フリージア

叶わぬ願いはもういらない…10

自作小説

 今日は前期試験最終日、夢では夏休みだったな。
 大学に到着すると大勢の学生が試験に備えていた。講堂は、テストのため人がごった返している。僕はテストなど全くやる気が無かったために気分は上の空だった。皆、真剣で僕1人がこの世界の人間では無いように思えてくる。
 テストが始まってもルミの顔が頭の中でちらつき、脱力感がぶり返す。

 結局、全くできなかったテストを悔やみながら、昼飯を食いに学食へと向かう。足取りは悪かった。
 学食への道を歩いていると、後ろから神田が近づいてきた。神田の姿は珍しくスーツに見を固めていた、それもリクルートスーツ。彼は4年生、就職活動のようだ。
 夢で会う神田と実在の神田とは少し感じの違う。リーダー的なのは同じだが口調も紳士的でまじめな男だ。
 「久し振りだな成二、テストは終わりか?」
 「おー。全部終わった」
 僕らは一緒に歩きだした、極ゆっくりと。同い年だが、学年の違う神田と話すのは久しぶりだった。
 「成二はいいよ、まだ三年だから」
 「嫌味かよ?」
 「そうじゃないよ。俺たち4年は、もう就職活動の真っ最中だ、もう三社は落ちたよ・・・最悪だな」
 神田は苦々しい顔で天を仰ぐ。それに続いて、僕も天を仰いだ。
 「そうか、大変なんだな、まあ俺も気分は最悪なんだけどさ」
 本当に最悪だった。テストの事もそうだが、もちろん虚しい夢の事が頭を支配する。
 「テストのできが悪かったか?でもこれから夏休みって時期に最悪なわけ無いだろ」
 「……」
 「彼女がいないから面白くないのか?」
 神田は痛いところを突いてくる。
 「その顔を見ると図星だな。そんなに彼女がほしいなら、コンパでもしたらいいじゃないか。俺はこれから就職活動で忙しいから世話してやれないけれど、同期の奴らと一緒にさ」
 それでも俺は声が出なかった。今日の夢は最悪すぎる、俺の願ったタイムスリップが無いものとなったのだから…

 「もしかしたら・・・・野川ルミの事か?」
 神田は正解だと断定して話し出した。
 「もう忘れろよ…なんて言っても、おまえにとっちゃ難しい事だろうしな。そこまで思いつめているのなら、一度会ってみるのも手なんじゃないか?あっちには新しい彼氏がいるのかもしれないけど、それならそれでスッキリするかもしれない」
 「…」
 会ってみろとアドバイスを受けたのは、これが初めてだった。それでも僕にルミと会う考えは生まれなかった。
 「悪い方にばっかり考えがちだけど、あっちが独り者なら、またチャンスが有るかもしれない」
 「今更どんな顔して会えばいい?」
 「…じゃあ、やっぱり忘れるんだな、違う女を見つけるしかない。冷たいようだけど俺は背中を押してやることしかできない、決断するのはおまえ自身だからな」
 突っぱねた言い方で僕の気持ちを奮い立たせてくれるのだが、ルミの事に関してはそう簡単にいかなかった。
 それでも、そうやってアドバイスしてくれる神田に対して有り難く思った。
 「そうだな…わかったよ」
 「あんまり思いつめるんじゃないぞ。俺急ぐから。じゃあ、またな」
 「おお、就職活動がんばれよ」
 神田は軽々と足を上げながら、駐輪場へ走り出した。