フリージア

金狼の重圧…17

自作小説

 「負けるだと?」
 不意に大声を耳にしたバタフライは少し驚きスタートに遅れた。当然ウルフはトップスピードで前に出て大きな差が生まれた。
 「あの野郎!!」
 バタフライはウルフの背中を見ながら昔を思いだしていた。まだ頭角を現していない頃、野次馬としてウルフを見ていた時、そして前回ウエスト地区トップとして初めてウルフと一緒に走った時のことを。全てを思い出しながら前にいるウルフを見てこう思っていた。
 『このウルフは何かが違う』
 昔のウルフの走りは静かだった。躍動的な走りだったが、下品なところはなく全てが計算されたかのように走る。本当に静かだったし、ウルフの立ち振る舞いはいつも落ち着いていた。それが今は違う。
 目の前にいる映像のウルフは、スタートしたと同時に気迫を体中から出した。スタートする前は普段のウルフそのものだった。なのに…
 ゲームだからか?ミカミは何かウルフの速さを操作しているのか?
 『まさかな…』
 速さを操作している疑念もあったが、やはり前に見たウルフの走りと雰囲気が違うのが気になった。何故か映像のウルフからオーラが見えるような気迫を感じる。
 まるで自分を見ているようだった。
 ウルフを探している時の俺はこんな感じだったのかもしれない。だんだんと目の前のウルフが自分に見えだす。
 「今前にいるのはウルフだろ!集中しろ!」
 そう声を荒げて、自分自身を鼓舞した。

 この高速道路は普通の高速道路と違ってやたらコーナーが多い。コーナーでの普通車の事故が相次いでしまい使用されなくなってしまったのだが、レースをするにはもってこいの公道だ。
 ウルフに食らいついているバタフライ。ここまで善戦するとは思っていなかったミカミ。
 ミカミは外でモニターを見ていた。
 「バタフライ、君は素晴らしい…君とのレースを見れば…きっと…」
 その時、ミカミの携帯が鳴った。
 「なんだ?…あの2人がバタフライを探している?…分かった、ここへ連れてきてくれて。もうすぐレースは終わる…」

 ウルフの正確な走りとはまた雰囲気の違うふわりと飛ぶように走るバタフライ。徐々に差を縮めていた。ここで速さは操作されていないことを確信する。嘘偽りなく、ミカミは忠実にウルフの能力を取りこんでいたみたいだ。
 そしてバタフライには見えてた。
 『見えるぞ、ウルフの弱点が見える。前回転倒はしたがウルフと走っておいたことがためになっている。それほど速く見えなくなってきた、それは俺が成長しているからだ。ウルフ、怖くないぞ!』
 弱点、それはウルフのマシンの性能にあった。前回のバタフライとの対戦でウルフのマシンは以前より出力を上げていたのだ。それで緩いコーナーを曲がる時でさえ若干ではあるがアウトコースへ軌道が膨らんでいた。バタフライにはそれが見えていた。
 『そこをつけば前へ出られるはずだ…勝てる!もうあんた追うのはまっぴらだ俺はもう誰も追いたくない、一番前を走りたいんだ!』

 そう、彼は成長していた。ウルフを倒せるほどの力を持つことができていたんだ。何も心配することはなかった、彼が思っていた通りウルフを倒すことができるのは仁王でもないフォックスでもないライトでもない、やはり彼だったんだ。
 
「今こそ俺はあんたを越える!!」
 最後のコーナーでウルフがアウトコースへ膨らんだのを見逃さなかったバタフライは一気に前へ出た。
 そして、バタフライが先頭のままジャンクションを通過した。バタフライは勝った。
 ウルフは負けた。あの無敵のゴールデンウルフが負けた。ゲームではあるがあのウルフが負けた、呆気なく。

 あまりにも呆気なく終わったウルフとバタフライの対戦。呆気ないのは当たり前、この物語はバタフライがウルフに勝ったことなどなんてこと無い事実だった。

  • あや♪

    あや♪

    2012/12/02 11:24:32

    今後の結末は・・・どうなるんでしょう??

  • kanno

    kanno

    2012/12/02 00:37:56

    えっ・・・?
    何々??
    どうなったって???

  • ミチクサ

    ミチクサ

    2012/12/02 00:34:51

    あっけなく終るって事は無いでしょうから・・・どんな展開が待ってるんでしょう・・・
    あの二人は、どんな結末を見ることになるのでしょう・・・か・・・

  • パン

    パン

    2012/12/02 00:18:21

    金狼は重圧から解放されたの・・。?