瞳の中の少女…9
事件から二日が経ち、僕たちのクラスは河合さんのお葬式に行くこととなった。葬儀場はたくさんの紅葉の木に囲まれている、だいぶ散ってはいるが濃い赤が映えて綺麗だ。葬儀場が、こんなに情緒あるところだとは知らなかった。この雰囲気で、ご遺族の方を少しでも癒そうとしているのだろう。
しかし、その情緒に似合わない報道関係の人たちが大勢駆けつけていた。本当ならばテレビに映ったと喜ぶのだろうがこんな状況だ、僕は溜息が出る。
式場に入ると、たくさんの花々が遺影を囲んでいる。その写真の顔は笑顔だった。
葬儀場のなかの白と黒しかない空間、その中で満面の笑顔の写真は眩しく映り僕の網膜を異様に刺激する。不快な気持ちではなく、僕は遺影を見ないよう目を伏せた。
1時間ほどで式が終わり、学校へと戻ることとなる。担任はレポーターに捕まりコメントを求められていた。それを横目に見ながらずいぶん散ってしまった紅葉を、皆が踏んでいく。
僕は無意識に立ち止まってしまった、近くにいた友人は「どうしたの?」と声をかける。
「いや、何でもない」
そのとたん葬儀場に綺麗に散って落ちている紅葉の赤が血のように見えたしまった。突然に不快な気持ちになり気分が悪くなった。周りの人たちは何事もなく血の様な絨毯を歩いていた。
仙道君の告白があってから彼の身辺を調べるつもりでいたんだけど、ハッキリ言って無謀としか言いようが無かった。桂木の指摘は的を射ていたんだ。
まだ入院している3人の被害者に僕みたいなただの好奇心旺盛な高校生が会えるはずも無く。ストーカー案を手に持っただけで、早くも暗礁に乗り上げた。
仙道君の共通点を叔父に話したが、それを考慮に入れるようなそぶりは見ることができなかった。やはり警察は幅広い可能性で、犯人を追っているようだ。
叔父もストーカー犯罪を思い浮かべたかもしれない。でも、それを聞くこと事件に介入することは僕には許されるはずが無かった。
僕は自分自身の推理を練り直す。
犯人の可能性がある人物は女性。それも仙道君を異常に愛している。普段から仙道君の動向を知ることができる人物。
そして、これが重要。仙道君が告白されたことを知っている人物。
それはやはり現時点で仙道君の知り合い、もしくは海沢高校の女生徒ということになるだろう。
仙道君は告白されたことを誰にも話していないといっていた。
ラブレターを渡された時や告白された時には周りに人はいたという。
きっとその中に犯人がいたんだ。
嫉妬に駆られたストーカーが、自分の邪魔者を消していく。
誰にも言えない。僕だけの推理。正解に近いと感じながらも、一高校生として何もできることは無い。
日々の登下校時、学校周辺の巡回が多くなったパトカーを見る度に、自分の無力さを痛感していた。