日記ダイアリー徒然草

あんぴ

どうでもいいことを書いています

短編(4)

自作小説

着いた所はボート乗り場だった。

「携帯を切って、ボートに乗れ」

 一隻七百円で、いまお財布にあるのは千と五百二十円だ。ボートは二人乗りなので二人乗りなら、七百で足りる。お小遣いの事を嘆くのは、生きて帰ってからだろう。やる気のなさそうな店員に、チケットを渡して、ボートを出してもらった。

 乗るのは初めてだ。店員に分からないように、背後の男は銃を少し下に下げていた。上に布をかけてカモフラージュしている。

 

 向かい合ってすわり、初めて背後の男のすがたを見た。

 オレンジ色のパーカーをきて、フードをかぶっている。どう見ても不審者だが、当って砕けろ精神の作戦なのかもしれない。年齢は、想像とほぼ同じで、大学生くらいだった。しかし、予想したよりも、すこし幼い。

 ボートが湖の中央へ行ってから、私はやっと自分から話しかけた。

「私、死ぬの?何にも知らないのに、理不尽じゃない?」

 返事は無かった。これは、あれと仲間じゃないことがばれるけれど、もういいかもしれない。

「答えてくれないと、大声で助けを呼ぶから」

 かなり、強気に出た。

「その前に、撃ち殺すよ」

 静かな声だった。多分、脅しとかじゃないと思う。

「どうせ、最後になるんだから、今殺しても殺さなくても一緒か」

 言葉の意味がつかめなかったけれど、私があいつらの仲間じゃないってことに対しての返答なのだろう。

「なんで、最後なの?」

「俺は、コレを渡すつもりがないからだ」

「よく分かんないな。ソレと心中するってことか」

「死んでも渡したくない」

 パーカーの男は、銃を置いて煙草を取り出した。

 隙だらけだけど、攻撃したって勝てっこない。それに、もう少し話を聴きたいともおもったのだ。

「コレを、あいつらは欲しがってるんだ。俺は要らないけど」

「いらないなら、あげちゃえばいいのにな」

 煙草に火をつけて、すい始めた。煙は、すぐに空中に溶けていく。

「妹が、あげたくないって、言ってたから」

「妹がいるんだ?」

「いたんだよ」

 ぷはーっと、煙を吐き出した。

「もともとは、俺の妹も、あいつらの仲間だったんだ。半ば強制的にだけど」

 あいつは、高校生だったけど、本当に頭が良かったから。

「弱み握られて、仲間にされて、爆弾の開発をしてたんだ。で、途中で謀反を起こして、設計図を持って逃亡。まあ、上手くいくわけないから、始末されちゃったわけ」

 淡々と喋っている口調は、妙にリアリティがあった。

「敵討ちなの?」

「そういうことだ」

 ボートは、漕いでないのに進んでいく。

「パーカーのポケット、何か入ってるね」

 さっきから、妙に気にしているそれを、私は指摘した。

「爆弾だ」

 

 その言葉を聴いた瞬間、私は銃を取り出した。もうすでに、安全装置は外してある。弾は、とっくにこめた。撃鉄を起こし、引き金を引いた。

 パン、パンとうすっぺらい音がした。

 こんなもんだ。もっと重い音が私はしてほしいと願う。

 倒れていくオレンジ色の男を、腕を引っ張りなんとか持ちこたえさせる。それから、ゆっくりボートに寝かせた。

 男の持っていた銃を触る。本物だったけれど、弾は入っていなかった。ついでだから、もらってしまう事にした。

 パーカーをきて、妹の敵討ちに立ち上がった男は、もうすでに息絶えていた。弾は、丁度あたまを貫通している。ピンク色で少し古く見える彼の妹の携帯を、その手に握らせた。

「こんなことに、正義も何も無いでしょうに」

私の一族は殺し屋だ。法で裁けない悪に、天誅を下すのが主な仕事だ。

こいつが悪なのかどうかは、私には分からない。正義や悪というのは、見る人によってがらりと変わるのだから。

 ただ、今日を生き抜く事に精一杯で、新しい明日を迎えるために、切り捨てていく昨日があるだけなのだ。新と旧。たった一ミリの差しかなくても、優先順位をつけるのはずいぶんと楽になるだろう。

すぐに、さっきの組織の誰かが、助けに来ると思う。私はそれまで、ここで死体とボートのうえだ。

パーカーのポケットをあさると、何かが手に当った。

それは、高校生くらいの、女の子の写真だった。

「こんなものは、爆発しませんよ」

 半分に裂いてから、湖に捨てた。