☆池田の牛ほめ
「池田の猪買い」と同様「北の旅」になります。また、昔の家の構造がよく分かる噺なのですが、分からない人にはちんぷんかんぷんでしょうね。そのためでしょうか、最近この落語は聞く機会が少なくなったような気がします。それでも、噺の内容は結構面白いものです。
【スジ】
覚えの悪い男が、小遣い稼ぎがしたいと隠居に相談する。隠居はそれなら池田の佐兵衛さんが、最近家を新築したので、家を褒めろれば小遣いをくれるかもしれないと教える。しかしその要領が分からないので、褒め言葉を教えてもらうことになる。
「普請というのはま先ず表構からほめないかん。表構は総一面のとが造り。土間が縮緬漆喰。上がり框が、桜の三間半、上にあがって、畳が、備後表の寄縁、天井が薩摩杉の鶉杢、これから、まだ奥へとって・・・・・・・・」
このあと、掛け軸の褒め言葉などをいろいろ聞くのであるが、大事な事は佐兵衛さんが一番気にしていた大黒柱の節穴を見つけて、その節穴にお札を貼って「火除け魔除けになって、節穴が隠れまひょ」と言ってあげたら小遣いくれると教わる。
それでもダメなら牛を褒める別の方法を教わる。
牛の良いのは「天角 地眼 一黒 鹿頭 耳小 歯違」と言われています。
「天角とは、角が天に向かっている。地眼は、目が地面を睨んで、一黒とは一面に黒く、鹿頭とは、鹿のような滑らかな頭、耳小は耳が小さく歯違とは、歯が互違になったぁんがええ牛としたもんや」と教わるが、この男やはり物覚えが悪い。そこで褒め言葉を紙に書いてもらう。
翌朝、男はその紙を懐に入れたまま、はるばる池田へやって来た。
しかし、懐にいれていた紙は汗でにじんで読む事が出来なくなり、むちゃくちゃ言い出す始末。
畳が備後表の寄縁と言うところを、畳は貧乏でぼろぼろとかいったりして騒動を起こす(このあたりが最も面白い)。いろいろとトンチンカンなほめ言葉を言ったあと大黒柱の節穴をめざとく見つけ「節穴に札をお張んなさい、節穴が隠れて火の用心になります。」
佐兵衛は打って変わって、すっかり感心し、小遣いをやることになる。そこで「ものはついでや、牛もほめてやる」と言って調子に乗って今度は牛を褒めに行く、これも教わった通り「テンカクチガンイチコク(一石)ロクトゥ(六斗)シショウ(四升)ハチゴウ(八合)五勺」とお米を計る様に一気に読み上げた。
それを言うなら”天角地眼一黒鹿頭耳小歯違”。
一生懸命に牛を褒めていたが、牛はクルリと尻を向けるなり、そこへ糞をする。
「かんにんしてやぁ人間ならこんだけほめて貰ったら、礼の一つもするのだが、そこが畜生じゃこの穴さえなかったら・・・」
「かまへんかまへん。ええ知恵かそか、ここの穴にお札張りなはれ”への用心”になる」