キラキラ集め報告所

サーティーン

ニコッとタウンにあるキラキラを何処で手に入れたかの(ほぼ毎日)報告。あと、ニコッと関連の話をいくつか。

フェイトブレイカー!序章2

日記

「師匠!」
最上階へ続く螺旋階段の先にある、師匠の部屋へ少年は飛び込んだ。
そこには本棚や机、寝具等の調度品が並ぶごく普通の部屋で、
老人はその中央でうつ伏せで倒れている。
駆け寄ってみると、背中から穴が穿たれていて血が流れている。
「うっ…くっ…」
その血をなめたい衝動に駆られつつも、どうにかそれを抑え、
慣れない手つきで応急手当てを施した。

「…む、アロウか。無事だったようじゃな」
老人は目を開けて、少年の名-正確には呼び名-を呼びかけた。
「一体誰に?!」
「すまん…わからなかった。気がついたら背中を刺された…」
アロウの声に、老人は話す事も辛そうに呻きつつもそう答えた。
「…だが、彼奴の仲間であろう事は…間違い…なかろう」
立ち上がろうにもそれができない師匠を見かね、
アロウは手を貸し、彼をベッドへ横たわらせた。


「すまんな…」
「それは私の言葉です。…傷一つ治せなくて-」
「そんな事はどうでも良い!」
俯きかけたアロウの言葉を、師匠は己の力を振り絞って叫んで遮った。
「…今から重要な話を話そう。少し長いが聞くのだ、我が弟子よ」
「はい」
「あれはもう十余年も前の話だ。隠匿した儂の家に一人の女性が戸を叩いた」
師匠は目を伏せて当時の光景を思い出していた。




-それは嵐の夜。
塔の扉を叩き続ける音に、賢者フェムトは眉を潜めた。
「…一体誰じゃまったく。面倒じゃのう、研究の最中に…」
フェムトはそうぼやきつつも、入り口まで向かい、扉を開ける合言葉を唱えた。
『知恵の輪が外れた』
扉が開くと同時に、フード付きのマントを纏った人物が倒れこんだ。
「一体どうし…!?」
フードを外し顔を覗き込んだ瞬間、フェムトは息を呑んだ。
泥にまみれ、所々もつれているものの、手入れをすれば綺麗だろうな金髪。
やつれてはいるものの、元はきっと整っていただろうな顔立ち。
しかし、何より目を引いたのは、病的なほど白い肌と深紅の瞳。
それはまぎれもなく吸血鬼の証。
だが、
「た…助けて。助けてください。私は…どうなってもいい。
 でも…子供は…お腹の子供だけでも…」
言葉を発したのは、間違いなく人間の女性だった。
「…安心したまえ。ここなら安全じゃよ」
フェムトは扉を閉め、鍵の呪文を唱えた後、
石人形数体を作り出して、彼女を運ばせた。


「…少々手荒ですまんが、詳しく話を聞かせてくれんかの?」
フェムトは彼女に湯浴みをし、簡素な服に着せ替えた後、
石人形数体に身体を押さえて質問をした。
何しろ相手は吸血鬼。
確かに、彼女のお腹は間違いなく妊婦のそれだが、油断はできない。
「構いません。少し長くなりますが…」
俯いて、目を伏せながら彼女は身の上を語りだした。


女性の名はリトルスノー。
森の側にある寒村の娘ではあったが、年を重ねるごとに、
蛹から生まれた蝶のように美しい容貌になっていった。
やがて彼女は村の領主である騎士、ブランドル・バートランドに婚約を申し込まれた。
美男子ではないが、誠実で実直たる彼から婚約を申し込まれたのは、
彼女にとっても意外ではあったが、もちろん喜んでそれを受け入れた。
二人の結婚には村中だけでなく、近隣の住人達にも祝福されたほどだった。


だが。

その幸せは、ある夜、突然壊された。


「-ふむ、確かに麗しい娘だ。我が妻に相応しい-」

満月が綺麗な、雲ひとつない夜。
リトルスノーはふと目が覚めて、領主の館の裏庭に出て、
秋の夜風に吹かれていた時、その言葉と共に、首筋に何かに噛み付かれた。
「!?」
声を出そうにも、恐怖で喉が凍りつく。
そして、みるみる体から力が抜け、逆にある種の喜悦感が体中に走った。


耳元でハッキリと血を啜られる音と共に。


薄れゆく意識の中、彼女が最後に見た光景は、
彼女の名を呼びかけて飛び掛り、そして顔中に伸びた爪を突き刺される夫の姿だった-。


彼女が連れて来られたのは村の近くの森の中。
広い森の真ん中辺りにある古城。
その主であり、愛する夫を殺めたのは、
美髯を蓄えた貴族風の男-否、吸血鬼だった。


「あのようなつまらぬ輩なぞ、そなたには相応しくない」
外見とは裏腹に、丁寧に手入れされ、見たこともないような美術品が並ぶ廊下で
吸血鬼はそう言った。
「そして、人間は醜く老いるもの。
 そうなる前にこの“満月の王”がそなたに永遠の美を与えたのだ。感謝するのだよ」
勝ち誇った口調で吸血鬼は高笑いした。

そこでリトルスノーは我を取り戻した。
花嫁衣装を身に纏い、吸血鬼に手を引かれてる事に!
「…嫌っ!!」
手を払いのけ、彼女は全力で逃げ出した。
「何を嫌がることがある。止まれ」
“満月の王”は笑みを絶やさぬまま、厳かに呟いた。
それで彼女は止まるはず。
自分の支配力は絶対なのだから。

だが。
彼女は止まらず、奥の闇の中へと消え去った。

「何!?我が命が効かぬとは…あの娘、生娘ではなかったのか!!」
王の怒号が城中に響き渡る。
それを背にリトルスノーは走り続けた-