ま、お茶でもどうぞ

蒼雪

日々感じたことを書いています。
なんとなく、徒然草。

モンスターハンター  騎士の証明~16

自作小説

【ハンターは夜明け前に発つ】 

 密猟者達が眠りにつくと、夜の静けさが身に押し迫ってくるように感じられた。
 キャンプの寝床は女性陣とオトモに譲り、ブルースは彼らの見張りも兼ねて、グロムと焚き火を挟んで座っていた。時々空を渡る流れ星の音さえ聞こえてきそうな夜だった。
「……みんな、ぐっすりですね。あんな騒動の後じゃ、無理もないか」
「――そうだな」
 グロムが窺うようにこちらを見ているのに気づき、ブルースは目でうながす。
「何だ?」
「あ、いや……。その、ナイトってのも大変ですね、と思って。どうしてユッカは……あ、俺の妹なんすけど、ナイトになりたがるのかなって。普通のハンターでも、やりがいあるのに」
「さあな……。それは本人のみぞ知るところだろう」
「……ですよねぇ、ははっ」
 取りつく島もないブルースの様子に、グロムはこめかみを指先で掻いて、はあと、ため息交じりの笑いをこぼした。

「……君は、結婚しているようだが」
 ぱちぱちと、焚き火が爆ぜる音がしばらく続いた後で、おもむろにブルースが尋ねた。半分うとうとしていたグロムは、はっとして面を上げる。
「は、はいっ? し、してますが何か?」
「ユクモ村に残した奥方は気にならないのか? 確か彼女も、ハンターだったはずだが。もう引退したのか?」
「奥方なんて、そんなガラじゃないっすよ!――って、ミーラルに聞かれたらどやされるな。……んー、引退じゃなくて産休? ですかね」
「子供がいるのか」
「えっへへへ」
 グロムはたちまち目じりを下げて、鼻の下をこすった。
「今年の初めに生まれたんですけど、ハヤトっていうんですけどね、あ、男の子! それがもう、俺に似てかわゆいのなんの……。あいつが生まれるまで、赤ん坊がこんなにかわいいなんて思わなかったなあ」
「ふうん……」
 ブルースは手もとのお茶が入ったカップを舐め、面白そうにグロムを見た。向こうは、心ここにあらずと言った様子で、まだニヤニヤしっぱなしだ。
「ミーラルのおふくろさんも、ハヤト見たさに、毎日俺の実家の饅頭屋に顔出すんですよ。そのついでに、家業の道具屋ほっぽりだして、おふくろと一緒に饅頭売り手伝ったりして。昔はミーラルのおふくろさん、すげー身体弱かったんだけど、今じゃすっかり元気です。きっと、ハヤトのおかげかな」
「それは良かった」
「でね、ミーラルが昼間に道具屋の店番して、夜に俺の実家に戻る暮らしになってるんすけど、なんか親同士が意気投合しちゃって、両方の店、ひとつにしようかって話になってんです」
「ほう」
 ブルースは、ほほ笑ましそうに相槌を打った。身ぶり手ぶりで話すグロムの様子が面白かったのだ。よほど誰かに話したくてたまらなかったらしく、グロムののろけ話は止まらない。
「饅頭だけじゃなくて、温泉地だから、温泉卵も売ろうじゃないかって。それで店大きくして、ユクモ一の百貨店にするつもりっすよ。夢どんだけ広げるんだっつの」
「ははは」
 たまらず、ブルースは声を出して笑った。グロムも肩を揺すって笑う。
「ね、笑えるっしょ? 田舎の親父どもはこれだからなあ。――あ、でも……。だからなのかな……」
 ふと、グロムは笑いを収めて真顔になり、焚き火を見つめた。
「どうかしたか?」
「あ、いや……妹のことっす。あいつ、俺がミーラルと一緒になった日から、ほとんど家に寄りつこうとしないんで」
「……」
「おふくろがね、ユッカの顔見るたびに、早くお前も結婚しろって言うんですよ。ハンターなんかやめて、孫の顔見せろって言った日に、あいつ、おふくろと大喧嘩しました。今までそんなことなかったのに」
「ふむ……」
「ハンター、ユッカにとって大事な仕事になっちまったみたいです。小さい頃は、ままごととお人形遊びが好きで、おふくろとも将来どんな嫁さんになるかとか、当たり前に話してたのに」
 グロムは傍にあった水筒を引き寄せると、ぐいとあおった。中身は赤ワインが入っていた。ごつい喉仏が動くのを、しばらくブルースは、なんとなしに眺めていた。
「もしかしたら、あいつの居場所、俺が奪っちまったのかなあ、なんて……。ガラにもなく考えちまいます」
「そうか……」
 大変だな、ともブルースは言わなかった。はい、とだけグロムはうなずく。お互いに踏み込み過ぎない距離感が、今の彼には心地良さそうだった。
「もちろん、ユッカはそんなこと言ってません。でも、おふくろの親心にあそこまで傷ついて怒るなんて、初めてのことで……。ひょっとしたら、あいつ、好きな男でもいるのかなあ?」
「……どうだろうな。だが……一途なことは、良いことだ。そこまで情熱を傾けて仕事をするハンターは、実はそう多くないのでね」
「そうなんすか。はは、ユッカに聞かせたら喜ぶな、きっと」
 どこか切なく笑うグロムに、ブルースは優しく言った。
「君は、本当に妹思いなんだな」
「そんなことないっす。俺的に普通っすよ。つか、すいません、世間話振ってもらったのに、なんかこみいった家庭の事情話しちゃって」
 いや、とブルースはかぶりを振る。
「どこの誰も、皆そんなものだ。気にすることはない」
「――あざっす」
 グロムは照れたように頭を掻いた。ふと見上げた東の空が白んでいるのを見て、小さく吐息をもらす。
「――行くのか?」
「はい」
 ちょっと寂しそうに笑い、グロムは腰を上げて装備を整え始めた。
「ブルースさん達が、あいつらをあまり傷つけないでいてくれて助かった。これで俺も、本気で狩りに行けます」
「名残惜しいが……。武運を祈る。良い狩りを」
 ブルースも立ち上がり、黙礼した。グロムもそれに目で応え、自前のガンランス『煌銃槍イシュタル』を背負うと、小声でオトモの名を呼んだ。
「ケマリ。そろそろ行くぞ」
 ささっと小走りの気配がして、ケマリがテントから姿を現し、グロムの脇についた。理屈っぽい口調があるアイルーだったが、グロムによく懐いているのは目に明らかだった。
「それじゃ。そちらも、無事に事件解決できるといいっすね」
「この度のこと、本当に感謝する。じきに感謝状を贈ろう」
「あ、勇気の証Gならいらねっすよ! マジ持て余してるんで」
「はははっ」
 慌てて両手を振るグロムの様子に、ブルースはまた笑った 。
「それじゃあ」
「ああ。――元気でな」
 右手だけを振って、グロムは応えた。振り向かず行く先から、澄み切ったオレンジの光が地平線をなぞっていく。
 しばらくブルースは、遠ざかっていく男の後ろ姿を見送っていた。やがて、眩しくて見つめていられなくなると、砂の丘陵から目を逸らす。そこでふと、何かに思い当たった気がした。
「そういえば……。エルドラ公国は、ガル国の属領だった土地だ。密猟されたモンスターが向かう先はエルドラ……。この密猟団といい、これは何の符号だ……?」


#日記広場:自作小説

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/07/27 12:56:53

    トゥさん、コメント感謝です。

    あれだけの覚悟で臨んで、戦って守り抜いた女房(ミーラル)ですから。彼女との子供が可愛くないわけないですね^^
    ユッカの悩みは、リアルにどの家庭でもあるもので、ちょっと生々しかったかなと思いましたが、そのまま書きました。まあ、たまにはユッカもキレることがあるってことです。
    幸せの形は、結婚だけじゃない。人それぞれですから。

    勇気の証のくだり、気づいてくださって嬉しいです。さりげない意図に気づかれるトゥさんの心配りには、いつも感心いたしますw

    「紅玉もてあまし」言ってみたいですね~^^
    紅玉のようにレアアイテムをたくさん出すということは、それだけたくさん強敵を狩れるってことですから。
    リオ2頭クエは、未だに一人ではクリアできないから、ソロクリアの人を尊敬します。

  • トゥ

    トゥ

    2012/07/27 00:36:05

    わあすっごーく幸せそう!
    グロムがこんなにデレデレパパになっちゃうとは意外でした、あははっw
    もう家族のために、何があっても無事に帰らないわけにはいかないですね♪

    ユッカの気持ち、なんとなくわかるような気がします。
    追いかけている夢、真剣に進んでいる道を「なんか」と言われたらわたしも親子ゲンカしちゃうかもw や、確実にしますw
    ユッカはあまり家族とケンカしたことがなさそうなので、家から離れるのも自立の道程でしょうか。
    彼女もすてきな女性になっていそうですね。再会がたのしみです!

    それにしても勇気の証Gを持て余しているとは。
    さりげなく、ハンターとしての腕を物語っている台詞です。言ってみたいです。
    「あ、火竜の紅玉また出ちゃった。持て余して困ってるのに」
    とか。言ってみたいなあ!w

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/07/26 08:35:09

    イカズチさん、コメント感謝です。

    この話は、イカズチさんから設定のメールを頂いてから、早く書きたくてたまらなかったもので、さほど時間をかけずに一気に書けました。
    体調は大丈夫です。ご心配頂いてありがとうございます^^

    グロムのセリフのみでしたが、和気あいあいとしたグロム家・ミーラル家の様子が伝えられて何よりです。
    お茶の間ホームドラマみたいなノリで書きました。
    ミーラルお母さんもハッスルしてる感じ、伝わったでしょうかw

    名前と性別の方、ご快諾頂けて嬉しいです。ありがとうございます。男か女か迷ったんですが、直感で男の子にしました。
    次に女の子が生まれてると良いですねえ、なんて。ミーラルに顔が似て、性格はグロムとか。ハヤトは性格がお母さん譲りだったりして?
    グロムも、ハヤトが成長したら良い師匠になっているのではないでしょうか。
    実技はショウコが師匠で、グロムはその後ろ姿(功績)で。なんかドラゴンボールみたいですねww

    ユッカは今、21歳ですね。でも彼女なりに自立した生き方を目指しています。
    これからユッカが登場する展開で、そこを語っていくつもりです。安易な幸せに逃げないのは、ハンターの職に誇りを持っているのと、心の師匠ミランダのこと、それから…。
    ユッカの語るままに書きつづっていこうと思います。今から書くのが楽しみです。

  • イカズチ

    イカズチ

    2012/07/26 02:26:11

    連続での掲載、ご苦労様です。
    読む方は楽しいのですが、蒼雪さん、大丈夫ですか?
    無理なさっていませんか?
    お体を第一の執筆活動をお願いします。

    良いですね、良いですねぇ。
    こう言うグロムの近況、幸せいっぱいって感じです。
    子供の名前、私の方は考えていませんでしたので『ハヤト』に決定で。
    そうかぁ、男の子かぁ。
    すくすくと育って三代目『ユクモの護り手』となって貰いたいものです。
    師匠はグロム本人だと甘やかしが出るので、ユッカとショウコ辺りかなぁ。
    「あかんでぇ、ハヤボン。狩りっちゅうんはなぁ……」
    とかショウコに言われてる姿が容易に想像出来てしまう。

    そうかぁ、ユッカがねぇ。
    前のお話で『常にモンスターの脅威に曝され続けるこの世界では人間は早熟に成らざる終えない』みたいな事を書いたので。
    ユッカももう二十歳近いはずです。
    現代で言えば婚期も終盤に差し掛かろうかと言った所でしょうか?
    そりゃあ親も口うるさいし、ケンカもするわなぁ……。

    この回では何よりもミーラルの母、マユカの近況がわかって嬉しかったです。
    考えてみれば彼女だけが、前回、不幸のままだったので。
    ハヤトを抱っこしながら嬉々とする若いお婆ちゃん、そりゃあ元気にもなろうってもんです。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/07/25 10:00:39

    来週掲載しようと思いましたが、昨日に引き続き、今日もアップしました。
    グロムの家庭事情にまつわるお話です。妙にリアル。
    グロム登場はこの回で終了ですので、ごゆっくりお読み頂ければ幸いです。

    グロムに子供がいるという設定は、事前に原作者のイカズチさんからお話頂いてましたので、それをもとに書かせて頂きました。
    ですがご相談なく、子供の名前を勝手に書いてしまいました^^;
    もし、別の名前(性別)をお考えでしたら、ご連絡頂きたい次第です。すぐに訂正いたしますので。
    よろしくお願いします。

    ※例によって冒頭部の書式(段落下げと間隔)がおかしいですが、そこはあえてスル―してください^^;
    ニコタのブログって書式変更に弱いのかなあ…。案外使いづらい。