「時のかけら」

あき☆元綵

ここは「あき☆元綵」(はじめあき)の気ままなプログです。
趣味である創作活動の小説やアクセサリー作りなどいろいろ呟いてみたいと思います。
更新も不定期ですが、ゆっくりしていってください。
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伝言板も「伝言板」のカテゴリーに作っておりますので、気楽にどうぞ♡

創作小説「夏の幻影」(再掲載)

自作小説

実験的に今までココで公開してきた小説を
再びまとめてみますw
ページをめくらなくてもいいように、コメントの形で掲載してます。


夏の幻影  
 

                        P.Nはじめあき



ずいぶんと昔に書いた短編小説ですw
個人的には思い出深い作品なのです。
雰囲気を壊さないように書いた、
私の小説の中でも異質な作品に出来上がってますw

  • あき☆元綵

    あき☆元綵

    2011/06/08 23:34:32

              ココから下約4000文字の短編小説ですw

         ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽ 

  • あき☆元綵

    あき☆元綵

    2011/06/08 23:32:05

     夏休みの終わり。 
     まだまだセミがうるさく暑さを訴える夕刻。 
     通るたびに公園のベンチにいつも座っているお爺さんを今日も見つけた。 
     何をするまでもなく、ぼーっと一日をそこで過ごしている。 
     人通りがある場所で、誰かを待っているような、だれかに見つけて欲しいような感じでずっと座り続けている。 
     夏休みに入ってから毎日のように通る公園沿いの道で、気になり始めてから1ヶ月。
     思い切って話し掛けてみた。
    「いつもここにいて、待ち合わせでもしてるんですか?」 
     お爺さんはハっとして顔をあげたが、僕の顔を見てがっかりしたようにため息をつき、少し自嘲の笑みを浮かべた。
    「ある人が通るのを待っているんだ」
     再び人の流れに目を向ける。なんとなく立ち去るタイミングを逃し、側で一緒に眺めているとお爺さんは話し掛けてきた。
    「今日はなんだか気分がいい。少し昔話に付き合ってくれるかね」
     そう言ったお爺さんの顔は、雰囲気から感じ取っていたよりも随分若々しいものだった。
     別に今日はこれといった用事もなく、このまま家に帰る気分にもなれなかったので彼の話に付き合うことにした。
     「いいですよ」
    と、ベンチの隣に座ると彼は嬉しそうに微笑んだ。
    「もう、あれから数十年が経ったんだ……」ゆっくりと情景を思い浮かべるようにして、彼は話し出した。

  • あき☆元綵

    あき☆元綵

    2011/06/08 23:31:00

     会社経営は波に乗り大企業と呼ばれ、将来性も有望と言われる程にまで一代で築き上げた。
     富も地位も欲しいまま。金で簡単に動いてくれる議員も数知れず、何の不自由もない生活にどっぷり浸っていたのは60歳になるかならないかの頃。
     上層部連中の仲間入りを果たし、秘密の会合などに出入りをするようになった時に、あるウワサを聞いた。
    『現実に不老不死の体になる方法があるそうですよ』 
     老い先短い者が大半を占める会合、不気味な研究まで密かに行っている者までいるとヒソヒソ話が耳に流れてくる現状で、誰もが夢を見てしまう[不老不死]の身体。
     彼もその話に大変興味を持った一人だった。
    『ある人に会ってお願いをすればしてもらえるそうだが、まぁ会えるのは奇跡だね』 
     どんな奴かも判らない。全く情報のない中で不老不死を授かるためにその人物を捜し出すには不可能だという。
     ほんの少しの夢を与える夢物語以外のなにものでもないウワサ話。
     そう思っていたはずだったのに…。
     ある日、目前に青年がいた。外界から切り離されたような錯覚を感じさせる不思議さを持つ、若い青年だった。
     どうやって現れたのかも判らない。突然現れたのか、それとも普通に歩いて通りがかりだったのかもしれない。
     とにかく一目見て何かを感じ、青年も彼の視線に少々驚き、微笑んだ。
    「イノチヲサズケヨウ」
     青年の手のひらから出現した輝く球体が身体の中に入っていった。
     その日からだんだん老いて体力がなくなっていこうとしていた身体が変わらなくなった。 これが話に聞いていたものなのかと半信半疑のまま5年が経った。
     あれから体力の衰えは全く感じないまま過ごし、会社も順調に伸び、不自由のない生活が続いている。
     ケガをしても通常の者よりもだいぶん早く治癒していく。病院の先生にも驚かれる程の回復力だった。
     10年経って、ようやく確信する事ができた。
    「私はあの時に[不老不死]になったんだ」
     不思議な青年から不老不死の命を貰ったのだ。
     この先ずっと、権力と地位を欲しいままにやっていくことができる。
     そう思っていた。皆、私を羨んでひれ伏すだろう、と。

  • あき☆元綵

    あき☆元綵

    2011/06/08 23:29:40

     ――しかし、現実は違った。

     十年経っても容姿的にも何も変わらない彼を、皆が不気味がってきた。
     会合に出ても同年代の者は隠居を始め会わなくなり、新参者がコソコソと話を始める。
    『不老不死の命を手に入れたとか言ってるらしい』
    『とうとうボケ出したんじゃないのか?』『高齢のくせに無理して、自分を認めさす為に言いふらしてるだけだろ』
    『ああはなりたくないね』
     家や会社に戻るといい歳をしてまだ若社長と呼ばれている息子が皮肉気に話し掛ける。
    『お父さんもいい加減、全権を私に譲ったらどうですか?』
    『あなたの暴言のせいで、私の信用まで揺らいでいくんですよ』
     40過ぎの息子は彼を邪魔者扱いにしてきた。
    『あなたが上で好き放題している時に、私は一人で会社の社員の心をまとめ上げたんです。もう、誰もあなたの言うことを聞きませんよ』
     不正取引の証拠もきっちりと息子が握り、表へ出ないように管理していたのも総て息子だった。
     誰も[不老不死]は欲しがるが、現実にそれがあるとは思わないし、信じない。
     ただの人にとっての永遠の夢なのだ。決して現実に受け止めない。
     年老いた彼に着くよりもまだ先の長い息子にと、今まで寄って来ていた者達は彼の元を去り始め、90歳になる頃には会社経営から全て手を引かされ、容姿が変わらない彼を見せないようにと、世間から隔離されるように生活を強いられた。
     老いない身体を不気味がられ、使用人からも避けられるようになった。
     何の為に不老不死になったのか。
     今までに何ども権威を復興させようとしたが、息子に懐柔されてしまった者は戻らない。
     誰も[不老不死]を信じない。
     どんな言葉で言おうが気が狂っているとしか思われず、ますます人を遠ざけてしまった。
     怪しい研究室の奴等もやって来たが、血を抜いて行ったきり、何の音沙汰もない。業を煮やしてこちらから連絡を取っても門前払いにされた。
    『調べてみても普通の人と変わりない。気が狂ってるだけだな』
     そう言い捨てられた言葉。
     100歳を越え、ひとり寂しい毎日。
     自分には何もなかった。

  • あき☆元綵

    あき☆元綵

    2011/06/08 23:28:14

     毒を飲んでも翌日にはきれいに体内で消化され翌日には目覚める。
     数日、飯を食べなくても何ともなく、手首を切ってもすぐ回復してしまう。
     誰にも振り向かれなくなった現実。ただ生きていることが苦痛になった。
     しかし[不老不死]の身体は死んではくれない。どれだけ傷つけても奇跡の生還を果たしてくれる。
     気が狂う毎日。
     そんな日をどれだけ過ごしたのか判らないが、気がつけばぼーっとしている自分がいた。
     何かを待っている自分がここにいた。
     そして今日――

    「あんたが声をかけてきて、全てを思い出したよ」
     お爺さんは笑みを浮かべながら言う。
    「そう、ある日を境にずっと待っておった。あの青年を」
    [不老不死]を与えてくれた青年を。静かにお爺さんの話に耳を傾けていた若者は、    
    足元に伸びてきた人影に気づいて顔を上げた。話が終わるのを待っていたかのように、目前には若い一人の男が立っていた。
     いつの間にか人通りも消え、夜道を照らす街灯が周辺を照らしていた。
    「……お久し振りですね」
     笑顔で声をかけてきた彼にお爺さんは涙を流し始めた。
    「じゃあ、この人があの……」
     二十歳前くらいの色の白い青年。
     空気に溶け込んでしまいそうな雰囲気を持った不思議な青年だった。
    「もう、いいんですか?」
     青年の言葉に声を出さずに何度も頷いた老人。無表情に差し出された掌を老人は躊躇なく重ねた。その瞬間、目前で老人の姿は急速に老いていき、消えた。
     驚く自分に青年は微笑する。
    「止まった時が動いただけです」
     数十年という歳月が一瞬で老人の肉体を駆け抜け、本来の塵になって消えただけだと。
     さっきまで確かに老人が居た場所を信じられない思いで凝視していると、
    「……みんな、消えていく……」
     泣き出しそうな青年の呟きが耳に届き、ハッと顔を上げた。
     しかし、その場所に人影はもうなかった。
     誰もいない公園にひとり。
     薄闇だけが目前に広がっていた。

     それでも。セミの鳴き声と共に。しっかりと記憶に刻み込まれた出来事。
     逢魔ヶ刻に見た幻影。
     また、いつかきっと。
     淋しい瞳をした青年と会える気がしていた。


                                     【END】