ま、お茶でもどうぞ

蒼雪

日々感じたことを書いています。
なんとなく、徒然草。

モンスターハンター  騎士の証明~24

自作小説

【初心、忘れるべからず】

 ハプルボッカの正式な二つ名は、『潜口竜』である。まさしく体を名で現したものだが、一般人には『大口の悪魔』で通っている。
 無数の牙を持つ巨大な口が凄まじい勢いで砂塵をかきわけ、こちらへ向かって来る様は恐怖のひとことだ。
 短い手足から想像もできないスピードで、相手を喰らわんと襲いかかってくる。これで大抵の人間は腰を抜かし、ハンターでも、避ける目測を誤って大口の餌食にされることが多い。
 抜刀したまま、ロジャーは冷静に相手の動きを見定めた。常に半身を砂に隠している用心深いモンスターだが、一度狙った獲物は執拗に追いかける。鼻づらをロジャーに向けるや否や、猛然と砂を掻いて突進してきた。
 迫ってくる巨大な口を、またもすんでのところで横に避ける。獲物をしとめ損ねた怪物は、ガチガチと悔しげに歯を噛み鳴らした。長い尾をくねらせてバランスを取り、激しく砂を跳ねあげて突き進んでくる。
「くっそお、また来たぜ! ハプルはこれだからめんどくさいんだよなあ」
 なかなか攻撃のチャンスが来ず、ボルトが遠くで愚痴った。防御は鉄壁だが、機動性の低いガンランスは、このような素早い敵には不利だからである。
「ボルト、そっちだ!」
「おうっ!」
 今度はボルトに狙いを定めたハプルボッカの突進を、ボルトは構えた盾で受けた。瞬間、ガツンという牙が当たる音とともに、すさまじい重量が負荷として盾を持つ左腕にかかる。ボルトの上腕が膨れ上がり、巨大なモンスターの突進を受け止めた。
「ぐぅっ!」
 盾の強度と鍛えた腕があるとはいえ、生身の人間だ。この一撃で大幅にスタミナを持って行かれ、踏ん張った踵が砂にめりこみつつ後退してしまう。
「ボルト、辛抱だよ!」
「素人じゃないんだ、わかってるって!」
 ムキになって言い返してきた仲間に、ロジャーは微笑む。
 神出鬼没、猪突猛進のハプルボッカ相手に、ロジャー達のような近接武器が攻撃できるチャンスは少ない。
(今、ブルースがいてくれたらな)
 3度目の突進を華麗にかわし、ロジャーは胸の内で思う。ハプルボッカの砂上突進中は、あんぐり開いた口の中が無防備なため、ここに攻撃を加えると怯んで軌道を逸らせることができるのだ。
 ハプルボッカは攻撃の手を休める気はないようだ。身をよじり、またこちらへ向きを変える。反転中は動作が鈍く見えるが、この時も手を出すわけにはいかない。 モンスターの巨体から繰り出される動きは予想以上に早く、下手に攻撃を加えようとすると武器を弾かれ、腕を痛めたり反撃を喰らうことが多いからだ。
 縦横無尽に砂地を駆けまわる相手に対して、ハンターは忍耐を強いられる。ボルトは早く攻撃したくてたまらないようだが、我慢して回避に専念していた。ギルドナイトとしての自覚が、本当は挑発に砲撃を連射したい衝動を抑えているのである。
(そういう僕も、人のこと言えないんだけど……)
 じっと機を窺いながら、ロジャーは内心で苦笑した。幾人もの犠牲者を出している恐るべきモンスターとはいえ、ロジャーの力量から見れば小物だった。相手が息を切らして動きを止めたら、ボルトと並んで総攻撃をかけるつもりだ。討伐まで、さほど時間はかからないだろう。
「ボルトじゃないけど、退屈だ……」
 ロジャーが思わずひとりごとを言った、その時だった。
 ――どうしたら、わたしもギルドナイトになれますか?
「ロジャー、よけろぉ!」
「っ!」
 鈴を振るような声音が脳裏に響くのと、ボルトが怒鳴ったのが同時だった。はっと我に返ると、目の前に大穴のような口が迫っている!
「くっ!」
 とっさに横へ転がって避けたが、目測を誤った。相手の顎がかすめて、剣を握る左腕に鈍い痛みが走る。切り裂かれてはいないが、危うく筋を痛めるところだった。
「ロジャー、ぼうっとしてんな!」
 ひとまず突進を終えたハプルボッカが、砂から上半身を出してエラを突きだした。立ちつくすロジャーをボルトが叱咤し、攻撃を加えようと敵の側面へ疾駆する。
「つっ……!」
 思わず舌打ちが出た。右手で自分の頬を叩き、活を入れる。即座に彼も走り、油断したモンスターの脇腹へ剣をふるった。
(どうして、君が――ユッカ君)
 ロジャーの持つ『双聖剣ギルドナイト』は、両刃の直剣だ。刀身がまっすぐなために、本来は切り払いに向かないが、研ぎ澄まされた切れ味が、それを可能にする。
 固い甲殻に覆われたモンスターの右腕が、振り下ろされたロジャーの連撃で、あっという間に切り傷だらけになった。そのすぐ隣では、ボルトがここぞとばかりに槍の突きを腹に入れ、砲撃を繰り返している。
 ギイイッ! と壊れた弦楽器のような声音でハプルボッカが鳴いた。鼻から白い煙を吹き出し、怒りにまかせて身体を回転させ、薙ぎ払おうとする。まともに喰らえば吹っ飛ぶところを、ロジャーは後退してかわし、ボルトは盾で防いだ。
「潜ったぞ! ちっ、また待ちかよ」
 ガンランスを背おい直し、ボルトはロジャーを睨んだ。
「おい、まださっきのこと引きずってるのか?」
「――そんなんじゃない」
 ズズ、と砂が動いた。ハプルボッカが砂の中から奇襲をかけようとしている。餌食にならないよう散開しながら、ロジャーはあえてかぶりを振った。
 さっきのこととは、ジル将軍の軍隊が戦ったティガレックスのことを指したのだろう。まさか女の子が頭に浮かんだとは言えず、ロジャーは唇を噛んだ。
(どうして、今、君なんだ)
 ロジャーの脳裏に蘇ったのは、今から5年前、初めてユッカに出会った時のことだ。
 ユッカとその仲間達がG級ジエン・モーランの討伐に成功したあと、その功績をロジャーはギルド長とともに讃えたことがある。
 その別れ際、思いつめたような顔をしたユッカが、単身彼のもとへ駆け寄って、こう尋ねたのである。
 どうしたらギルドナイトになれるのか、と。
(僕はあの時、嘘をついた。女性はナイトになれないと。でも、それがどうしたというんだ。もう終わったはずだ)
 昨夜に再会するまで、ロジャーはユッカのことを忘れていた。挨拶されて初めて思い出したのだ。
 ロジャーが少しも喜んだ反応を示さなかったからか、彼女は傷ついた表情を見せた。ユッカはどうして自分が傷ついたか理解できていたのだろう。なおさら見ていて切なかった。
 それらの罪悪感が、今になって襲ってきたというのだろうか。
(今は、集中しないと!)
 深呼吸をし、ロジャーはきつく剣を握り直した。砂に潜ったハプルボッカが、半分露わにしていた背を隠した。ボルトとの間にも緊張が走る。
 ここから先は、熟練ハンターでも油断ならない。気配を消し、背後を突いてくるのが相手の常套だ。一瞬のミスが命取りになる。
 相手の位置は、噴き上がる砂でわかる。攻撃時は息を止めるため、砂が止まった瞬間が回避を図るチャンスだ。
 数回噴き上がっていた砂が止まった。刹那、砂がこちらへ向かってせり上がってくる!
(慢心なんて、ナイト失格だな)
 牙を向け、ハプルボッカが砂の中から踊り上がった。獲物に跳びかかり、何度も食いつこうとする。だが今度はあやまたず、ロジャーは噛みつきを避ける。
(こちらも命を賭して全力で立ち向かう、それが、命を狩る相手への礼儀じゃないか)
 そうか、とロジャーは気づいた。ユッカのまなざしは、昔の自分とひどく似ていたことに。



 


#日記広場:自作小説

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/08/28 08:45:44

    生意気だなんてとんでもない。むしろ、とてもありがたいです。
    間違いのご指摘、お気づきの点がありましたら、今後もご遠慮なくお願いいたします。

  • イカズチ

    イカズチ

    2012/08/27 21:46:03

    わざわざ本編を修正していただいたのですか。
    読んでいた中で、この部分だけが妙に引っかかったもので。
    生意気な事を言ったようで申し訳ありません。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/08/27 09:24:04

    ※訂正のおしらせ

    コメントに頂いた修正文章、そのまま頂きました。
    自分でも考えてみましたが、ご指摘いただいた以上の文章が思いつかなかったため、コピーして載せさせて頂きました。ご指摘くださったイカズチさんにお礼申し上げます。ありがとうございました^^

    それにともない、字数がオーバーしたため、前の文章をカットするなど修正しました。

    今後も、お気づきの点がありましたらご指摘くださると幸いです。よろしくお願いいたします。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/08/27 09:14:43

    イカズチさん、コメント感謝です。

    ご指摘感謝です!
    実は書いた後、なんかぼんやりした文章だな、何が欠けているんだろうと考えていたのですが、ピンとこなくて困ってました。
    なるほど、主人公視点が抜けていたのか。イカズチさんの改稿のほうが、よりわかりやすいですね。
    すぐにそのように修正いたします。ありがとうございました^^

    モンハンはモンスターをやっつけてナンボの世界ですが、そこに真剣な命のやりとりがあるからドラマになるのだと思ってます。ナイトは誇り高いハンターというイメージなので、そういうセリフを思いつきました。タイトルの「騎士の証明」というのは、ロジャー達のナイト成長物語、という意味です。

    ご紹介した曲、なかなかカッコいいですよね。歌詞もハマってます。
    イカズチさんのご紹介された歌、これも名作。mp3に落として、採掘の時にかけて聴いてます。
    「神おまごみおまさっぱりニャ~」ってくだりが現実にシンクロしてたりして。ほんとに出ない…;;


  • イカズチ

    イカズチ

    2012/08/27 04:31:10

    珍しくと言いますか、文章に関してのツッコミを

    『なんら喜んだ反応を見せなかったので、彼女は傷ついた顔をした。どうして自分が傷ついたか理解できていたから、なおさら見ていて切なかった。それらの罪悪感が、今になって襲ってきたというのだろうか。』

    この文は主語が乏しく、視点が若干ブレ気味なので難解かも。

    『ロジャーが少しも喜んだ反応を示さなかったからか、彼女は傷ついた表情を見せた。ユッカはどうして自分が傷ついたか理解できていたのだろう。なおさら見ていて切なかった。それらの罪悪感が、今になって襲ってきたというのだろうか。』

    で、意味的にあっていますでしょうか?
    生意気な意見で申し訳ないです。


    『こちらも命を賭して全力で立ち向かう、それが、命を狩る相手への礼儀じゃないか』
    良い台詞ですねぇ。
    狩りの理由はハンターごとに様々でしょうが、命の尊厳を忘れていない。
    こう言う一言にキャラクターの魅力が出るのでしょうね。


    リンクの『「英雄の証」ボーカルアレンジ "狩人ノ調・G"【狩猟解禁】』胸熱なミュージックですね。
    ご紹介ありがとう御座います。
    これも可愛いっすよ。
    http://www.youtube.com/watch?v=1dtWLbpMlEQ&feature=related

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/08/25 12:20:16

    最近見つけた動画。モンハンのテーマに唄がついてます。

    http://www.youtube.com/watch?v=UwrGMF_l9Ck&feature=related

    歌詞あると良いですね。ニコ動ではあまり評価が高くないみたいだけど、自分は好きです。
    これ聴いて、作品、特にロジャーとユッカの方向性を、「これだ!」と思いました。
    ネタ考える時にずっと聴いてます。
    この歌ってる人の声、自分のイメージのロジャーとユッカの声、そっくりなんですよ(笑)