恭介

初夢の続きは (10) 『衝突』

自作小説

季節は冬に向かっているというのに、穏やかな暖かい日だった。

その為昼休み、中庭でお弁当をとる生徒の数も少なくなかった。

優は、中庭へ向かうドアに手を掛けたまま、大きく深呼吸した。

「よし!」

中庭へのドアを開けると、少し強い風が吹き込んで来て優の髪を揺らした。

その風をまともに受け、覚悟は少し揺らぎ前へ進むのが躊躇われた。

けれども優は胸に抱いた弁当箱を一度強く抱くと、中庭へ向けて一歩を踏み出した。


「遅かったじゃない」

中庭の階段部分に腰掛けていた梅子は振り返らずに声を上げた。

だが彼女の言葉には、怒りも焦燥もない。

いつもの決まった友人との、ちょっとした秘密の暗号。

「ごめんごめん」

そう答えるルーズな友人の声で、このやりとりは完結するはずだった。

けれども、待てど暮らせど対になった暗号は返ってこなかった。

梅子は、いつまでも無言で立ったままの友人を不審に思い、ゆっくりと振り返った。

そこに立っていたのは、梅子の思い描いていた友人ではなかった。

「優ちゃん?」

「こんにちは、篠田先輩」

梅子は、妙な違和感を覚えた。

優は口元に笑みこそ浮かべてはいるが、目には強い意志を携えその奥底はまるで怒っている様に感じた。

(なんだろう? このちぐはぐした感じ)

思い浮かんだのは、昨日読んだ本の一説。

『人の良さがのぞく笑いもあれば、歯がのぞくだけの笑いもある』

今の優の笑顔は間違いなく後者であった。

「あの~お昼、一緒にいいですか?」

「あ、え? どうぞ」

まったく予想外の申し出に、梅子は少し戸惑いそう答えた。

「ありがとうございます」

一礼すると優は梅子の横に、ちょこんと腰掛けた。



「これ自分で作ったんですか?」

優は梅子の弁当を覗き込むと、感心したように声をあげた。

「ええ」

返事は届いていないようだった。

優の目は料理の腕を審査するかのように、食い入るように弁当を見つめていた。

やがて点数付けは終わったらしく、梅子の方へと向き直った。

「篠田先輩、私のお弁当も見てください」

そう言うと、自らの弁当箱の、蓋を取ってみせた。

梅子は身を乗り出して中身を確認したが、何も入っていなかった。

目を凝らしてもう一度見ると、紙切れのようなものが一枚入っているのが確認できた。

(これどういうことだろう?)

意味がわからず、首を傾げ考え込んだ。

優は、にこやかに微笑んでいた。

「どうぞ、篠田先輩のために特別作ったんですよ」

梅子は少しムッとして、つい声を荒げてしまった。

「あんた!からかってるの?」

「いいえ、どうぞ手に取ってください」

少しも悪びれず言い放つ優に、梅子は少し恐れを感じていた。

しかたなく言われるがまま、紙に手を伸ばし掴んでみた。

それは写真のようだった。

写真の裏にあたる部分には文字が書かれていた。

(う~ん日付かな?)

写真を裏返し、写っているものを見て梅子は絶句した。

「何で、あんたがこれを……」

梅子は、キッっと優を睨みつけたが、優はまっすぐ梅子の目を見つめ返しているだけだった。


沈黙の後、まず口火を切ったのは優の方だった。

「松梨先輩に謝ってください」

抑揚を欠いた声で語りかけるように優は言った。

「松梨先輩は未来を見れていない、ううん未来から目を背けている。 私それは貴方のせいだと思うんです」

「え……」

梅子は、少し呆気に取られていた。

「貴方にはその未来はないの。 その未来は望んじゃいけないの。 だから貴方のことで彼女が悩むなんてもったいないの! そんなのおかしいでしょ!」

「なんなの? なんなのよ勝手なことばかり言って! あなたにはわからないでしょ!」

今度は梅子が語気を荒げた。

「ずるいわ」

「何が!?」

「わからない、そう言ったら説明してくれるの?」

優は、梅子に掴みかかっていた。

「だったら説明してよ! 私には、どうわからないかちゃんと説明して!」

「離してよ」

梅子は、優を離そうとするが、離れない。

身長も、体格も梅子の方が勝っている。

けれど梅子は優に気圧されていた。

「どうして貴方は、秘密ばかりなのよ!」

梅子は、唖然とした。

(この子、どこまで知っているの?まさか全て?……)

梅子の脳裏を様々な予想が掠めた。

「悟先輩の事だっって、貴方がややこしくしてるんでしょ?」

「……え!?」

予想外のセリフに梅子は、肯定とも否定とも取れない、曖昧な返事をすると、そのまま掴んだ手を離してしまう。



「ちょっと2人とも! 何やってるのよ」

  • せちる

    せちる

    2011/05/13 08:08:03

    こちらに失礼~

    「12」を何度となく読み返し。

    冒頭の意味深さが、興味をそそりますねぇ~♪

    少しづつ霧が晴れていくような、でもまだまだ沢山の忘れられた記憶が、思い出して欲しそうな、だけど思い出して欲しく無いような、読み手としては先を気にせずにはいられない、そんな感じですぅ~♪