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ラト

なに描こか?なに伝えよか?

北の少年 砂海編 44

自作小説

このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。

長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;


ケニスは難しい表情で、目前の女傭兵を見つめていた。
妻のメルガは二人の顔を交互に見比べて、顔を曇らせていた。
ジェンは無表情で、彼の前に立ち尽くしている。
彼女がいるのは、先ほどロヴと二人でケニス夫妻と会見した応接間である。
たった今、彼女は人狼とのやり取りと、彼が死んだことを報告し終えたのだ
その結果、ケニスがどのような判断を下しても、ジェンは素直に従うつもりだ。
見張りをしていた傭兵をだまして、雇い主の彼に隠れて人狼と話をした。
その結果、人狼は死んでしまった。
どのような理由にせよ、この責任は自分にある。
ケニスがどんな決断を下しても、文句をいえる筋合いはない。
ジェンはそう考えていた。
先ほどから両者にとっては、居心地の悪い時間が流れていた。
ケニスはどうしたものかと悩んでいた。
まさか、謎の多いロウ・ゼオン王国の情報を持っている人狼が、自ら死を選ぶとは思いもしなかったのだ。
しかもジェンが、独断専行で人狼に会いに行くとは予想もしなかった。
厳密に言えば、ジェンは契約違反をした訳ではない。
雇用主であるケニスと、ジェンとの間で交わされた契約はこうだ。
傭兵ジェンはケニス・キャラバンがロウ・ゼオン王国の王都にたどり着くまで、ケニスの奥方メルガの護衛を勤める。
彼女の従者ロヴは、ケニス・キャラバンの下働きとしてこの旅に同行する。
ジェンの相棒、メタモルフのカイルはその任務に協力する。
二人と一頭はその契約を今まで寸分も違うことなく、十分な働きでもってこなしていた。
特に昨晩の人狼の襲撃を、ジェンとカイルは身をもって撃退した。
人狼を生け捕りにするという、おまけまでつけてだ。
そのせいでジェン本人は瀕死の重傷を負っている。
一歩間違えたら、妻のメルガもジェンも間違いなく命を落としていただろう。

本当のところ、人狼はロウ・ゼオンの王家の血をひく『ロウ・ヴェイン』を探して、メルガ達に襲いかかったのだ。
ジェンはその時、ロヴが『ロウ・ヴェイン』である事を知らなかった。
ケニスやメルガも知らなかった。
今はその事をケニスとメルガは知っている。
たぶんジェンも知っているだろう。
表向き、ケニスはジェンが「ロヴがロウ・ヴェインであると知っている」と知らない事になってはいるが。
かなりややこしい状況ではある。
だがただ一ついえるのは、ジェンが契約違反をしてはいなということだ。
そのため、契約違反を犯したとして、彼女との契約を破棄することはできない。
また、ケニス自身にも契約破棄をする気は全くない。
ただ、ジェンがケニスの傭兵をだまして人狼と会い、話をしたことは問題だ。
その為に、大切な情報源の人狼が死んでしまったとあっては。
ジェンもそれをよく承知しているからこそ、こうして全てを報告したのだ。
ケニスはちらりとジェンを見て、視線をメルガに移した。
メルガはすがるような目で見返してきた。
(あなた、どうかジェンを咎めないで下さいな)
メルガの緑青色の瞳がそう訴えている。
(わかっていますよ、奥さん)
ケニスは目で微笑んでから、ジェンを正面から見つめなおした。
ジェンは目をそらすことなく、彼の視線を受け止めた。
何の迷いもない真っ直ぐなその視線に、ケニスは決心を固めた。
自分の持ち札を全てジェンに晒してみようと思ったのだ。
「ジェン、貴方は相棒である共生獣と人狼の間で交わされた話を元に、人狼に会いに行ったのですね」
「はい」
「それは確かに問題ではありますが、今は人狼の持っていた情報を全て貴方が持っている。これに間違いはありませんね」
「はい」
「それでは、貴方を手放す事は愚か者のすることでしょう。情報を失うものは愚か者です」
ケニスはここで優雅に微笑んだ。
「私は愚か者にはなりたくない。傭兵としての貴方、優秀な護衛としての貴方、そして情報源の貴方を失うつもりはありません」
「…ありがとうございます」
ジェンは大きく息を吐いて、深々と頭を下げた。
そんなジェンに向かって、ケニスは自分の知る真実を告げてみた。
「ジェン、私はロヴが『ロウ・ヴェイン』だと確信していますよ」
ジェンはさっと体を起こして、ケニスの顔を見つめた。
無表情だった彼女の瞳が、ほんのわずかだが鋼の色に変化していた。
観察力の鋭いケニスだからこそ気がついたような、わずかな変化だ。
(やはり、事実ですね。ロヴはロウ・ヴェインだということは)
ケニスの確信は、事実の確認へと変わった、
「できたら貴方が知っている事を全て話してほしいのです。もちろん、ロヴ本人のことですから彼と話し合ってからでいいですよ。ある意味、それが原因で私の妻は襲撃されたのだし、多大な損害も受けたわけですから、私と奥さんには知る権利があると思うのですよ」

  • ラト

    ラト

    2010/08/07 19:52:42

    だあくさま
    知りたがり屋は何処にでもいますよね~w
    でも、ケニス氏は必然ではありますがw
    そうそう、もうすぐ来ます、ロウ・バルトw
    来させないと話がすすまない^^;

  • だあく

    だあく

    2010/08/07 16:59:37

    「報・連・相」
    社会人の基本を 思い出して ひとり笑ってしまいました^^
    こんな ケニスみたいな知りたがり屋さん いますねww
    ロウ・バルトがくるんですか~~~  怖いです^^;

  • ラト

    ラト

    2010/08/03 21:54:57

    たかりんさま
    後半、ロウ・バルト氏が出張ってくるでしょうしねw
    知っておくとおかないじゃ雲泥の差でしょうし。

    にしても、今回は書くのが楽しかった♪

  • たかりん

    たかりん

    2010/08/03 20:29:32

    確かにケニス夫妻には知る権利があるよね。
    ロヴがいる事によって、更なる敵に襲われる可能性が大なわけだし。

    これからの展開ドキドキです!

  • ラト

    ラト

    2010/08/02 21:56:10

    momokaさま
    ケニスさんが知りたく思うのも、まあ最もかと思いますw
    にしても、素直に聞けないのが大人の事情だなあ^^;

  • momoka

    momoka

    2010/08/02 21:09:10

    ケニス氏の気持ちも

    分かりますね。

    ジェンの知ってる事を

    聞きたい気持ちもわかりますね。

    本当なら殺されたかも知れないですからね><

  • ラト

    ラト

    2010/08/02 20:02:03

    シンさま
    今回、ケニス氏を書くのが楽しくて楽しくて♪
    ずいぶん字数オーバーして、あっちこっち削るのに苦労しました。
    そう言ってもらえて、彼も本望でしょうwww
    素直に可愛く小首をかしげて
    「教えて(はあと)」じゃ、話になりまへんわ^^;

  • シン

    シン

    2010/08/02 12:46:32

    権利を笠に着た知りたがりの好々爺か、お前はww

    知りたくて仕方ないんやろw
    素直に「教えてちょーだい」って言いなはれ^^