ようこそお越し^^

ラト

なに描こか?なに伝えよか?

北の少年外伝 雨の日の出来事 1

自作小説

夕暮れ時、いきなりの大雨にであったジェンは、街道脇の森の中に進むように、ルーダに指示を与えた。
小柄な草原馬は、少しだけ嫌そうに足踏みをしてから、その指示に従った。
嫌だけど、仕方がないから言うことを聞いてあげたのよ。
そう、自己主張をしたのだ。
「まったく、おまえさんは面白い娘だよ」
機嫌よく馬の首を軽くたたいてから、ジェンと馬は森の中へ分け入った。
(ジェン、こっちにちょうどええ木があるで。、大きな楓の木や。親切そうやで)
頭の中で、相棒の共生獣(メタモルフ)カイルの声が聞こえた。
どうやら先行して森に入ったカイルが、雨宿りと野営に適した木陰を見つけたようだ。
カイルが心に送ってくる映像を頼りに、ジェンは馬を進めていった。
ほどなくして、少し開けた場所につくと、小さな灰色の猫が、大きな楓の根元にちょこんと座っていた。
満足そうな様子で、長い尻尾をゆらゆらとさせている。
(ご苦労さん、カイル。今日はここで野宿だなあ)
雨足は少し鈍くはなったが、にわか雨じゃなく本降りの降り方に変化している。
(昼間に町で仕入れた酒が、長い夜にちょうどええんとちゃうか?林檎の蒸留酒やろ?)
(ああ、懐かしのトーナの名酒だ。思わず買ってしまったよ)
ほろ苦い笑みを浮かべて、ジェンはルーダの背から飛び降りた。
そのまま手綱を手にして、カイルのそばまで歩いていく。
「さて、お嬢さんの世話をしてから、今晩の準備を始めるとするか?」
(ええで~。水場もちゃんとめっけたしな。俺にもその酒、味見させてや~)
「のん兵衛の猫なんぞに、誰が呑ませるか」
そういいつつ、ちゃんと彼女が呑ませてくれることをカイルは知っていた。
カイルとジェンはいつもそうして、長い夜を過ごしてきたのだ。

夏の夜だから、火を焚くことはしなかった。
昼間に立ち寄った町で、食料はたっぷりと買いこんである。
今晩の食事は、細く切った根菜の細切りに肉を巻いて、こんがりと焼き岩塩をまぶして冷ましたものと、小さな林檎、チーズとパンという旅の食事としては豪華なものとなった
(干し肉なんかとは味がぜんぜんっちゃう~。さめてもうんまいわ~)
カイルは目を細めて、冷肉をほおばっている。
たまに、舌なめずりをしてひげについた油をなめとっていた。
その様子は猫にしか見えない。
共生獣じゃなく、やはり猫のお化けじゃないかと思いつつ、ジェンは小さな素焼きの壷を荷物のなかから取り出した。
それから銀の小さな杯と小皿も引っ張り出した。
壷の口は蜜蝋で厳重に封がしてあり、三本の木の紋章が押し付けられている。
ジェンが所属するエルザの傭兵ギルドは、この紋章の国トーナにある。
この紋章が刻印されているのは、トーナで作られたものだという証しだ。
思わず買ってしまった林檎の蒸留酒が、この小さな壷の中にある。
トーナの蒸留酒は、怪物殺しと呼ばれるど強い酒がおおい。
その素焼きの壷があまりにも懐かしくなって、ジェンはおもわず買いこんでしまった。
(酒や~呑ましてや)
底なしの酒飲み、カイルが嬉しそうな、歓声をあげた。
ジェンは苦笑を浮かべつつ、ナイフで蜜蝋の封印をこそげとり、中蓋をこじあけた。
かすかな林檎のかおりと、えもいわれぬ芳醇な香りがあたりに漂った。
ジェンは目を閉じてその芳香を楽しんだ。
香りと共に、蒸留酒を口に含んだ時のかっとやけるような感触と、舌に広がる仄かな甘さと林檎の酸味とが蘇ってくる。
その懐かしい味に笑みを浮かべて、彼女は最初の数滴を大地への捧げものとした。
全ての恵みは、地なる母から生まれ出ずる。
この時代、大地に感謝を捧げるのは当然の行為であった。
しばし、地なる母への祈りを捧げた後、ジェンは杯と小皿に林檎の酒を注いだ。
(ええ香りやなあ~たまらんわ~)
ジェンがおいた小皿の前で、カイルは尻尾をピンと立ててかがみこんで酒をなめはじめた。
(ううっ、この刺激がたまらんのや)
喜悦の声をあげて、あっという間になめ切ってしまう。
(おっかわり、おっかわりったらおっかわり♪)
ジェンが香りを楽しんでいる間に、カイル2杯目に突入する。
「まったく、いくらあっても足りないぞ」
そうこぼしつつ、ジェンも銀の杯をぐっと呷った。
舌と喉にかっと焼けるような感触が広がり、その後に芳醇な香りと味が広がる。
さっき蘇った味の記憶が、今度こそ本物として感じられる。
胃袋に届いた酒が一気に全身を熱くさせる。

その時だった。
背後から声が聞こえたのは。
「いい香りだ。旨いかね、嬢ちゃん」
ジェンとカイルに緊張が走った。
どちらも、全く人の気配を感じなかったからだ。



ああ、まだカルヴァドスゲットならず(;;)
代償行為やなあw

  • ラト

    ラト

    2010/08/07 09:02:29

    カズさま
    そうですよw
    人生の大半を酒とともに歩んでますから^^;
    これはまだゲットできないカルヴァドスへのラブレターかも?

  • カズ

    カズ

    2010/08/07 08:35:53

    ラトさんがお酒好きですか?
    じゃなくって大好きですか?
    この文章は酒への(異常なまでの?)愛着がなければ
    書けませんよ。