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ラト

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秋の夜長にこの本を…「歌う船」

小説/詩

遥かな未来、文明の発達した銀河文明においても、不治の病は存在する。
重度の障害のため治療不能、命も危険にさらされた赤ん坊は機械と接続された存在「殻人(シェルパーソン)」となる。
成長した赤子は、最新鋭の宇宙船を動かす生きている脳となった。
名前はヘルヴァ。
銀河連邦きっての優秀な「頭脳船」となった。
だがもう一つの姿は、また16歳。
思春期真っ只中の少女で、歌うことが大好きな少女でもあった…。

今もって矍鑠とした女流SF作家アン・マキャフリー女史。
すでに80歳になられていると思うが、今も現役。
ライフワークの「竜の戦士」シリーズを、アイルランドの地で紡ぎだしておられる。
長生きして、最高のストリーテラーとして活躍してほしい。
彼女が書いたこの「歌う船」のシリーズは、とても大好きな作品だ。
彼女自身、大切な家族を失ったその隙間を埋めるため書き綴った物語であるという。

そのためか、主人公ヘルヴァは最初の任務で、初恋とその相手の死を経験して、彼女を彼女たらしめていた歌すら歌えなくなる。
歌うことが、彼女の最大の特徴だったのに…。
その後、様々な人々との出会いと。孤独感と喪失感からの脱却。
本当に愛する人と巡りあうまでの心の成長と軌跡が丁寧に書かれている。
また、人間と違う「殻人」ではあるけど、けっしてそれを引け目と思ってはいない、それどころか誇りに思っているヘルヴァが凄く輝いている。

秋の夜長に一度は読んでほしい、短編連作である。
オペラを高らかに歌って、宇宙(そら)を翔ける船。
その詩的なイメージが、とても心に残った。