フリージア

瞳の中の少女…5

自作小説

 掃除が終わるとすぐに臨時の全校集会が体育館で行われた。
 内容はもちろん河合有紀の死去。
 校長がこの間からの通り魔事件を話し、今回の死者が出てしまったことを話す。河合さんの友人の女生徒たちは、皆すすり泣きを始めた。河合さんは登校途中に襲われ、学校から直線で約三百メートルというところで意識を失っていたらしい。
 運が悪く、登校中の生徒がたくさんいる朝にもかかわらず、全く人気のない路地で目撃者もいないと言うことだった。
 一連の事件の時間帯、そして手口も同じのよう。校長は通り魔に気をつけるようと念を押すと、集会は終わった。
 「運が悪いよな」
 誰だか分からないが、近くから聞こえた。
 そうか、そんな言葉で片づけられるのか。それを聞いた僕は、河合さんとはそれほど親しい仲ではなかったが、同じクラスメイトとして複雑なそして悲しい気持ちになっていた。
 全校集会が終わり、それぞれのクラスに戻る。僕らのクラスは体育館から戻ってきても、涙の流れる音が絶えることはなかった。担任から再度説明がある、それがより女生徒の目に涙を溢れさせた。
 今日は部活動も禁止され、校舎から一キロ圏内を離れるまで集団下校が命じられた、帰りが同じ方向の生徒が振り分けられ、僕は桂木と一緒に帰ることとなった。
 僕らは学校を出るまで一言も喋らない。その時は全校生徒がそうだったかもしれない。下校時は帰宅する生徒の声、部活の活気ある咆哮が心地よく聞こえてくるはずなのに、今は無機質な足音しか聞こえない。
 校外には早くも聞きつけてきた取材陣が数社来ていた。何人かの生徒に取材を行っていた。
 数分が経ち、蜘蛛の子を散らす様にいなくなっていく生徒が、僕たちの周りに全くいなくなると、桂木がようやく喋りだした。桂木は事件とは関係ないことを話す。
 「なあ、放送部で今度さあ、○○流してくれよ」
 僕は放送部だ。桂木の声は無理矢理にテンションを上げた声。僕はそれをちゃかさず真剣に答える。
 「いいよ」
 正直言葉が続かない。せっかく桂木が話のきっかけを作ってくれたのに、話す気になれない。なぜなら、僕は違うことを考え始めてしまったから。
 僕は朝の母との会話で、事件を楽観視していたことを反省していた。どこかで自分の身には何も起きないことを予感していたことが、今は腹立たしくてならない。
 「犯人を捕まえたいな」
 僕は本気で思っていた。
 「そうだよな、捕まえてーな」
 桂木も同調する。
 二人は肩を落として歩く。
 「ちょっと」
 それから暫くすると後ろから声がする。気配が感じられないのに突然声をかけられ、びっくりして後ろを見る。後ろには端整な顔立ちの生徒がいた、仙道君だった。桂木は見ると同時に声をあげる。
 「仙道!?」