短編(2)
「頭に風穴開けたくなかったら、振り返るなよ」
まだ言葉の意味がつかめずにいた私の頭を、活性化させたのはあてられた筒だった。
カチャリと、うしろから音がした。安全装置を外したのか撃鉄を起こしたのかは分からないが、少なくとも私にとっていいことではないだろう。
「立て。すこしでも変な動作をしたら、撃つ。」
後ろに確かにいるのに、電話を通してそいつは話す。
言われるままに立ち上がるが、途中で少しよろけた。撃たれなかったが、体中からいやな汗がにじみ出る。
相変わらず、電話越しに声は響く。
「あれを取りに来たんだろう?」
男性の声だった。私より、少し年は上くらいかもしれない。せいぜい大学生くらいだろう。
「あ、あれってなに」
上ずった声で、聞き返す。
「しらばっくれるなよ」
頭の後ろを銃がなでて、背筋がぞっとした。
「本当に、知らないんです。何にも」
今度は、普通の声だった。そうだ、冷静にならなきゃいけない。どうにか、殺されないように、うまく逃げる隙を伺うのだ。どうにかして、だれかに助けを求めればいい。
ふと、いやなことを思い出した。
私が誰かにSOSを出したとする。その誰かは、警察に連絡するだろう。後ろのコイツが捕まったとして、私はもちろん事情聴取をうけると思う。
警察は、駄目だ。じゃあ、助けは求められない。
「うそをつくんじゃない。その紙袋が、代品か?何をだしたって、俺はこれを渡さないからな」
すごく大きなこえだったから、後ろからも直接聞こえた。この声の大きさなら電話は要らないだろう。
その時、木の上で何かがきらりと光った。