?』
たどたどしいあの言葉は、人狼の最大の親しみをこめた言葉だったのかもしれない。
どうして自分と対等に話すのか、という問いかけだったのかもしれない。
彼は、人狼は、一年もの長い間、いつ現れるかわからない『ロウ・ヴェイン』を待っていたのだ。
だから待ち続けた『ロウ・ヴェイン』、つまりはロヴに、最期の挨拶にやってきたのだろう。
魂の存在となって。
今の心ここにあらずの少年の様子から、カイルはそう推理した。
ロヴは何かを必死になって聞きとろうとしているようだ。
虚空を見つめて真剣な表情で、なにかを聞きとっている。
カイルの心にも、ロヴが聞きとろうとしている音が聞こえたような気がした。
それは狼の遠吠えだった。

ジェンが人狼の亡骸が眠る小屋の外に出ると、ちょうど若い傭兵ルークが戻ってくるところだった。
「ジェンさん、お待たせしてすみませ…、あの、なにかあったんですか?」
見張りを交代する前のジェンと、目前の彼女との様子はまるで違っていた。
交代する前は顔色こそ悪かったが、生き生きとして生命力に溢れていた。
だが、今のジェンはひと回り小さくなって、半病人のように見えた。
「やっぱり、無理してたんですね。すみません。俺のせいですね」
「…ちがう。ルーク、そうじゃない。ラルムに伝えてくれ。人狼が死んだと。私はケニス殿に報告してくる」
ジェンは視線を合わせる事も無くそれだけ伝えると、若い傭兵をその場に残して足早に歩き去った。
「え?死んだって、ジェンさん、待ってください。あの、いったい何が?」
ルークは驚きと混乱の中に取り残された。
だが、ジェンの残したただ一つ理解できた言葉、『ラルムに伝える』を実行するため彼のいる場所、すなわち今までいた傭兵達の宿舎の方へ駆け戻っていった。

  • ラト

    ラト

    2010/07/28 21:30:42

    だあくさま
    カイルは自由な自分と人狼の境遇を比べて、その違いに心を痛めたんでしょう。
    だからこんな結末はたまらないと思います。

  • だあく

    だあく

    2010/07/28 18:53:50

    カイルも 同じメタモルフとして 力になってあげたかったのに。。。
    悲しいですね;;

  • ラト

    ラト

    2010/07/27 20:31:34

    たかりんさま

    人狼も命の流れに返っていけたと思うんですが・・・。
    さて、いよいよ悪の魔法使い登場の予定です。
    歩みが遅いのがあれですが、これからもよろしくです。

  • たかりん

    たかりん

    2010/07/27 19:43:12

    『おまエ、変ダ。ばかなのカ?』
    このセリフと一緒に人狼の、せつなくて、ちょっと可愛らしい表情が浮かんできました。

  • ラト

    ラト

    2010/07/26 19:01:23

    シンさま
    お仕事忙しいんやから、謝らなくてもw
    お疲れさまです。
    予定通りとはいへ、登場人物が死を迎えました。
    砂梅編も山を一つ越えました。
    いよいよ、北の大地へと向かう予定です。

    後半突入に…なるのかな?

  • シン

    シン

    2010/07/26 10:05:12

    しばらくコメもできずm(__)m
    夏休み突入のひとつのピークを終えました。

    物語の方もひとつのピークを過ぎたようですね。
    お盆には人狼にも合掌しておきます...

  • ラト

    ラト

    2010/07/25 21:19:06

    momokaさま
    カイルもジェンも、人狼の死にショックを受けてしまったようです。
    この経験が、どう影響していくかは、これからの展開を待ってください。

  • momoka

    momoka

    2010/07/25 08:42:19

    カイルも人狼を助けてやりたい気持ちだったのに

    自ら命を絶って悔しい気持ちがよく分かります。

    ジェンも人狼が死んでしまい、疲れたようすで

    早く元気になってほしいですね"^_^"