✪マークは作り話でし

ブラボー

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✪作造 (二)

30代以上

今夜は満月か~、
秋も深まった月曜日の黄昏時にクマ代さんが訪ねてきた。

心地よい風に吹かれながら月明かりを見るのも乙なもの、
暑くもなく寒くもないこの季節が一番好きだ。
家を出て少し歩くと、
土手の上を涼やかな調子でこちらに向かうクマ代さんの姿が見えた。
時刻は黄昏時である、
しかし、いかに黄昏時と言ってもクマ代さんの姿を見間違えたりはしない。
作造は柳並木の陰に身を隠した、
通り過ぎるところを捉まえて後ろから脅かしてやるのだ。
クマ代さんはいつもこの手で騙される、
「わっ!!」
「わぁあっ」
「あはははは、また騙されましたね」
「嫌ですょ作造さんたら、寿命が縮まったじゃないですか」
「わははははは、そのむくれた顔を見るのがたまらない快感なんですょ」
「どちらへお出かけですか」
「こんな満月の綺麗な夜には魔法使いがほうきに乗って飛んでるんじゃないかと思って」
「嫌ですわ作造さんたら、私を魔法使いだなんて」
クマ代さんが持っていた風呂敷包みを作造が変わりに持って歩きだした。
心地よい風が吹いている、
夏を過ぎたクマ代さんの肌は月見団子のように白く、
それが澄んだ月の光を受けてほのかに光っている。
「今日もまたたくさんのお荷物ですね~~」
「作造さんの大好物の和菓子を買ってまいりました」とクマ代さんは言った。
「デパ地下で全国うまい物店をやっていましたの、
金沢八景の天然穴子・鳥取のあごちくわ・紀州の梅干しと松前漬け、
京都の黒糖羊羹も一本買ってまいりました」
「それはまたスゴイ、美味しい物ばかりで」
「いいぇ作造さんには、美味しい物をたくさん食べてもらって頑張ってもらわなければ」
「いやいやお気遣いありがとう」
うははははは。
あははははは。
「月見団子も作ってきました」
「え!! 月見団子ですか」
「はぃ、と言うか月見大福です」
「どれ、見せてくださいょ。
ああっホントに美味しそうだ、これは今いただきたいですいねー」
「どうぞどうぞ、召し上がってください」
「いゃいゃクマ代さんが作った大福ともなれば、さぞ柔らかくて白い・・・あれ。
これはあまり白くないですね~? 」
「はぃ、実は赤飯を混ぜて炊きましたから」顔を赤らめてクマ代さんが言う。
「おめでたい事がありましたから」
「お・・・・・・・・めでたいこととは、なん」
「今度は本当に赤ちゃんが出来ました」
ふはははははははははははははははははははははは。
うははははははははははははははははははははははは。
「いゃ、そ・・」
「今度こそは生みますょ」
ふははははははははは。
うはははははははははは。
「作造さんたら、本当に喜んでくれて」
ススキの葉が風に揺れる満月の夜。

作造ライフ36回目の危機である。