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ユリ01「旅」

(8)

うん分かったよ……『チビ』」
もちろん、からかい半分のつもりだった。
突然のことでよく分からなかった。
すごい衝動が頭に来た。首が宙ぶらりんな形で、ホームから飛び出していた。
襟首の部分を奴が握っていて、私はホームに仰向けに倒れていた。
「それ以上言ったら殺すぞ」
それが脅しではないことは、私の首に突きつけられたナイフから察知できた。
小学生、無人駅のホームに転落事故死。
新聞の見出しが頭で点滅する。
「もう、言わない」
変に冷静だった。
「それならいい」
黒い背中が遠のいていくのを、ボーっと眺めていた。
そして呟く。
「意味不明」
ちぐはぐだと思った。
最初っから最後まで。
全部ちぐはぐだと思った。

スナック菓子を食べようとユリはかがみこんだ。
大きな手が、がしりとユリの肩を掴んだ。
「手に持ってるのなぁに?」
さっきの店員さんだった。優しそうに話しかけているが、この人は万引きを疑っているのだ。
「ちょっと、それ見せてくれる?」
ユリと黒ずくめは店の中へ逆戻りした。
元々店にない商品だ、すぐに疑いは晴れた。が、新たな問題が発生した。
「君たち小学生だよね、ここで何してるの?学校は?」
基本的にユリに話しかけてくる店員は、まさに黒ずくめと関わりたくないオーラがプンプンしていた。
「一小の子だよね?学校に電話しよっか?」
それはまずい。だってそれじゃあ旅にいけない。行くのだ、旅に。
黙っているユリにイライラとした表情を見せる店員。
ごくりとつばを飲んだ。このままじゃ……。
店員が遠くにおいてある電話に手を伸ばした。
電話帳を開き、ゆっくりとボタンをおす。
その時だった。
黒ずくめがポケットから、すごい速さで何かを取り出した。
銃だ!!ユリにはそれが銃に見えた。
「ひゃっ!」
店員が叫ぼうとしたが、すでに遅かった。
名前も知らない店員の体は、ゆっくりと倒れていった。
「死んだの?」
恐る恐る聞いてみた。
「こんなことで殺さない。眠っているだけだ」
手に持っている黒光りするソレは、催眠スプレーだった。
「だけって……。あんた何やっちゃってる訳!?」
するとそいつは首をかしげていった。
「何って……。旅?」
それからゆっくりと、駅を指差していった。
「旅をしているんだ。これから電車に乗る」
こっちを振り向く。
「お前も来るか?」
また頷いた。
「あのさ、私……名前、ユリって」
「そうか」
そいつは名前を言わなかった。