安奈

おや? まだ腐った展開にならない 5

自作小説

セルカを引き取ってから早二か月少々。
"様"付けではなくなったものの、未だティーグは主で自分は金で買われた身分と言う立ち位置を頑なに変えようとしないセルカに、ティーグはお手上げ状態だった。
(そりゃ、結果的には奴隷のように金で買う事になったけどさー。おれはそんなつもりで引き取った訳じゃないんだよ~)
心の中で頭を抱え、思わず小さなため息をついた。
「あ、すみません。何か気に障ることしましたか?」
とたんにセルカがかしこまった表情で謝罪の言葉を口にし、ティーグはまた頭を抱える。
「ああ、ごめん。ちょっと仕事の事考えてて」
頭をなでてやろうと手を伸ばせば、未だにビクッと身体が強張るセルカにまたため息をつきそうになり、慌ててそれを押し隠した。

やはり、勝手に身内の元から連れ出したのが良くなかったのだろうか。
全てを諦めた瞳に、希望の光をともしてみたかったのだけれども…それはティーグの勝手な思い込みで、彼は彼なりにあの家にいて幸せだったのかもしれない。そう思うと、またもため息が口をついて出そうだった。
「あのさ、セルカ」
化け物退治の依頼人であるこの町の町長に招かれ用意された部屋で、ティーグはため息の代わりにセルカの名前を呼んでみた。
「なんですか?」
それへとセルカは小首を傾げ、黒い目でまっすぐにティーグを見つめて返事をする。
もしもセルカがあの家に帰りたいのなら…そう言いかけた時、町長が詳しい依頼内容を話したいと言っていると、召使いが呼びに来た。

話しによると、この町から少し離れたところにある砂丘にひと月ほど前から砂虫が出るとの事だった。
砂丘はこの町の観光資源で、このまま砂虫に居座られると町の収入が激減してしまう為一日も早く何とかして欲しいと言うのが依頼内容である。
ちなみに砂虫とは、一般的に体長10M(この世界はメートル法が用いられてます)、体高は1Mほどの大きさの芋虫のような姿の生き物で、体色は白。普段砂の中にもぐっているので目は退化して無く、漏斗状の口から消化液を出し、有機物なら何でも食べる。
通常は砂漠に出没する化け物である。それが何故こんな海辺の砂丘に出現したのか…そんな事は正直ティーグの知った事ではなかった。
一般的に魔物退治を生業としている者は、その相手の弱点を探る為魔物に対する知識も豊富なものであるが、炎すら凍らせる事のできる必殺のブレスと鋼鉄をも引き裂く爪を持つティーグは、相手の生態について頓着した事など一度もなかったのだった。

砂虫の出る時間は不定期、と言うか、腹が減ったら動き出すと言ったところだろう。
とりあえず一時与えられた部屋へ戻ると、ベッドに腰掛け足をぷらぷらさせていたセルカが戻った自分に気付き、慌ててベッドから降りると「お帰りなさいませ。ご苦労様でした」と言った。
その一歩引いた様子にまたため息がもれそうになる。
「今から支度して出かけてくる。お前はここで待ってろ」
いつ出てくるかわからない為、砂虫が現れるまでしばらく砂丘で待機しなければならない。
そんなに日数はかからないと思うが、それでも水や食料はいくらかは持って行きたい。 …まあ、砂虫が腹を減らしていれば自分の足音を感知してすぐにでも出て来てくれるんだろうが。
「戻ったら話があるから…」
そう言って頭を撫でようと伸ばしかけた手を少し下げ、セルカの頬にあてる。
意外にもセルカはそれに対し嫌がる様子も怯える様子も見せない為、ティーグはそのまま頬に手を滑らせると「行って来る」と言った。

町の外に広がる砂丘に出て二時間ほど。いきなり足元の砂がべこっと陥没したと思ったら、その下から砂虫が大口を開けて現れた。砂丘に人が入らなくなってしばらく経つ為腹を減らしているんじゃないかと考えていたティーグの予想よりも、ちょっと遅い出現である。
砂虫の口の上側…普通に言えば鼻のある辺りを蹴って身を翻し、そのまま伸び上ってくる砂虫の背中側に飛び降りながら普段は隠してある爪を伸ばすと、その背に突き立てた。
その途端、音にならない叫び声を上げる砂虫。
空気を振動させるその声に、ティーグは顔をしかめながら砂の上に着地した。
直後、消化液や体液をまき散らしながら砂虫が襲いかかってくる。ティーグはめんどくさそうに舌打ちしてその消化液を避けると、改めて爪を振るう。
再び叫び声を上げるが、今度は頭を持ち上げる余裕もないらしく、ぴくぴくと痙攣した後、動かなくなる。
試しに蹴飛ばしてみたが反応はなく、爪で突き刺してみるが今度は悲鳴も上げなかった。
どうやら一件落着したらしい。
後はこの死骸を依頼人に確認してもらい、報酬の後金をもらって終了だ。
今回も楽な仕事であった。


セルカは小さい頃殴られる事が多かったので、上からおりてくる手がこわいんです。
ティーグ視点だとこう言うとこが書けなくて、結局こんなところに^^;


#日記広場:自作小説

  • 安奈

    安奈

    2012/06/17 19:08:08

    今晩は。
    そう言えば、外見に関する詳しい描写がないんですよね^^;
    ジュンさんのご想像にお任せします^^

  • ジュン

    ジュン

    2012/06/16 23:09:57

    セルかは当然・・・美形ですよね???誰にたとえようかな・・・

  • 安奈

    安奈

    2012/06/16 20:23:33

    ♪~Rin~♪さん、今晩は。
    すれ違いでしたね。
    そうなんですよね。上手くいれ込めなくて、結局こんな欄外(?)に^^;

  • 安奈

    安奈

    2012/06/16 20:20:31

    シフォンさん、今晩は。
    そうなんですよね。
    こう言う主人公の視点では分からない情報って、どうやって出したらいいのか^^;
    腐るのは…セルカがもうちょっと成長してから。かな~?

    みなわさん、今晩は。
    チーさんは、元ノラの割に降りてくる手にそんなに警戒しません。
    前にいた安奈はペットショップから来たのに警戒しまくりでしたが…。
    なんででしょ?^^;

    ☪ りょう ☪ さん、今晩は。
    頭なでようとすると、その手をじーーっと見つめたりしますよね^^;
    ムツ○ロウさん最近見ませんが、どうしてるんでしょうね~。

    ゐ故障中さん、今晩は。
    そうなんです。一応最強の種族と言う設定なのでw
    腐るのはもうちょっと後ですねww

  • ♪~Rin~♪

    ♪~Rin~♪

    2012/06/16 20:20:08

    ほんのちょっとしたことだけど意外と重要なことを、どこに入れるかで悩むんだぁよね。

    手が頬を滑るようになったら、もうちょっとですな♪

  • ゐ故障中

    ゐ故障中

    2012/06/16 17:09:06

    ティーグ強い…
    腐る暇ありませんねw

  • ☪ りょう ☪

    ☪ りょう ☪

    2012/06/16 14:58:00

    こんにちは。
    にゃんこやわんこも上から下りてくる手が怖いんでしたよね。
    やはり、ここはム○ゴロウさん的に顎を「よーっしゃ。よっしゃ」ですかw

  • みなわ

    みなわ

    2012/06/15 22:34:10

    ティーグとうちのももがダブる…。
    ももも捨て犬だから、上から降りてくる手が怖いの^^:

  • シフォン

    シフォン

    2012/06/15 21:13:12

    なるほど。
    主人公視点だと主人公に分かることしか書けなくなりますもんね。
    その代り主人公のことはより伝えられるのかな。
    まだまだ腐る展開は遠そうですかな?^^