しゅーひ

【小説】紫翼のジーナ~22~

自作小説

『紫翼のジーナ』10-①話
原案:はじめあき
作者:しゅーひ


懐かしい声がする。誰だ?あぁ、なんだ父さんか。
なんで父さんが・・・いや、オヤジの声がするんだ?そうか、これは夢だ。
空腹を我慢しているので、子供の頃を思い出してるんだ。

母親の記憶は俺にはない。気がついたらオヤジと二人暮らしだった。
その頃の俺達はびっくりするほどド貧乏だったのでいつも腹を空かしていたものだ。
いくら優位種といわれる翼人族でも、単種族で構成されている国なので種族による優劣の差は発生しない。
生まれながらに裕福のヤツは金があるし、俺ら親子みたいに貧乏ぐらしで一生を終えるヤツはごまんといる。
その中でもオヤジは更にクズ野郎だった。
元は仕立て職人だったらしいが、俺には単なる働かない酒のみにしか見えなかった。
俺がオヤジの昔の知り合いの店の手伝いやら店番やらで日銭を稼がないとパンすら食えない日があったものだ。
しかも、俺が稼いだ金を取り上げて酒代にするという最低の野郎だった。
オヤジは母さんは死んだと言っていたが、逃げられたに決まってる。

兎に角、酒が入ると暴力的になるヤツだった。ぶん殴るならまだしも、〈念〉までぶっ放して来るもんだからこっちも必死で逃げていた。
でも、機嫌がいい日が続くと俺の服を作ってくれた。俺の体を測った訳でもないのに、オヤジが作る服はいつも俺の体にピッタリだった。
オヤジの作ってくれた服を着るのが、やけに嬉しかった記憶がある。
まあ、そんな事は1年に1回あるか無いかだった。

ところが俺が10歳になった頃、ウチはいきなり裕福になった。家も大きくなり、夕飯がスープ一杯だけなんて事は無くなった。俺は専属のメイドから『坊ちゃま』なんて言われるようになった。
仕立て屋にしては似合わないスーツを着込んだオヤジは子供でも判るぐらい怪しい奴らとつるむようになっていた。
オヤジは酒を飲んで暴力的になることは無くなったが家に戻る日も少なくなった。家に戻った時は上機嫌で酒とキツイ香水の臭いをさせていた。
仮面のような乾いた笑顔と場末のような臭いのするオヤジを俺は貧乏時代よりも嫌悪していた。
貧乏から脱出し、明日の夕飯の心配をしなくて済む幸福感にはじめは至上の喜びがあった。しかし、それが当たり前になると虚無感だけが残った。

つまらない毎日が続いたき、メイドにあたりちらす毎日が続いた。
金と女に溺れているオヤジ、金目当ての乾いた対応をするメイド、オヤジとつるむ怪しい大人たち。
それら全てを否定する負の感情を『オヤジを憎む』という事にすべて置き換えていた。
オヤジを憎むだけで何も出来ないその頃の俺は全く力がなかった。求めるだけで何もしない子供だった。

しかしながら、終わりは唐突にやってきた。

月がやけに明かる晩、オヤジに一人の白衣の男がたずねてきた。
月明かりが濃い影を落とす中、寝ていた俺は変な時間に目が覚めてしまい、居間に水を飲みに行った。
居間にある大きなテーブルの隅でオヤジと白衣の男が膝を付け合せていた。
オヤジと白衣の男は夜遅くまで話し込んでいた。というよりオヤジが一方的に話が違うだの、約束を反古にするのか、だの言っていたが、意味はさっぱり判らなかった。
しばらく大声を上げていたオヤジだったが、最後は『わかった、後のことを頼む』と白衣の男に言っていた。
白衣の男が帰った後、水を飲むのも忘れ、ぼーっと立っていた俺にオヤジは一言
「すまない…ジーナ」
と言って、ベッドのある部屋に入っていった。オヤジの悲しい色を灯した瞳は強烈に記憶に残っている。

朝になると、武装宮司と呼ばれる白い鎧の集団がウチに押し寄せてきた。そして、その武装宮司を率いていたのが緑の翼をもつモルトラ大神官だった。
武装宮司はオヤジを取り押さえた。オヤジは特に抵抗するそぶりは見せなかった。覚悟はとっくにしていたらしい。
ご法度の金糸の密売の容疑での逮捕だと、近くの武装宮司が声をあげていた。
ウチが裕福になったのはそういう事だ。まあ、まっとうな仕事をして得られる生活では無い事は子供でもうすうす感じてはいた。
「ジーナ、元気でな」
さっぱりした顔のオヤジは俺に向かってそう言うと、モルトラの方を向いて「後はたのみますよ」と言って武装宮司と共に家を出て行った。

オヤジの姿を見たのはそれが最後となった。オヤジに対する憎しみや憤りなどが不思議と白く霞んでいった。
暗い部屋から、扉を開けた明るい日差しの中に白く消えていくオヤジの背中と一緒に俺の感情も乾いた砂漠の砂のようにさらさらと白濁の中に流れ去って行く感覚だった。
家の中はモルトラと俺だけになった。メイド達はとっくに解雇していたようで、広い部屋に二人だけが残っていた。
白に傾いた感情が、扉が閉まると同時に黒くなっていくのに気付いた。


#日記広場:自作小説

  • スイーツマン

    スイーツマン

    2012/03/31 11:53:21

    なにやらこのあたり
    繊細な描写がいいですよ

  • ☆ひまわり

    ☆ひまわり

    2012/03/30 12:14:47

    過去に何か辛い思いをすると それが原因で 自分の気持ちに正直になれなかったり
    自分の内に閉じこもってしまう人も いるように
    ジーナにも 辛い過去があったんだ・・。

    これからジーナがどんなふうに成長していくのか 気になるところです。

    こういうコメ しゅーひに プレッシャーあたえてるのかしら?( *´艸`)ムププw
    頑張ってねーw

  • 小鳥遊

    小鳥遊

    2012/03/30 10:49:19

    一年ぶりの登場なのに主人公ともあろう者が寝ていた訳は、
    ちゃんとこうして意味があっての事だったのですね。
    夢を見て、子供時代を回想するという……。

    神官になる事にこだわっているジーナが、いつだったか
    自分はオヤジのようにはならない、と叫んでいた記憶があります。
    モルトラ大神官への態度といい、何か因縁があるのだろうと思っていましたが
    その辺りが、いよいよ明かされていくという事でしょうか。

    土日の更新も楽しみにしております。

  • しゅーひ

    しゅーひ

    2012/03/30 10:15:58

    今回の10話は三部構成です。

    過去の話の①のURLは下記です
    ジーナ 1話(①~②)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=20519730

    ジーナ 2話(①~②)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=20580708

    ジーナ 3話(①~②)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=20718487

    ジーナ 4話(①~②)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=20850968

    ジーナ 5話(①~⑤)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=21006546

    ジーナ 6話(①~④)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=21599175

    ジーナ 7話(①のみ)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=21958333

    ジーナ 8話(①~②)
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=22155377

    ジーナ 9話
    http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=608204&aid=38680320