フリージア

金狼の重圧…19

自作小説

 「ハヤト、ウルフに勝ったって…どこでやったんだ?ウルフはどこにいるんだ?」
 何がどうなっているのか全く把握できないユウジとシン。そんな二人にウルフとのレースに勝ったバタフライは饒舌だった。
 「あれだよ、あれ。このゲーム機でだよ」
 そう指さす方向に今しがたバタフライが出てきたボックスがあった。ゲーム機とは考えつかなかった二人。さらに饒舌は続く。
 「肝心のウルフは精神が崩壊しちまってて、だからこのゲーム機にウルフのデータを取り込んでレースしたんだよ。それに勝てばウルフに勝ったと言うことになるんだったよな?」
 最後はミカミに問いかけた。ユウジとシンはそこでやっとミカミの存在に気がつく。
 「…あんたは」
 そう、ミッド地区の街で一度見た顔、あの時謎の言葉を残して姿を消した男がいた。
 睨みつけるようにミカミを見るシン、そしてユウジはバタフライに体を向け、先程の話の真を問う。
 「ウルフの精神が崩壊しただって?」
 「ああ、なんでそうなったかは聞いてないが、俺は実際に見てきたからな…あの状態じゃレースなんて無理だ、だからこのゲーム機なんだよ。このゲーム機は素晴らしいぞ」
 「ウルフも…」
 ケンから聞いたトップ3人の精神が崩壊してしまった話と、ウルフも崩壊してしまっているという話で、ユウジはミカミに目をやった。この男に聞かなければ、すべての話を聞かなければと思って。シンも同じ考えだったのだろう、彼はゆっくりとミカミに近づく。そして、ミカミを勢いで掴みかかろうとしたがユウジに窘められた。
 ミカミはこの前の二人と遭遇した時とは違い、シンの気迫に恐れを抱いていないようだった。
 「シン、ハヤトを連れておまえは帰れ」
 「なんでだよ?」
 「ウルフに勝って高ぶっているハヤトが心配なんだ、あの男からは俺が話を聞く。だから頼む」
 「…分かった」
 シンはバタフライに帰るよう促す。それに素直にしたがうバタフライはユウジがここへ残ることを気にとめることもしなかった。
 工場の廃墟を出る間際、バタフライは振り返りミカミに挨拶する。
 「じゃあな、ミカミ」
 ミカミはそれに応える。
 「じゃあな、バタフライ」
 廃墟の前に置いてあったミッドパープルのEMに軽快な動きでまたがり、バタフライはトップスピードで発進した。普通に帰ればよいものの、よほど気分が良かったのかレースに出ているような本気の走りでシンを置いていく。シンはついて行くのに必死だった。