フリージア

瞳の中の少女…13

自作小説

 時は無情にも過ぎ去り、殺人が起きてから二ヶ月が経った。十二月になり街もクリスマスの準備で忙しくなっている。
 僕はサンタクロースの赤と白の衣装を見ると、今でも無性に胸が苦しくなる。なぜなら子供の頃、クリスマスプレゼントを貰ったことが無いからだ。親もケーキやツリーは用意してくれるのだが、肝心のプレゼントは…
 友達がサンタはいるのかいないのかを話している時、僕はその輪にすら入れない。あの時は、いるのかいないのかの問題ではなく、本当に存在してくれと空に向かって祈っていた。
 しかし、クリスマスの日に枕元にそっと置かれているはずのプレゼントは、影も形もなかった。悲しくて途方に暮れた。
 両親はなんで気がつかないんだろうと思っていた、僕がサンタさんからプレゼントを貰っていない事実を。
 登校中に商店街を通り、クリスマスのディスプレイを見て、また嫌な時期を思い出してしまった。
 そう街はもうクリスマス一色、河合さん殺害事件も少しずつ薄れていく。
 事件の証拠や新たな事実も発見されぬまま時が過ぎてしまい、新聞やワイドショーも事件について取り上げなくなっていた。
 警察は相変わらず学校周辺の警戒は続けられている、僕はパトカーも見慣れてしまった。
 
 僕はあれからずっと考えていたが、やはり仙道君のストーカー説を変えてはいない。
 そして、この学校の関係者だということに推理を絞り込んでいた。
 疲れるほど疑心暗鬼になってしまう。仙道君をストーカーしているのは近くにいる女性徒なのかもしれないと…
 責任を感じている仙道君は、どれほど神経をすり減らしているのだろう。僕の疲労感よりも数倍あるはずだ。 
 あれから時々仙道君を見かけるが、相変わらず悲しい目をしていた。僕が挨拶すると精一杯の作り笑いで対応してくれるけど、辛そうなのは隠せない。
 僕なら学校に行きたくなくなるだろうし、家からだって出たくないと思う。でも仙道君は学校へ来た方が落ち着くのだろうか?
 今日は仙道君と少し話すことができた、彼と一緒にいるとチラチラと女生徒の視線を感じる。やはり彼は女性にモテるようだ。誰か彼のことを好きな人がいたら…

 そして、事件は動き出した。

 その日の授業が終わって放送部の仕事も終わり、部のみんなに挨拶して帰ろうとしたところ、バスケ部の練習を終えた桂木が玄関で待っていた。
 「真田、ちょっと」
 「どうしたの?」
 下駄箱で自分の靴を外履きに替えて、学校から出る。桂木は小声で話しだした。
 「まだ詳しくは分からないんだけど、近々バスケ部の女子で仙道に告白する奴がいるらしいんだ…クリスマスが近いだろ」
 「えっ…ど、どうしよう」
 「どうしようって言ったって、その子に『告白するな』なんて言えないだろう。それに、事件との因果関係なんてハッキリしてないんだし。まあ、そりゃあ俺だって気になっているけど…」
 「ああ…で、誰だか分からないの?」
 桂木は首を横に振った。
 「分からない。仲のいい子にそれとなく聞いてみたんだけど。とりあえず一年生の中にいるんだってよ。でも、それ以上は教えてくれなかった。あまりにしつこく聞いたら変に思われるしさ」
 「こんな事、警察に言っても取り合ってくれないだろうから、僕らが何とかしないと。もし仙道君に告白して、その子が襲われてしまったら…僕たちは罪悪感で押しつぶされてしまう」
 「…わかった」
 変に気分が高揚し、息苦しくてたまらなかった。
 不確かなことで動くのは意味が無いかもしれない、ただ今は俺の推理が取り越し苦労であることを祈るだけだ。