「おーい、カァちゃーん！ ちょっくら出かけて来るからー」
「はーい。気をつけて…。 あれ？あなた、ちょっと厚着しすぎじゃないですか？」

「そりゃそうだよ。こんな寒いのに、薄着で出かけたら、風邪ひいちまうよ」
「それもそうですけど。 でも、そんな格好じゃ、全然目立ちませんよ？」

「そ、そうかな？ この、コートとマフラー、なかなかいいと思うんだがな…」
「ええ。 普段なら、その服装でいいと思いますが、今日は、節分ですよ？」

「そうだよなぁ。年に一度の、節分だものなぁ。 じゃあ、全部脱いで正装で行くか…」
「そうですよ。昔から、鬼はトラ皮のパンツ一丁って、決まってるんですからね」

「何がパンツ一丁だ。 おぉ、寒っ！ 誰だ！節分を、ひと月も早めたヤツは！」
「そうですよね。旧暦の頃の節分は、暖かくてよかったんですけどね」
　※旧暦の節分は、３月初めです。

「よし、脱いだぞ！ 少しくらい寒くたって、動いてれば温かくならぁ！」
「あれ？ あなた、ちょっとお酒臭くないですか？」

「そりゃそうだよ！ こんなに寒いのに、飲まずにやってられるかよ！」
「それもそうね。赤鬼ですもの、赤い顔してても、おかしくありませんよね」

「そうよ！ 青鬼じゃ、こうは いかないけどな。 じゃあ、行って来るよ！」
「あれ？　あなた、商売道具を忘れてないですか？」

「え？ 金棒なら、折りたたみのを持ったけど？」
「だめよ。そんな小さいのじゃ。 きっと、電車に置き忘れるわ」

「そ、そうかな？ でかいのは、最近重くて肩こるんだよな」
「そうおっしゃらずに。　 ほら！これなら、どっから見ても鬼ですよ！」

「それもそのはず！ 生まれてこの方、身も心も鬼だからな！」
「金棒を置くときは、お年寄りが蹴つまずかないように、気をつけて下さいね」

「はいよ。 じゃあ、今度こそ行って来るからな！ 止めるなよ！」
「では、いってらっしゃいませ。 車をはねないように、気をつけて下さいね！」