フリージア

叶わぬ願いはもういらない…6

自作小説

それでも、何とか県立球場の駐車場に車が到着した。ラジオではもう6回の裏だ。もちろん母校は負けている。
 注目の決勝戦だ、多くの敷地がある県立球場の駐車場でも、ほぼ満杯。駐車の空きスペースを見つけるのにも一苦労だ。案の定、球場からは一番離れている駐車場区画のそのまた一番奥にやっと空きを見つけた。
 「やっとあったよ」
 神田はスムーズに駐車し、僕を急かす。
 「成二!ぐずぐずすんな。みんな待っているんだぞ」
 「おお」
 「走るぞ」
 球場まで直線でも500mは離れている。走らなければならなかったが、この暑さだしこの長髪だ。球場の受付までで汗だくだ。
 パスをもぎりに渡すと歓声が聞こえた。
 「おい、なんかあったみたいだ。急ぐぞ!」
 内野席への階段を駆け上がる、たくさんの観衆だ。僕は真っ先に目に付くスコアボードを見た、僕の知っている過去、8対2で母校が負けている。
 後、3回の攻撃しかない。俺の憶えている限りでは、7,8,9回の三野高校のスコアボードにはゼロが並ぶ。
 僕と神田は同級生のみんなが集まっている応援席へと向かった。
 僕らのクラス、同窓会もかねての応援、みんなの顔が見えた。手を振って僕たちを二人を迎える。
 「遅かったな」
 久しぶりの挨拶を終え、俺はルミと友人である同級生を探した。

 その子の隣にルミはいるはすだ……はずだった。
 「本宮君、遅かったね」
 ルミを連れてくるはずの松原という同級生は、今の言葉のすぐ後に「この子、私の短大の友達で野川るみ」と続くはずだった。
 でも松原の隣にルミはいない、よって紹介されることもない。
 「ごめんね、遅れちゃって」
 そう言うしかない。
 八回裏の攻撃が始まった。無駄だとは分かっているが、けなげに応援だ。

 期待した僕が悪かった。いや、期待はまだ続く。今日会えないだけだ、彼女は確かに存在するし松原の友人だろう。いつか逢える。
 偶然でも必然でも、また逢える

 しかし偶然とは怖いものだ、いつ来るか分からない。どこから来るか分からない、そして僕にとってはその偶然が後ろから来た。
 「ごめんごめん」
 聞き覚えのある声、振り向くと観客席の階段をルミが降りて来た。