紅玉

遥か昔の話

自作小説

キャラバン隊は街までの道中、何度か野営をした。
その間に、誤解が解けたのかあるいは隔離するのも面倒なのか、二人の扱いが最初の頃に戻っていた。
一応、見張りらしき守人がついて歩いてるが、それ以外は何ら変化は無い。
なにより、キャラバン隊の前に現れるモンスターは、目玉のような特殊な物ではなく、普通のものだったし。そのためか、リルドの暴走もなくなっていた。
しかし、痣は相変わらず背中に姿を表している。
「これ…照れ屋でなくなって形が確認できるようになったが…なんなんだ?」
「さぁ…でも、最近は暴走もなくおとなしいよね。敵を見て力の加減を見ているんだろうか」
二人は、キャラバン隊の馬車の中…こそこそと話し合っていた。
もちろん馬車の中には守人も乗り込んでいるが、二人のことはあまり気にしていない感じがする。
「いっそのこと聞いてみるか?」
旅の多いキャラバン隊なら何か知っているかもしれないと結論付けたリルド。
これ以上何かあっては困ると訴えるカリスを避けて見張りの守人に尋ねる。

「照れ屋の痣ぁ?」
質問内容がいまいち伝わっていなかった…と考えるのはリルドだけで、普通に考えてもその質問では答えは出ない。
変りにカリスが質問する事になるのは日常。
「最近、彼の背中に痣が現れたり消えたりしていたんです。しかし、目玉との戦闘以降、出っ放しになっている痣なんですが」
そういって、リルドの許可無く上着を捲り上げて痣を見せる。
一瞬、守人は驚いた…と言うか、一瞬どころでなくかなり驚いている。
「…おいおい…そいつは「勇者の紋章」とかじゃねぇか?」
指先でなぞるように痣を確かめる守人。勇者の紋章といっているわりには、恐怖の視線を向けているのが気になる。
「…って事はオレは勇者か?…ばかげてる」
ため息と一緒に呟くと、守人も同意といわんばかりにため息をつく。
「勇者って、魔王を倒したんですよね…リルドがそれだったら凄いじゃないですか」
何故か、我が事のように喜びを表すカリス。目玉以降、捕縛とかの扱いを受けたリルドの事が心配で、これで無実だと胸を張っていえるのが嬉しいらしい。
「…いなかじゃぁ、どういった言い伝えになってるかしらねぇが。勇者っていってるが、モンスター軍の裏切り者なんだぜ」
二人は、全く知らない伝承を聞くことになった。

◇◆◇◆◇◆

遥か昔、魔王の側近の一人が魔王と相対する事となった。
意見の食い違いとでも言うのか…魔王は、人間を滅ぼしモンスターの世界を作る事を切望した。
対する側近は、人間の家畜化…絶対的な力による、人間の支配だった。
魔王は、自らが敗れようとする時、側近だったモンスターに呪いをかけた。
いずれ、自らと敵対する力となった者。
そのものに、呪いの力を与えん…いずれ、覚醒した時に…その力は忌み嫌われるものとなるだろう。
そして、側近が使っていた剣さえも闇の力に染まり、何処へとも無く消え去ったと言う。

◇◆◇◆◇◆

「…って、どういうこと?」
確かに、良く判らない。
呪われたといわれている割には、力が強くなったりと結構便利に使える…暴走以外は。
剣なんかは、リルドは始めから使っていない。
「あのな、この紋章はモンスターにしかあらわれないんだよ…しかも魔王に敵対できるくらいの上位モンスターにしかな」
そういってため息をつく守人。
ただ単に、リルドのモンスター疑惑が再浮上しただけだった…しかも、かなり確信的に。
「…彼はモンスターじゃないですよ!ずっと村に一緒に暮らしていたんだから」
しかし、それは人間の証明にはならない。
何年も人間と生活できるモンスターもいるのだから、しかも、田舎ならば人型のモンスターを知らない。騙しやすいといえるだろう。
なおも難しい顔をして、他の仲間に知らせようか考えているように見える守人になおも言い募ろうとカリスは乗り出した。
それを、止めたのはリルド…一応、自分の立場がキャラバン隊の中で微妙なものになったのは理解できたが、いまひとつ疑問が残る。
「…なんか、人間家畜化って言っても家畜化されてねぇ感じだし。その、呪いの痣が今になってあらわれてるのは何でだ?」
確かに、魔王に敵対する者にあらわれるといわれているが、魔王の噂は聞いていない。
何より、側近の計画したらしい家畜化は全然進んでいないようである。
「まぁ、伝承なんてそんなものだしな…もしかしたら、モンスターにしかあらわれない紋章ってぇのも伝承の中だけの存在かもな」
そういって、守人はその場を離れていった…が、誰かに伝える事もしていないようだった。