竜と吸血鬼。
果たしてどちらが強いのか？

どちらも人が恐れられる怪物だ。

かたや、炎を始めとする吐息を吐き、恐怖を引き起こす雄雄しい叫び。
岩を切り裂く爪に、あらゆる物を噛み砕く顎に並んだ牙。
立ちはだかるものをなぎ払う、太い尾。
その巨体にもかかわらず、空を飛ぶ為の翼。

かたや、人の形をしながら、凄まじい力を持っている。
その瞳は他人に、魅了（または恐怖）を植え付け、
銀や魔力を帯びた武器でなければ傷つかず、更にその傷もみるみる再生する身体。
背に生やした翼で空を舞い、幾多の魔法を使いこなす。
更にその牙で血を吸われきった者は、その吸血鬼の下僕となる。
下僕は更なる下僕を増やさんと、人々に襲い掛かる。

－もし、竜と吸血鬼が戦ったらどうなるか？

これはその疑問に答える戦いになるであろう。

薄暗い洞窟の中、一人の少年が歩を進めている。
明かりも灯さずに進むその姿には、微塵も恐怖は感じられない。
ふと前方から何かが現れた。
－キキッ－
「ご苦労。…眠ってるところを襲われちゃたまらないよね」
目の前を飛んでいる蝙蝠に労いの言葉をかけた後、
少年は溜息混じりに呟いた。
そして、少年はまた歩を進めた。
「…気配が濃くなってきたな」
その呟きに答えるかのように、周囲の空気は熱気を帯びている。
耳を済ませてみると、竜の吐息が聞こえてくる。
「さっさと済ませるか」
そう言って少年は《姿消し》の魔法で姿と気配を消し、再び前進した。

洞窟を抜けた先は岩盤でできたホールのような場所だった。
奥にはマグマが煮えたぎり、その上に赤い鱗で覆われた竜が丸くなって眠っていた。
自分のねぐらに侵入者が現れた－姿は見えないが－にも関わらず、
相変わらず竜はいびきをして眠っている
－悪く思うなよ－
少年はマントから大鎌を取り出し、背に翼を生やして飛んだ。
そして、高所から勢いをつけて刃を頭部へ勢いよく振り下ろした。

「ヌッ！？グォアァァァァァ！！」

鎌の刃は間違いなく頭に刺さったのに、竜は死んではいなかった。
それどころか、自分に襲い掛かった忌々しいモノに対して、
周りを振るわせるほどの雄叫びを上げた。
「やっぱりダメか。じゃあ勝負はこれからだ！」
胸に五つのバッジを身に付けている少年は、
怒りの篭った目線に怯むことなく、鎌を構え直した。

竜と吸血鬼の戦いは続く。
恐怖の雄叫びは、少年には効かず、
爪で引き裂き、噛み砕こうとする竜を、少年は難なく避けている。
「当たらなければどうって事はない！」
少年はそう言って空を舞う。
対して、竜の身体には無数の傷が刻まれていた。
竜は、自分をここまで傷つけた忌々しいモノを焼き尽くさんと、大きく息を吸い込んだ。
「それを待ってた！氷霊よ！刃に宿れ！」
胸のバッジに手を当てながらそう唱えると、鎌の刃に冷気が宿った。
ほぼ同じタイミングで、竜が紅蓮の炎を吐き出し、少年が突っ込んだ。

炎の吐息を、冷気の宿った刃で割りながら少年は進む。
その先にあるのは竜の口。
一噛みで小屋を粉々に出来るほどの巨大な口内に飛び込んだ少年は、
渾身の力を込めて鎌を振り下ろした。
「ゴァアアア！！！」
口内に再び、鼓膜が破れそうな程の雄叫びが響く。
そして、その口が閉じる前に、少年は最大限に強化した《吹雪》の魔法を唱え終えた。
「グッ！？オォォォォォ…」
口内を脱出した少年が見たものは、その巨体を倒しつつ断末魔の声を上げた竜の姿だった。

「ふぅ…今回は勝ったけど…もう二度は御免だな」
少年はそう呟くと、その竜の亡骸のある岩盤に降り立った。
その奥には石を組み合わせて出来た箱のようなものがあった。
「よっ…と」
蓋を開けると、そこには、赤く輝く宝珠があった。
「なるほど。コレが奴らの狙いだったか」
水晶球の中に竜の紋様が浮かぶ宝珠。
「じゃあ、さっさと帰ると－」
「そうはさせません」
その声に振り向くと、見覚えのある人物が洞窟の中から現れた。
半月を象った飾り付きのペンダントを下げた、黒ローブの女性－【ハーフ】－である。
「それは我らが主が必要としている物。それをお渡しください。“満月の王子様”」
「何度言ったら判る？僕はアロウだ！」
竜の屍越しに少年－アロウは叫んだ。
「…やはり実力行使しかありませんか」
「望むところだ！今日こそ決着をつける！」
【ハーフ】の言葉に、アロウは宙を舞い【ハーフ】に飛び掛った－。



竜と吸血鬼。どちらが強いのか？
その疑問となる答えがこの中にあるだろうか？
それを決めるのは、これを見ている貴方にある。