桜の声‐中編‐
昨日書いた小説の続きです。字数制限で全部は書ききれないので、3部に分けました。
今回は、その中編です。
「だ、誰?」
目の前に立っているのは若い女の人だ。明治、大正くらいの、ハイカラさんの格好をしている。そして、何より驚いたのは、
(わ、私に、似てる・・・?)
目の前の女性も、驚いた表情で私を見ている。
「だ、誰なの?あなた。」
そういって近づこうとした。しかし次の瞬間
(ピカッ)
また周りがピンク色に光った。
気がつくと、桜のほうを向いて立っていた。さっきの女の人も、どこにもいない。
「な、なんだったの?今の。あの人は一体・・・。」
「お嬢様、お昼ご飯できましたよ。」
「ハーイ、今行く。」
ふっと、昨日のことを思い出した。
(そういえば、昨日もここにいたときに、なんか声が聞こえたし。一体なんなのかなぁ。)
不思議に思いながら、とりあえず、お昼を食べに家にはいった。
「ふーん、やっぱり似てるなぁ。あの子と私。」
お昼を食べてから、再び桜のところに行った。やっぱりさっきのことがどうも気になる。
「なんだったのかなぁ。さっきの女の人といい、昨日の声といい。」
「あなたにとってはついさっきのことだけど、私にとってはもう100年近くまえなのよねぇ。」
(え!?)
後ろから声がして、振り返ってみた。さっきのハイカラの女の人だ!
「あ、あなた、さっきの・・・。」
「ええ、そうよ。私は、花柳文代。ここの一族よ。」
突然のことで、なんだかわけがわからない。聞きたいことが山ほどあるが、言葉が出ない。
「私もね、100年位前に、この桜の木から声を聞いたのよ。そしてその翌日、あなたと会った。」
「ひゃ、100年前って・・・」
「私は明治生まれの人間よ。」
「明治って、そんな人とっくに・・・。」
「ええ。もう死んでるわよ。私。」
さらっといわれて、ますます混乱してしまった。ということは、こ、この人はゆ・・・ゆ・・・
「安心しなさい。幽霊といっても、取り憑いたりしないわよ。ただ、今日、あなたが私の姿を見る日だとわかったから、会いに来ただけよ。」
何も言えず、少しの間呆然としていたら、文代さんは桜の木に手をあて、懐かしそうに桜を見つめた。
「私も、この桜大好きよ。不思議よね。多分、桜が私たちを引き合わせたのね。私たち似ているから。」
「た、確かに顔は似てますけど。」
「クスッ、顔もそうだけど、今のあなたと、当時の私の状態が似ているのよ。」
何を言っているのかよくわからない。今の私の状態と似てるって?
「声が聞こえたとき、なんて言ってたの?」
「えっと、素直になれば大丈夫だよって・・・。」
「そう、そのとおりよ。八重もがんばりなさい。」
そう言うと、文代さんは、すうっと消えてしまった。
「え!?ちょっと・・・・、文代さん!?」
わけがわからず、しばらくその場で立ち尽くしていた。
その夜に、わかった。
お母様が本家ゆかりの品を整理していたときに、あの人の写真が見つかり、お父様に聞いた。
実は文代さんは、私の曾おばあ様だったのだ。さらに、曾おばあ様にはこんな過去があった。
かつて彼女は、両親から無理やり縁談を持ちかけられ、それを止めたのが曾おじい様だったらしい。
「おじい様に聞いた話だが、曾おばあ様もお前と同じように、よくあの桜の下で物思いにふけっていたそうだ。若くして亡くなってしまったから、お父様も顔は写真でしか知らないが、お前によく似ているな。」
「うん。あ、あの・・・お父様、縁談のことだけど・・・」
「八重、あなたあの話聞いてたの?」
「はい。立ち聞きするつもりはなったんだけど。」
「ああ、そのことなら心配するな。あれはほんの思い付きだ。別に、無理に縁談をするつもりはないぞ。」
(なんだそうか・・・。ほっ。)
それを聞いて少し安心した。でも、まだ完全に悩みが解決したわけじゃない。だって・・・。