創作小説「雷獣」(7)
第7話
「何が!?」
飛んできた勢いのまま地を滑ったものは鞘に収められた一本の剣。
北院の聖具、風の聖剣だ。
「どこからこんなものが……」
しびれが残る腕をかばいながら悔しそうに瑙羅が呟く。
「形勢が変わったな」
地に落ちた琥珀の石を手に取り、エンユが言葉をかける。
威嚇を繰り返した雷獣も、おとなしく様子を見守っている。
「これくらい、どうってことないわ」
そう言って天を見上げた彼女は指笛を鳴らした。
ピー。
響き渡った高音。
その合図を待っていたかのように、空から舞い降りてくる影。
「炎虎、みんな焼き殺してしまいなさい!」
炎のように緋色の虎が空を駆け襲ってきた。
邪法士の魔獣使い。数匹の魔獣を飼い馴らしていても不思議でない。
口を大きく開き、激しい炎をエンユに向けて吐くが、
「水陣!」
クルトの声と共に水の壁が両者の間に現れ、炎が水で相殺される。 立ちのぼる水蒸気が周囲を蒸し暑くさせる。
再び炎を吐こうとした炎虎の前に立ちはだかったのは一人の少女。
「シエロ」
クルトとエンユの声が重なる。
少女を燃やそうと吐かれた炎は少女の両手で軽く受け止められていた。
「こんな小さな炎じゃ、私の相手になんないわ」
紅の瞳がキラリと輝く。
次の瞬間、彼女から発せられた紅蓮の炎は炎虎を包み込み燃え上がった。
エンユはゆっくりと瑙羅の元へ歩み寄る。
すっと腰の位置まで上げた手に、地にあった剣がひとりでにスルリと鞘から抜け彼の掌中に収まる。
柄をしっかり握り絞めると、勢いのまま間合いを詰める。
最初に彼女に向かって振り下ろされた一振りは、瑙羅の持つ鉄杵に受け止められた。すぐさま重心を移動させ、別の角度から切り込むが、高らかな金属音が耳を打つ。
そして、その瞬間を待っていたかのように瑙羅がエンユの左腕をつかんだ。
「雷獣、来い!」
エンユの左手に握られているのは琥珀。
キラリと輝いた金色の瞳がエンユを捕らえ、牙を剥く。
「エンユ!」
邪法士の言葉にエンユに襲いかかる雷獣。
エンユの右肩に鋭い牙が食らいついた。
勢いのまま押し倒され、なおも噛み付いて放そうとしない雷獣の戯加を抱き締める。
「大丈夫だよ、戯加」
一瞬、雷獣の力が弱まる。
「お前は何も悪くない。不安になることなどないんだ」
変わらないエンユの言葉と態度に雷獣も落ち着きを取り戻す。
「…エンユ…様……」
獣の姿がぼやけて人の姿をとるのを見て、瑙羅はその場を後にしようとしたのだが、エンユはそれを逃さない。
「止まれ!」
怒りの声に剣がエンユの意志に従って邪法士の身体を、貫いた。
倒れこんだ瑙羅を周囲に集まっていた法術士が押さえ込み、西院の者に案内されながらどこかへ連れていかれた。
「くっ……」
傷の痛みと出血に呻き声を上げたエンユ。
それでも人の姿に戻った戯加の身体を支える。
初めての変形は負担が大きかったようで、意識はなくぐったりしている。
「戯加」
「大丈夫ですよ」
聖具の剣を拾ってすぐクルトが近寄り、裸体の戯加に自らの衣服の一枚を被せてやった。
差し出した両手に現れた光の液体をエンユに注ぎ、肩の傷を癒す。
そしてクルトが口にした次の言葉はエンユの意表をつくものだった。
「さすが北院の長ですね。この聖具の剣を意のままに動かすとは」
いっぱい集まっているやじ馬がザワザワと騒いでいる。
クルトの言葉にあれが北院の長か、と。
「クルト!」
ようやくクルトの意図を察したエンユががなる。
クルトは素知らぬ顔。
「会議のたびにあなたがケナされるのを耳にするのは私もケナされてるようで、我慢ならないんですよ、お兄様」
周囲に聞こえるように笑顔で言い放つクルトにエンユは諦めたため息交じりの複雑な表情をした。
第7話をお届けですww
ひろぴょん
2010/11/26 12:08:53
格闘のシーンは楽しいです。
8^^)
魔法の基本は 「土 水 火 風」かなぁ
きくにゃ
2010/11/26 03:11:23
クルトさんが、戯加さんにエプロンをかけたのじゃなくて良かったw(ダカラクズ○ハサンジャナイッテヴァー
兄弟の確執って、いろんな形がありますねえ。
エンユさんとクルトさん、小さい頃はめっちゃ仲のいい兄弟だったような気がします♪
とってもいい関係やなあ。
ちゃんとお互い尊重してる。
こわいおねいさんもやっつけられて、ちょっと一安心w
しゅーひ
2010/11/25 22:28:04
炎虎?
どっかで聞いたことあるなぁw
エンユ噛まれてるよ~~~
雫⋆
2010/11/25 22:16:17
エンユの裸体裸体いいい(やめなさい
エンユくん大丈夫ですかね(´・ω・`)