伝えたい言葉7 前編

自作小説

 ―――やっぱり、根っからのお嬢様だわ。
 3件目の店に入った後の、それが綾奈の玲に対する感想だった。
 1件目、2件目とも洋服を見ていたのだが、どうしても綾奈は「似合う」ということよりも「値段」を意識してしまうのだ。さすがに超有名ブランドには入らないものの、それでも綾奈が聞いたことのあるメーカーのそれも上質なものを次々とフィッティングルームにいる綾奈のもとに持ってくるのだ。
 しかも目が肥えているのか、どれもこれも綾奈によく似合うのだからたいしたものだ。
 「普段、着ない色なんですが…。」
 というような色合いの服もどんどん持ってきてくれて、それがちゃんと綾奈に似合うあたりは玲のセンスの良さが伺える。
 だが、一つ言えることはどれも「高い」ということだ。それも綾奈が普段買っているファストファッションの服とはそれこそゼロの数が2つは違うという物ばかりだ。
 「れ、玲さんっ。こんな高いものっ。」
 そういって断ろうとする綾奈ににっこりと笑った。
 「「戦闘服」だもの。少しくらい高いものの方がいいのよ。だからこその「スポンサー」なんだしね。」
 そう言い募ってさらに何着かフィッティングルームにいる綾奈に洋服を持ってきた。
 最終的に4件の店に入り5着の服と仕事用のバッグを買って買い物は終了した。


               *       *       *      *      *



 「はじめまして、澤井綾奈といいます。どうぞよろしくお願いいたします。」
 月曜日。
 綾奈は8階にある秘書室で簡単な自己紹介をしていた。今日着ている洋服は、昨日買った洋服の中でも玲の一押しの服装だ。
 『初日は絶対、これを着て行ってね。』
 何度も何度も念押しをされた洋服に身を包み、ついでに化粧の仕方もレクチャー通りだ。
 (ついでに言葉づかいとかも聞いとけばよかった…。)
 そう思わないでもなかったが、自分は自分らしく!!と思っているのも事実だ。何もかも玲の言うがままにすることは何となく抵抗があった。まるで自分が自分でないような気がするからだ。
 ―――でも、やっぱり言葉づかいは教えてもらってた方が良かったかも…。
 いかにも「仕事ができます」というような人たちの視線を一身に浴びて綾奈は少し竦んでしまう。しかも、『秘書課』というと女性が多いイメージだが、何故か滝野コーポレーションでは綾奈を除いて9人中、実に8人が男性なのだ。企業としても珍しい部類に入るのではないだろうか?
 「とりあえず澤井君には小山君、君がトレーナーとしていろいろ指導してくれたまえ。」
 一通り紹介があった後、秘書課主任黒川が、秘書課唯一の女性小山真紀を名指しした。
 「はい。―――澤井さん、どうぞよろしくね。」
 にっこり笑った真紀は、やはりできる女性の微笑みだった。

 「澤井君。」
 綾奈が指定された席に着き、今から真紀にいろいろ教えてもらおうとしているときに、大きな窓を背に座っている黒川が再び声をかけてきた。
 「はい!!」
 きびきびした黒川に声をかけられるたびに、綾奈の背筋が知らず知らずのうちに伸びる。真横の席の真紀が背中を震わせて笑っているのが見えるが、ひとまずそんなことは些末なことだ。
 「秘書課内のお茶の準備は特にしなくていい。飲みたいときに自分で入れることになっている。後、君を含めて秘書は全員で11名だが、女性は小山君と君だけだ。何か困ったことがあれば、なんでも彼女の相談してくれ。―――勿論、私や他の皆も相談に乗ってくれるだろうが女性ならではの問題もあると思う。」
 立て板に水のごとくそう一気に言うと、黒川は再び先ほどまで目を通していた書類に視線を落とした。
 「はいっ。ありがとうございます。」
 お礼を言った綾奈の言葉が聞こえているのかいないのか、黒川の視線が書類から外れることはなかった。
 (…って、もう一人いるんだ?)
 そう思いながら室内を見渡すと、あいている席がぽつんと一つある。綾奈の斜め前の席だ。


#日記広場:自作小説

  • 凛

    2011/08/01 23:55:27

    沙月☆しゃむさん

    ファストファッションを普段身に着けている綾奈なので本当に桁が二つくらい
    違うです。
    私も買い物に行って、ゼロの数が…。って思うことってめっちゃあります。

    黒川が上司なので、緊張感持って仕事をしなきゃって綾奈は思ってるはずw
    真紀がよき相談相手になってくれるはず??
    です、多分w

  • 沙月☆しゃむ

    沙月☆しゃむ

    2011/07/31 19:53:56

    「ゼロの数が2つは違う」の表現がいいですね!
    リアリティがあって…;

    「やはりできる女性の微笑みだった」綾奈の住んできた世界と明らかに違う仕事の世界が伺えますね…
    読んでる私も、思わず戸惑いを覚えてしまうくらいです(汗

    普通新入社員で、全く面識のない人の中に放り出された(?)とき、知っている人の存在は心強いものなのでしょうが、相手が黒川さんだと、そうも言えないですねw
    初対面の真紀さんの方がよほど近く感じてしまいますww

    もう一人の秘書の存在が気になります…/

  • 凛

    2011/07/11 12:29:00

    月黒 さん

    いつもコメントありがとうございますw
    五着の服は会長のカードで買ったんですよ♪
    スポンサーでしたからw

    11人、ちょっと多いですけど、それだけ大きな会社なんですぅ。

  • 月黒

    月黒

    2011/07/11 09:34:52

    五着の服は、玲さんのマネーで買ったのかな?


    11人って^^;最早ボディーガードだな;´Д`)

  • 凛

    2011/07/10 01:38:55

    ひゆきさん

    そうなんです、
    滝野コーポレーションはおっきい会社なので
    役員とかがそれなりにいるんです。
    でも、そんな大会社の会長がいったい何のために??
    って感じですねw

    理由が明らかになるのはまだまだ先なんです。
    ひゆきさんのように
    FIN
    をうてるように頑張りますw


    もう一人の秘書の正体は次回に明かされます。
    早めのUPを頑張りますね


    いつもありがとうございます

  • ひゆき

    ひゆき

    2011/07/10 00:07:44

    秘書が11人!
    そんなにいるのに
    場違いな綾奈さんを引き入れて・・・
    どんな企みがあるんだ!?
    綾奈さん、ついて行けるんでしょうか?

    あと1人の存在・・・
    なにか厄介な人なのでしょうか?
    いろいろ心配で気になります(´・ω・`)