ま、お茶でもどうぞ

蒼雪

日々感じたことを書いています。
なんとなく、徒然草。

モンスターハンター  騎士の証明~43(改

自作小説

【騎士の枷(かせ)】

 赤い気が宿った刃がイビルジョーの真正面を鋭く裂き、下顎から突きだした牙の数本が砕ける。モンスターは悲鳴をあげた。怯んだその鼻先に、なおもロジャーは切っ先を突き立てた。顔面から吹き出る龍気が手甲を通して肌を焼いたが、構わず剣を押し進める。
 ゴォオオ!
 黒くけぶる顔面に斜めの血しぶきがあがり、イビルジョーは恐れるように後ずさった。だがこれでは終わらせないと、振り向きざまの太い尾の一撃がロジャーを見舞う。
「ぐあっ!」
 尾の先が胸元をかすめ、ロジャーは横っ飛びに吹き飛ばされた。激しく地面に叩きつけられ、数メートル先まで転がる。
「ごほっ!」
  起き上がろうとして胸が焼けつくようにきしみ、ロジャーは何度も咳きこんだ。すかさずモンスターが地響きをたてて走ってくる。かっと割けた赤い口は、捕食よりも殺戮の歓喜にあえいでいるかのようだった。
「――くっ!」
 肋骨にひびが入ったのは確実だった。苦痛にきつく眉を寄せ、ロジャーは取り落した剣をつかんで立ち上がる。
 恐王がここぞとばかりに飛びかかってきた。顔面を覆う龍気がいつの間にか消えている。狂乱状態が収まったのだ。
 しかし、太い胴体は赤い稜線を帯びて膨張したままである。通常の個体が怒り状態に達した時に見られる特徴を、飢餓状態は常時保っているのだ。怒れるモンスターがどれほど危険極まりないものかは、周知の事実である。
「――怒りが、お前だけのものだと思うな!」
 ロジャーは突進してきたモンスターの顎を寸前でかわした。裂帛の声をあげて振り下ろされる巨大な足の間に踏み込み、その腱めがけて激しく斬りつけた。白く薄い繊細とさえいえる刃が、汚穢な皮膚と固い黒鱗をずたずたにしていく。
 激痛に負けたか、ついにイビルジョーがもんどりうって倒れた。横転してさらけだされた腹部に向かって、ロジャーは赤く光る剣をふるった。
「おぉおっ!」
 双剣の奥義である鬼人化は、あくまでたとえに過ぎない。だが、もがくモンスターに剣を叩きつけるロジャーの姿は、まさしくその名に違わぬものだった。
 ぼってりした肉厚の腹に両手の剣を振り下ろすと、どろりとした血が皮膚を破って噴き出す。その返り血がロジャーの赤い服をさらに暗く染めた。それでもロジャーは取り憑かれたように武器をふるった。
 次々に与えられる痛みに耐えきれないと、イビルジョーは吼えた。長い脚を蹴り飛ばすようにして身体を起こす。巻き込まれないように後ろに跳んだロジャーは、次の瞬間、恐ろしいものを見た。
「待て――どこへ行く?!」
 なんと、イビルジョーはロジャーに興味をなくしたのか、にわかに街の方へと歩み始めたではないか。
 モンスターに時おり見られる行動だ。対象にかなわないと判断した場合や、空腹を満たすために戦いを一時放棄し、その場所を離れることがある。
「やめろーッ!」
 ロジャーは疾走し、外壁とモンスターの間に回り込んだ。邪魔をするなといわんばかりに凶暴竜が高々と咆哮する。
「っ!」
 ポーチから閃光玉を取り出そうとして、反射的に両耳を押さえていた。鼓膜を突き破る大音声が響き渡り、頭蓋が割れそうになる。
 ずしん。
 ようやく硬直から解かれたロジャーの半ば麻痺した耳に、重い響きが届いた。見上げると、モンスターが再び街へと行進を始めていた。
 止めなければ。ロジャーは剣を収め、走り出していた。
(守らなければ――)
 何のために?
 頭の中で誰かが問う。もうひとりの自分のようであり、ティオの声でもあるようだった。
(弱いものがこれ以上傷つかないために)
 無意識にロジャーは答えていた。走りながら、腰の右に下がった革製のナイフホルダーに手を伸ばす。5本あるうちの一本を抜くと、すかさずイビルジョーめがけて縦に投げ打った。
 しかし歩みは止まらない。それでもロジャーは2本、3本と続けざまに投げる。巨大な体躯に、投げナイフは小石の一投よりも儚く見えた。しかし、4本目にしてようやくモンスターの注意がこちらに向いた。
「今だ!」
 今度こそ、ロジャーは閃光玉を相手の眼前めがけて投げつけた。爆発的な閃光が辺りを照らし、闇夜から怪物を浮かび上がらせる。
 ギャァオッ!
 視界を潰されて、イビルジョーがのけぞった。ロジャーはここぞとばかりに走り込み、たたらを踏む足首に剣を振り下ろす。
 ごう、と怪物が吼えた。足元をうろつく邪魔な敵を消さなければ、この囲いの奥にひそむたくさんの“食料”を得られないと悟ったのだろう。
 再び顔面を龍気が覆い、激昂した身体が、さらにひと回りふくれあがった。怒号をあげると、左右に身体をひねりながら地面をえぐるように踏み込んでくる。
「――っ!」
 膨張した筋肉が弾きだす速度に追いつかず、ロジャーの判断が一瞬遅れた。突き上げられる顎にひっかかり、全身が宙高く舞い上げられる。
「くぅっ!」
 地面に叩きつけられる寸前に受け身を取って、背中からの落下は免れた。だが衝撃で帽子が落ち、左のこめかみがうずいた。
(なんのために、僕は――)
 痛むこめかみから、ぬるっと温かいものが流れた。落下した時に地面の石で切ったらしい。
「くっ……」
 自分の血のぬくもりですら熱く感じる。吐き出す息が白い。それほどの寒さだった。
(僕はもう、戻りたくないだけだ。見ているだけしかできなかった、あの、弱かった自分に)
 ロジャーは腰のポーチを探り、回復薬グレートを取って一気に飲み干した。モンスターがこちらを振り向く。顎の形が残忍に笑っているように見えるのは、イビルジョーの特徴でもある。
 人体の回復機能を高める薬効が身体の痛みを抑えてくれた。ロジャーは土埃をかぶった帽子を取り上げると、手で払って素早く被り直す。
 この帽子を初めて戴いた時、思ったのだ。
「これが、僕の戦う理由……」
 ギルドナイトの剣は、モンスターにも人間にも等しく振るわれる。その理由は、ただひとつ。
 弱きものを守り、世界の調和を維持するために。
 いつの間にか月が昇っていた。青ざめた光が弧絶の騎士とモンスターを照らし出す。
 騎士の帽子は、誇りであると同時に枷でもあった。
 それは、ギルドの責任であり、人々の信頼であり、守るべき命の数々であった。
 ロジャーは襲いかかってきたモンスターの牙をかわしながら、隙ができたその顎に舞うように斬りつける。両手の剣が鮮烈な円を描き、比較的柔らかな肉が割けて血を飛ばした。
 心にかかる重圧と全身の苦痛が訴えている。今ここで逃げ出したら楽になる。命は助かる、と。
 だがギルドナイトが任務を放棄することは、死に値する重罪だ。
 生きるか死ぬか。騎士の称号を冠した時から、ただそれだけの選択肢しかない。
 ロジャーは歯を食いしばった。
(前から覚悟していたことだ。今さら後悔なんてしない!)
 ロジャーは相手の腹の下で剣を振りかざした。途端、剣筋に沿って流れるような火花が飛び散る。
「切れ味が!」
 ロジャーは歯噛みした。イビルジョーの腹部は、怒りによる筋肉の膨張に従って硬化する。今までは双剣の持つすさまじく固い刃によって気にならなかったが、幾度となく斬りつけたことによって、さしもの双聖剣の刃もわずかにこぼれ落ちてしまっていた。
 恐王が身を乗り出し、禍々しい牙を見せつけた。お前はもう終わりだ。そう告げているようだった。


#日記広場:自作小説

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/10 16:37:41

    イカズチさん、コメント感謝です。

    あっ、先に言われてしまった(笑)
    そう、おっしゃる通りですよ。

    >(弱いものがこれ以上傷つかないために)

    という意味は、誰も悲しまないように、という意味も込めてます。
    そのあとのイカズチさんのコメントが…

    >優しいまま強くなり、誰よりも悲しみを知っている彼だからこそ、

    うっ、それはこの後の後で書くつもりでしたww
    その洞察力、感服します。すごい!w

    もう全部、おっしゃる通りのままです。蒼雪が付け加えるところがないです!
    こちらの意図するところを、ちゃんと伝えられているということで、これは成功なのでしょうね。
    なんだかうれしいです^^

    ロジャーが、自分の地位や命惜しさに戦ってるんじゃない、というのがこの回のポイントです。
    ちなみに、「弱いものが~」というのは、先にばらしてしまうと、「自分の弱い心」も意味しています。
    どんなに強くてもミスすればモンスターに殺されるし、人の命もかかってるしで、そのプレッシャーを表したかったんですよ。
    小説はゲームとは違って、その世界に生きてる人を書かないとならないので、簡単に1落ちしました~とか書けないですからね^^;

  • イカズチ

    イカズチ

    2012/12/10 00:54:51

    ワクワクからドキドキへ、そして……。
    続きが気になるアクションです。
    『行けるものならガンスを担いで行って助っ人をかって出たい』
    そう思わせるほど、ロジャーの独白や心理描写が胸に突き刺さります。
    頑張れロジャー、もう少しだ!……たぶん。

    (弱いものがこれ以上傷つかないために)
    これは思うに
    (これ以上悲しむものを出さないために)
    と同義なのではないでしょうか?
    優しいまま強くなり、誰よりも悲しみを知っている彼だからこそ、そう考えて居るように思えてなりません。
    でもこの考えはもろ刃の剣。
    自己犠牲をも厭わぬ彼は、人よりも多く傷付くのでしょう。
    今回の戦い方はそれを象徴していますね。

    『ギルドナイトが任務を放棄することは、死に値する重罪』
    もちろんロジャーはギルドの法で罪を犯す事を恐れている訳ではありません。
    逆に例えギルドが『ジョーに手を出すな』と命じても、彼は今回と同じ行動を取ったでしょう。
    どうでしょうか?
    『枷』の意味が気掛かりですが。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/06 23:13:33

    トゥさん、コメント感謝です。

    三話連続でお読み頂きありがとうございます。お疲れ様でした^^

    この話で飢餓を出すのはちょっと迷いはしたのですが、動画や攻略情報を見たら、原種と動きや戦い方がまったく同じだったので、いけると思って決行したんです。
    私が2Gをプレイした経験から、動作パターンは同じでも気が抜けない相手の恐怖は書けるんじゃないかと思って。
    2Gで味わったトラウマを思いだしつつ書いています。
    もちろん嘘は書けないので、双剣でジョーを何回か狩ってきましたが。

    お話の盛り上げ方はいつも苦労します(^_^;)
    だって双剣は足しか攻撃するところがないんだものww
    それに苦戦しないとおもしろくないですよね。

    今回の決めゼリフ、気づいてくださってうれしいです。ありがとうございます^^
    タイトルは、枷=責任、を表したかったんですよ。
    そのせいでロジャーは逃げることができないけど、だからこそ命を賭して戦う意味があると。
    でも個人的には、怒りがーー、のセリフは、出すのが早すぎたかもしれないww
    またカッコいいセリフを考えないとです。w

  • トゥ

    トゥ

    2012/12/06 21:25:36

    40話から43話まで拝読しました。
    蒼雪さんのチャレンジ精神がすごいなと思ったんです。
    なぜってたしか、蒼雪さんは3Gをお持ちでなかったはず。いくら亜種で、動画を見ることができても、わたしだったら実際に戦ったことのないモンスターは書けません。反応が怖くてw
    でも、並のモンスターであればロジャーは苦戦することなく倒してしまいそうですし、古龍かイビルジョー飢餓くらいじゃないと……という気もします。作中の暴れっぷりがまさに恐王ですね。
    攻撃を受けるたび、「大変あのロジャーが!」とドキドキします。
    一人きりで、どうやって研ぐのでしょう。今回の終わり方も憎いですw

    「――怒りが、お前だけのものだと思うな!」
    と、
    (弱いものがこれ以上傷つかないために)
    この二文、文句なしに格好よくてわたしも好きです。

    それからタイトルの「騎士の枷」。これだけ読んだときはネガティブな印象を受けましたが、本文からそうではないのだとわかります。その双肩に、背にかかる重さを耐えて毅然と立つのが騎士なのだろうなあ。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/06 16:08:49

    小鳥遊さん、コメント感謝です。

    お気遣いありがとうございます。
    というか、知り合って間もないころ、小鳥遊さん=さえらさんだとお教えくださってましたので、覚えてますよw
    なので、登場させた「リトル」も、当初はさえらさんのお名前から頂いて別の女性キャラにしようかと考えたこともありました。迷ったのですが男性キャラが妥当と思いましたので、リトルになったのですが。

    再度にわたってお読みいただき、重ねてお礼申し上げます。
    こちらこそ、お手数おかけして申し訳ありませんでした^^;

    ご指摘に関しては、とても感謝しております。
    誰でも指摘されると痛いものですが、そこを聞き流さないで直さないと上達しないのでは…と思うのです。
    それよりも、「指摘されなきゃ直さないのか」という自分の怠惰と甘えを叱られたような気さえしてww
    推敲は妥協したらいかんですね。
    キャラとの対話をおろそかにして、良い作品が書けるわけがないですから。
    最初の稿では、つい「これでいいか」と書き終わってしまったので、その甘さが見つかってしまいました。
    でも指摘されないと気づかなかったかもしれません。
    読んでもらわないと、作品は完成しませんね。

    ここが読みたい、というご意見は本当に参考になりますので、今後ともご遠慮なくコメントくだされば、これ以上の幸せもございません。
    厚かましいとは存じますが、これからもよろしくお願いしたい次第です(こらこら)

    で、推敲の件ですが、自分ではまだ書き足りないかなと思ってます。
    言葉がうまく見つからなくて…。
    でも的確だったとのこと、じゃあ大丈夫かな?
    とりあえず、このままで掲載いたしますね。応援ありがとうございます^^

  • 小鳥遊

    小鳥遊

    2012/12/06 11:56:25

    前回は「さえら」でお邪魔してしまいましたが、今回は「小鳥遊」で^^;
    (↑さえら=小鳥遊は特に隠しているコトでもないのでw)

    さてさて、改稿お疲れ様でした!
    「騎士の枷」という言葉について、とても分かりやすく書かれていて、読んでいてストンと胸の中に落ちました。
    責任と信頼と多くの守るべき命を背負っての生きるか死ぬかの闘い。
    騎士として相応の力量と、そして一人の人間として相当の覚悟がないと出来ない気がします。
    今回も、感想の最後はこの一言で締めたいと思いますw 今後もロジャーさん応援してます^^

    改稿は、蒼雪さんご自身が納得できる形であることが一番だと思います。
    今回は私のようなヒヨッコの一言がきっかけとなってしまって申し訳ないです><
    それにしても、改稿の素早さと的確さに驚きました~~。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/04 14:59:36

    直してみました。今度はどうだろう?

    ちなみに、

    >騎士の帽子は、誇りであると同時に枷でもあった。

    から下に付け加えてみました。
    また気になる点がありましたら、ご指摘などよろしくお願いいたします。

    字数がオーバーしてしまって、不要と思われる部分を削ったり…。
    字数制限ってやっぱり厳しいですね。

    しかし、ここまで読者に指摘されながら改稿する人って珍しいんじゃなかろうか?w

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/04 14:25:18

    さえらさん、コメント感謝です。

    ありがとうございます。そういって頂けて何よりです。

    ああ、でもさすがさえらさん。鋭いです。
    「騎士の枷」については、やや言及が足りませんでしたよね。読み返してみて、実は自分もそう思ってました。何か足りないなあと^^;

    つい、流れのままに書いてておろそかになってしまいました。
    本来ならそこがこの回のテーマなのに。

    すぐに推敲しなければ。
    またあとで、時間をおいて読みにきてくだい。それまでには納得のいくよう直しておきます^^;

  • さえら

    さえら

    2012/12/04 13:45:13

    内容が薄いかもなんて……そんな感じは受けませんでしたけど^^
    物語に緩急は必要だと思います。
    個人的には、ロジャーのこのセリフ
    >「――怒りが、お前だけのものだと思うな!」
    今回は、これが好きですね~^^
    後半部分で、彼の戦う理由が見えたのも良かったです。
    ただ『騎士の枷』という言葉に持たせた意味について、もう少し語って頂いても良かったかもしれないなぁと思いました。
    騎士であることに恥じない行為を常に求められているというのは、ある意味、大変な時もありますね。
    何にせよ、弱い者を守りたいと願うロジャーの戦いをこれからも見守っていきたいと思います^^

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/04 11:48:10

    ちょっと迫力が…ていうか、内容が薄いかもです。
    圧力と言うか、密度が。
    前回勢いに乗って書いた分、失速した気もします。こればかりは調子によるのでしょうがない。
    しぼるミカンが常に味が濃いわけじゃないのです、なんて。
    緩急だと思っていただければ…ダメかな?^^;


    最近見つけた癒し?動画
    「ウサギがソーラン節を踊ってなかった」
    http://www.youtube.com/watch?v=xOq-bISXsWM

    かわいいです…。そして笑うw
    ちょうど3匹いるし、真ん中のやつはロジャーだな。決定。