お雑煮を食べ切った僕は、ふくれた腹をさすりながらその場でゴロンと仰向けになった。
「もう食えねぇ。腹いっぱいだぁ～」
　あんこ、きなこ、砂糖醤油、大根おろし、プラスお雑煮。お雑煮をすすりながら焼き餅を４種のかけダレで食べる。これがウチの新年始めの定番食である。
　大晦日まで焼肉屋とコンビニのかけもちバイトをしていた僕は、仰向けになった途端、そのままスゥーっと寝入ってしまった。
　腹いっぱい食べると眠くなるのは生き物の性である。まして、それぞれ４個づつ合計１６個も食べれば眠くなって当然だろう。
　それにしても、【バイトかけもち後に焼き餅をかけ餅で食う】という何とも紛らわしく忙しい新年の朝となった。

数時間後……
「タケシ、電話だよ。ほら、起きんね！(＝起きなさい)」
　僕は、母性というより父性に近い母の声で起こされた。正確には、着ているトレーナーをめくり上げられ、冷たい携帯電話を腹の上に乗せられたのだ。

「やべぇーっ。お母さん、いま何時？」
　瞬間僕は、金属の冷たさに体をのけぞらせたが、そんな母の起こし方に文句をつけるよりも先に時間を尋ねた。なぜなら、彼女と初詣に行く約束をしていたからだ。１０時に駅で待ち合わせの予定だった。
「１０時半たい(＝だよ)。いいから早よぅ電話に出んね(＝出なさい)。さっきからずーっと鳴っとっとだけん(＝鳴ってるんだから)！」
　３０年も東京に住んでいるのに、家の中ではいまだに田舎の言葉が出る母であった。
　僕は慌てて携帯を開くと……
「もしもし、ごめん。すぐ行くから！」
『あぁ、良かったぁ。すっぽかされたのかと思っちゃた。どうしたの？何かあったの？』
　心配そうな彼女の声に、僕は一瞬ホッとした。てっきり怒っていると思ったからだ。
「ごめん。焼き餅食べたら寝ちゃったんだ」
『…どういうこと？』
「ごめん。朝メシ食ったら、ウトウトしてそのまま寝ちゃったんだ」
『………』
「もしもし？」
『…バカっ。早く来なさい！』
「ごめん！すぐ行くか…」
プチッ。プー、プー、プー。
どうやら思いっきり怒らせてしまったようだ。
　それにしても、バイトのかけもち後に焼き餅、かけ餅を食った後に彼女のやきもちとは。
　電話が切れた途端、コタツから飛び出した僕は速攻で駅へと向かった。

・・・おわり。