遥か昔の話
船を弄ばれる為に大時化の海に旅立ち。
現在、大陸のどのあたりかもわからない砂浜で、次の目的地を決めかねている一行。
「船長さんはここがどのあたりか判りますか」
漸く気絶から開放されたらしい船長…多分、待つことに飽きたリルドあたりがたたき起こしたと思われる…に、現状を軽く報告して尋ねる。
近場を探索してわかったことは…このあたりに村や町はないらしいということ。
「さぁね…このあたりにはあまり詳しくないかな」
申し訳無さそうに応える船長。
時化に船を出した記憶さえも無いらしい船長は、何がなんだか判っていないようだ。
「とりあえずは、もう少し足を伸ばして探索するしかないんじゃねぇ?村なり町なり見つけん事には、野宿しか手段がなくなるんだが」
大陸の砂浜で盛大な迷子になっている事に、薄っすらと気がついてはいる。
その、打開策には町や村を見つけ出して現在地を知る事。
船長は、知らないという…唯一大陸を知っている彼が知らないのだから、本来ならもっと焦った方がいい。
しかし、二人は結構のんびりしている。
時化を乗り越えた事で、自分達を「大物」と自覚したのか堂々としたものだ。
いや、ただ単に島の気質でのんびりしているだけ…さらに、焦って行動してもいい結果を生まない事を良く知っていからなのだが。
「なら早く近くを探しましょうよ!こんな何もないところで野宿なんてなったりしたら…それに、モンスターだって出てくるんですよ!」
モンスター…既に、自然界の一部になっているが人間に対しての敵対心は他の野生動物に比べて強い。
そんなのが闊歩する大陸で野宿など…キャラバンのような大人数で見張りもしっかり置けるならばともかく、三人しかいない…しかも全員が丸腰だ。
「確かに…少しは焦った方がいいのかな?船から投げ出された時に全部持っていかれてしまったからね」
「そうだな…とりあえずは、近場にあった道っぽいのに行ってみねぇ?どっちかに行けば人のいる所にいけると思うんだが」
浜辺の近くには道らしきものがあった…長年、何かが通ることで作られる道。
頼りない感じもするが、幅も広いのでキャラバンのような大移動するものが通っていると予測しての事である。
その先には、きっと人の多い場所があるだろうと…期待して間違いないだろう。
三人は、とりあえずその頼りない道を歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
北の大国ジャベルーンの進軍には人がいない。
むしろ、モンスターばかりが町を襲って人を食いちぎって占拠しているようである。
ただ、そのモンスターの動きは統制が取れていた。
人に近いモンスターならば、人と同じように作戦を考えて実行する事も可能だが、進軍しているモンスターには人型はいない。
多分、誰も見えない場所から進軍しているモンスターに指令を出している者がいるのだろう…それを、見つけることは出来そうにないが。
「…もうすぐ夜になりますね…昼間に放った鳥のおかげで敵の陣地も判りました。夜になれば、その目障りな陣地ごと次の町も落とせましょう」
抑揚無く報告をしているフードを深く被った男。
そのフードの隣に立つのは、左側頭部に角を持つ以外は人にしか見えないモンスター。
色白の顔に不気味な笑みを浮かべて嬉しそうに報告を聞いている。
「…それにしても博士…我々を受け入れる事は、全住民の望みだったのでしょうか?」
何か、含みを持たせた言い方をするモンスター…隣のフードの男を値踏みするかのように一瞥を与える。
「それはもう…全ての住民の悲願です。たとえ、どのような事があっても、北の大国ではなく、世界の中心として君臨する事が!」
博士とは…大国ジャベルーンの地下深くに魔方陣を作り、魔王を呼び出した男の事。
魔王を呼び出した直後に、国王は魔王に飲み込まれ…全てを失ってしまったが、博士は半身を失いながらも生きながらえる事が出来た。
今、彼の半身は、醜いゴーレムに繋がれているが…北の大国の悲願のため、全ての住民を生贄にして完全なる魔王召喚を果たしたのだった。
「…そう…たとえ、どのような事があっても…か。素晴らしい忠誠心ですよ。これからも、活躍を期待しているよ」
そういい残して、モンスターは夕闇に似た赤い翼を体から広げ空へと消えていく。
後、数時間…この世界が闇に包まれた時…再び恐怖の悲鳴が響き渡るだろう。
大国の悲願のためだけに、人類を敵に回した男の手によって。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「本当に助かりました」
頼りない道を歩いている三人の元に、キャラバンがすれ違おうとしていた。
それを、何とか呼び止めて近くの町まで一緒に言ってくれないかと頼み込み、それを、快く引き受けてくれたキャラバン。