創作小説「延ばされた手」(前編)
復活遊戯 番外編
延ばされた手
前編
無意識に延ばした手を力強く握り返され、目が醒めた。
ぼんやりと見上げた顔は見知った印象的な灰色の少年…沙羅だった。
「エンユ!?」
いつもは無表情のくせにやけに心配顔で覗かれ、大丈夫と力ない笑顔で返す。
瞬時に何が起こったのかを思い出した。
まだ握られている掌に視線を向け、笑った。
「夢を見ていた……」
幼い自分の延ばした手は届かなかった。
ただの夢なのか、それとも現実にあった事なのか、今のエンユには判別できない。
子供の頃の記憶が曖昧で思い出せないからだ。
一緒に森を走っていた同じ年頃の少年。
いや、自分自身を見ていたのかもしれない。
誰かに追われている気配の中で、枯れ葉に足を取られ崖から川へと落ちた。
『エン!』
延ばされた腕はまだ短く、延ばした自分の腕も短かった。
『―!』
相手の名前を叫んだ記憶があるが、思い出せなかった。
「夢?」
沙羅が黙ってしまったエンユに不思議そうに問いかけ、ずっと握っていた手をエンユは離した。
「……今の俺なら、助けられるのに」
自分の掌を見て呟いたエンユはふと思い出 し、微笑を浮かべた。
エンユの保護者でもあり、現北院長のジオラと共に西院に赴いた時のことを。
国に4つある法術士を束ねる法院。保護者である師匠のジオラが新しく北院の長になったということで、今回は西院で行われる四院長の会議に共にやってきたエンユだった。 おとなしくしているのが苦手なエンユは暇を持て余し、西院の中を探検するがごとくふらついていたのだが……一階の窓から延びる一本の腕に気が付いた。
最初はギョッと驚いたが、しばらく眺めていた。
同じくらいの少年の腕。
全く動かない無防備な手。
気になって手を延ばし、そーっと手を握ってみる。
ビクッとその手に反応があった。
どうやら生きている人間のモノらしい。
やけに熱いその手を放すと、身長よりも少し背の高い窓のサンに、勢いをつけて飛び上がり腰を下ろした。
部屋の中は薄暗かった。
腕は窓辺のベッドで寝ていた少年のものだった。
顔はちょうど影になっており、額には濡れたタオルが乗せられ顔は見えない。
「…誰?」
気配に気付いたのか意識は起きているらしい少年は熱っぽい声でエンユに話しかける。
「こんなとこから手を出して、何してるんだ?」
助けでも呼んでるのかと思ったと苦笑しながらエンユは問いかける。
「…風が冷たくて気持ちいいんだ」
手が熱かったのはどうやら熱を出しているからだ。
「冷たい水、持ってきてやろうか?」
「いえ…水は、すぐ熱湯になってしまうから……」
「?」
エンユが首をかしげたのが判ったのか、彼は窓から出していた掌を軽く握った。
【つづく】
前編ww
微妙に文字数が多かった。
すぐに後編をUPしようとは思ってますww