ま、お茶でもどうぞ

蒼雪

日々感じたことを書いています。
なんとなく、徒然草。

モンスターハンター  騎士の証明~45

自作小説

【夜明けの月】

 顔のすぐ脇に、巨大な足があった。九死に一生を得て、ロジャーは詰めていた息をどっと吐き出した。イビルジョーが地面に下り立つ寸前、とっさに全身を反転させてしのいだのだ。
 真上には巨大な腹が息づいている。獲物を見失い、長い首が宙を見回していた。
 ロジャーは仰向けの姿勢から弾かれたように起き上がった。そして握りしめた両手の剣を、無防備な腹に思いきり突き立てる。
 不意打ちを食らって、ギャアッとモンスターが叫んだ。だが、傷は浅い。やはり刃のわずかな欠けが響いていた。
 ロジャーは相手が怯んだ隙に、続けざまに斬撃を右足に叩きこんだ。先刻イビルジョーの酸を浴びた肩が悲鳴を上げる。それでも斬ることをやめるわけにはいかなかった。
「ハッ!」
 渾身の一撃が決まったかと思いきや、イビルジョーの鋭い回転攻撃がロジャーを襲う。かろうじて振り回される尾から回避したが、さらに首を伸ばして執拗に噛みついてくる。
 ロジャーは腰に下がる最後のナイフを引き抜くと、凶悪な顔面へ投げ打った。
 ギャアオッ!
 イビルジョーが今までにない絶叫をあげた。ロジャーの投げナイフが赤光を放つ右目に深々と刺さったのだ。確実に狙ったわけではないが、幸運だった。
 右目を貫く痛みに、イビルジョーは長い首を振りたくってもがいている。抜きたいだろうが、前足は短すぎて顔には届かない。
 そのうち、苦鳴がややくぐもってきた。これは狙い通りだ。ロジャーは、モンスターの動きが鈍ったのを見計らってポーチから砥石を取り出すと、素早くかつ慎重に刃に当て始めた。
 投げナイフには、あらかじめ毒が塗り込まれていた。大型モンスターを死に至らしめるほどではないが、わずかでも体力を削ることはできる。相手が毒にかかったかどうかは、熟練したハンターなら、呼吸と動きで見定められる。
 剣がもとの輝きを取り戻すと、ロジャーは立ち上がり、イビルジョーに向かって走った。
 鬼人化したロジャーの神速の剣閃が、イビルジョーの脇腹を切り裂く。モンスターは叫び、片目を失った怒りに暴れまくった。凶器と化した巨体がやみくもに突進してくる。その先には街を取り囲む外壁があった。
 ロジャーは卒然と走っていた。そして外壁とモンスターのはざまで両手の剣を抜き放つ。刃は赤く燃えていた。
「はああッ!」
 龍気をまとって猛進してくる恐王の顎が外壁に届く寸前、ロジャーは怒号とともに双剣を敵に向かって突き立てていた。
 ガアア!
 身の毛もよだつ絶叫がとどろいた。イビルジョーの大きく開けた下顎に、斜めにロジャーの剣が両方突き刺さっていた。その白い切っ先は顎を抜け、舌も串刺しにしているではないか。
 だがその代償は大きかった。イビルジョーの垂らす強酸の涎が両手を焼き、顔面から噴き出る龍気の影響で腕から力が抜けていく。
「――オオオオッ!」
 ロジャーは叫び、渾身の力を込めて剣を顎から引き抜く。ためらわず相手の眉間へ向けて斬り払った。鳥の翼のように両手の剣が大きく閃き、両目を切り裂かれたモンスターが大絶叫をあげる。
 激痛はむしろ、ロジャーの全身から闘志を引き出した。
 ロジャーは双剣を、再び恐王の眉間へ全霊を込めて突き立てた。深々と切っ先が頭蓋を貫き、イビルジョーは身の毛もよだつ咆哮をあげた。狂乱して暴れ狂い、ロジャーと剣を振り落とそうとする。それでもロジャーは剣を離さず、モンスターの上顎に懸命にしがみつく。
「イヤァアアッ――!!」
 すさまじい怒号をあげながら、ロジャーは自由の利かない両腕で剣を押し進める。鋭い切っ先が柄元まで埋まり、カッとイビルジョーの残った赤い目が見開かれた。
 グギャァアア!
 悪夢に出てくるような、すさまじい断末魔だった。地団太を踏んで頭を振りたくり、暴れに暴れる。
 だが、それきりだった。声がやむと、黒々とした巨体がゆっくりと傾きはじめた。ロジャーはいったん剣を手放し、地面へ降り立つ。後を追うように巨体は地響きをあげて倒れこんだ。そして数度、尾がのたうって片脚があがくように痙攣し、やがて動かなくなった。
「終わった……」
 ロジャーはふらつきながら、横たわったイビルジョーの頭部へ歩み寄った。そして、突き刺さったままだった双剣を勢いよく引き抜く。剣に宿る水気が、どろりとした黒い血と脳漿を刃から洗い流していく。
 ロジャーは膝をつくと、ポーチから回復薬を取り出して一息に飲んだ。そしてその空き瓶をモンスターの傷口に当てがい、流れ出る黒い龍の血を詰める。希少種並みに出現率の低い飢餓状態のイビルジョーは、学者にとって貴重な研究対象だ。さらに数枚、黒い鱗を剥ぎ取って、ロジャーは立ち上がった。
「もう朝か……」
 全身に黒い返り血を浴びた姿で、ロジャーはぽつりとつぶやいた。
 見上げれば、東の空が白々と明けはじめている。ロジャーはその場に立ちつくしていた。そこへ、重々しい轟音が響き渡った。
「――っ?」
「――動くな!」
 はっとして振り向いた視線の先には、開け放たれた街門に立つ、十数名の兵士と士官がいた。
(この期に及んで……まだそう出るのか)
 ロジャーの眉が険しく寄った。しかしこの国の闇を知った以上、むざむざ相手が逃がす理由もない。
(確かに、殺すなら今だな。モンスターに襲われたことにすれば、なんとでも言いわけは立つ)
 恐れず微動だにしないロジャーの壮絶な姿を見て、士官も兵士達も一瞬声を失った。だが士官は、動かぬロジャーが意に従ったと思ったらしい。配置した弩兵に矢を構えさせ、意気高に言い放つ。
「お前をこの国から出すなとの命だ。恨みはないが、死んでもらおう」
「哀れだな」
 淡々と、ロジャーは言った。
「命令に忠実なのは軍人として当然のことだが……少しは疑うことも知った方がいい」
「なんだと?」
 士官は疑わしそうにロジャーを見やった。盲目的に上から命令されて従っただけなのだろう。ロジャーの目に、憐れみが浮かんだ。
「じょ、上官殿?」
「構わん、撃て! 絶対に逃がすなとのおおせだ!」
 ロジャーの静かな面差しに兵士達が動揺した。それを鎮めようと士官が手を振り、声高に命令したその時である。
 重厚なプロペラ音が遠くから響いてきた。はっとして一同が空を見上げる。ロジャーも帽子の鍔を上げて、わずかに微笑んだ。
 明け染めの蒼い空を駆けてくるのは、4基ものプロペラを備えた、流れるような造形の美しい飛行船であった。船体を浮かせる気球に描かれているのは、ひし形に剣を交差させた意匠。まごうことなき、ハンターズギルドの紋章である。
「先輩!」
 高度をぎりぎりまで下げた船体から、青い服の男が身を乗り出した。縄梯子が宙をたわみながら勢いよく落ちてくる。
 ロジャーは怒気もあらわな士官に一瞥をくれると、宙を揺れる梯子に足をかけた。その途端、「撃てっ!」と士官が叫んだ。
 そこへ銃声が数度響き、地面をえぐった。弓矢を構えていた兵士達がどよめいて後退する。
「動くな! 動けばギルドナイトへの執行妨害とみなし、貴様らを全員撃つ!」
 厳格な声が上空から響き渡った。甲板から身を乗り出したブルースが、地上へ向けてライトボウガン『凶針』を構えている。
 飛行船が上昇し、身体がふわりと空中へ舞い上がる。残された者達は、危なげなく梯子に片足と片手で身体を支える赤い騎士の姿が遠ざかるのを、呆然と見送った。


#日記広場:自作小説

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/18 07:51:52

    イカズチさん、コメント感謝です。

    一応、牢屋の中で仮眠取ってますけどね。怖い夢を見たので休んだうちには入らないかもしれません(笑)
    なので、気力体力ともに限界の上での勝利です。
    これを書いてるときに、彼が昼間、ハプルボッカと戦っていることはうっすら忘れていましたww
    しかし、とても長い一日でしたね。

    ブルースはガンナーなので、どうしてもサポート役になってしまうんですよ。
    彼ひとりで戦うシーンは、流れの関係で、もうこの先では作れないです。
    なので、剣士2人(ロジャー・ボルト)が戦いで、ブルースはその他で見せ場を作る必要があったので、こういう流れになりました。
    登場の仕方、なかなかいいでしょう^^

  • イカズチ

    イカズチ

    2012/12/17 23:19:32

    一昼夜……まるまる戦っていた事になるんですね。
    私は前のお話でゲーム時間をリアル時間に換算する為、10分で一日と計算しました。
    クエスト期限は五日となりますね。
    しかしながら現実味を帯びた考えをすると丸一日動きっぱなし、戦いっぱなしが可能な戦士とは気力体力共に超人レベルに達しているのでしょう。
    ロジャーにはその資格が充分にある、まさに『ヒーロー』ですね。
    ボロボロになりながら怒ジョー(ドジョウ?)を倒したその姿はきっと神々しいほどのものでしょう。

    にしても……おいしいとこ持ってくなぁブルース。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/13 15:34:48

    小鳥遊さん、動画見てくださってありがとうございました。

    この実写版の映像、すごいですね。でも劇場版とかじゃないんですよ。
    たぶんプロモーションかオープニング映像みたいなものでしょうか。
    さすが海外、実写とは気合入っていますw
    ついでに言うと、この女性が歌う歌じゃなくて、テーマ曲が流れている方が本物のムービーらしいです。
    たぶんMAD…なのかな。スカイリム関係多すぎて、もう何が何やらww


    飛行船そのものは、モンハンのゲームでも登場しますが、実際に乗れている様子が出ているのはオンラインの「モンスターハンターフロンティア」です。
    普段私がプレイしてるMHPシリーズでは、飛んでる様子は見れるけど乗れません。残念なことに^^;
    作中で書いた美しいフォルム云々は、完全に蒼雪オリジナルです。
    でもこの世界は意外と科学技術が発達してるので、ゲームではお目にかかれないけど存在はするんだと思います。

    映画「三銃士」のアクションやビジュアルは、頭に残ってましたね。
    ロジャー達3人とも個性的で、狙ったわけじゃないけど、三銃士のイメージですね、ほんとに。

    私も常に音楽かけて書いているわけではないですね。むしろ、音が邪魔になる方です。
    でも戦闘シーンはノリと気合いが必要なので、音楽かけることがよくあります。
    その際は歌詞が邪魔なので、今回みたいに映画音楽や、ゲーム音楽を聴いてます。
    小鳥遊さんのように、音楽だけ聴いてイメージをもらうことも多いです。
    なんにせよ、ほかのジャンルからインスピレーションをもらうことは大切ですよね。

  • 小鳥遊

    小鳥遊

    2012/12/13 13:05:47

    ご紹介いただいた動画、youtubeで早速拝見して参りましたw
    蒼雪さんも仰るように、映画のワンシーンのようでした。すごい完成度ですね、これ。
    飛行船は、「三銃士」からでしたか、なるほど^^
    「三銃士」とは……ロジャー、ボルト、ブルース、彼ら三人になんてピッタリなんでしょw
    音楽や映像に助けられることがある、というのは私も同感です。
    書きたいモノの雰囲気と曲調が合うな、と思う音楽をBGMにしていると早く書けたりしますw
    でも、殆どの場合はBGMにするより「音楽を聴いてイメージが膨らんだら音楽を消して一気に書く」というパターンの方が多いかもです。

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/12 12:10:44

    小鳥遊さん、コメント感謝です。

    モンハンに詳しいイカズチさんなら、ここで「なんで捕食されないんだぁ~?」って言いそうですが、
    そこは「ロジャーがイケメンだから、こやし玉を投げさせるわけにはいかなかったんじゃー!」
    と、反論いたします。
    まさにその一心で書いた回かもしれませんww
    こやしは、本当にこやしなので…。(とか言いながら、美女のトゥルーさんには投げさせていることをすっかり忘れて書いてました。申し訳ない)

    スマートな彼にしては泥臭い立ち回りでしたが、前回ボルトがかなり迫力ある戦いを見せてくれたので、ここは全力で立ち向かわせました。
    それにこういうのが盛り上がるんですよね、結局はね。ハリウッド映画でも、足踏み外しそうな場所で主人公が敵ととっくみあいするのが定番ですし。

    なりふり構わない戦いぶりですが、ゲームにないアクションをさせたことで、動きが出たと思います。
    カッコいいと言ってくださって光栄です。よかったなぁ、ロジャー^^

    飛行船登場のシーンは、自分でも気に入っています。
    このシーンを書きたくて、今回強引に、この引きにしたんですよ。
    この間テレビで「三銃士」をやってたので、それに出た飛行船のイメージも手伝ってくれましたね。
    あとはこれ。

    スカイリムのテーマ・メタルアレンジ

    http://www.youtube.com/watch?v=UW7EnixZVNI

    イメージ映像(映画?)
    http://www.youtube.com/watch?v=rbJw2R-dtxQ

    海外の大人気オンラインゲームだそうです。
    特に、下のやつは映画かと思いましたw
    たったひとりでドラゴンに立ち向かう戦士の姿にヒントをもらいました。

    音楽や映像に助けられることは多いです。
    まさにこの時!ってタイミングで手が差し伸べられる瞬間というか。いい感じでアンテナが入っているんでしょうね^^

  • 蒼雪

    蒼雪

    2012/12/12 11:55:28

    トゥさん、コメント感謝です。

    身に余るお褒めのお言葉、ありがとうございます!;;
    この回は、2回書き直してます。最初に書いたものは、ロジャーがもっと落ち着いて対処しているものでしたが、読み返したら迫力がなくて、速攻ボツにしました。

    そこで、心理描写や状況説明を大幅に省いて実況中継に専念したら、なんとかスピード感は出たんではないかと思います。

    融通の利かない軍人の描写は、リアルにもよくあることですよね。上からの命令に従うだけの人たちを見ると、まったく腹立たしいですが、彼らにも彼らの事情があったりするし…(軍法違反で罰を受けるとか)
    だからこそ、ロジャーは悲しかったんだと。彼も組織に縛られる人間なので、どこか共感したのでしょう。
    こういうのは、警察や役所にも言えることですが。
    かといって、個人が自由に動いたら規律が乱れるし…そういうジレンマですね。
    トゥさんのように、散弾撃ったろか~!というコメントは素直にうれしいです。それだけ感情移入させられた、ということで。ありがとうございます^^

    連載の引きのドキドキ感、そのお気持ち、よくわかりますよ~。
    でもそうおっしゃられると、かなりヒヤヒヤしますねww
    うわあ、ご期待に添えられたようで何よりです。ああよかった^^;

    ブルース登場のタイミングは、これは前からずっと考えていたシーンで、上手く働いてよかったです。
    私の頭の中には、映画みたいにシーンが再現されていますよ。絵で見せられないのが残念ですw

  • 小鳥遊

    小鳥遊

    2012/12/12 01:47:25

    ロジャーは、やっぱりロジャーでしたね。格好良かったです^^
    見事、たった一人で凶悪なモンスターから街を守って……。
    それなのにそのロジャーを撃とうとする兵士と士官に対して、あの態度……。
    去り際なんて、もう、文句のつけようがないくらいに格好良かったです!
    そりゃ、兵士達も呆然と見送るしかなかったでしょうw
    絶妙なタイミングで迎えにきてくれたブルースも格好良かったですね^^

    >見上げれば、東の空が白々と明けはじめている。
    >明け染めの蒼い空を駆けてくるのは、4基ものプロペラを備えた、流れるような造形の美しい飛行船
    時間の経過を思わせる空の描写、飛行船の描写、とても良かったと思います。こういう描写は好きです^^
    こうやって背景まできちんと描きこんである作品は、読んでいて鮮明にその場面のイメージがわきます。

    あ、そうそう。ロジャーのこの仕草も格好良かったですね~
    >ロジャーも帽子の鍔を上げて、わずかに微笑んだ。

    はっ……さっきから格好良かったばかり言っている気がしますw
    さてさて、今回の騒動にどのような決着をつけるのか、これからも楽しみにしています^^

  • トゥ

    トゥ

    2012/12/12 01:38:19

    ああ、終わった……と放心する間もあらばこそ。
    たったひとり命懸けでエルドラを守ったロジャーに武器を向ける兵たち。
    いくら命令だからって、軍人だからって、人として何か動くものはないのか! と、もうびっくりして。
    ああ、わたしがこの場にいてこの手にボウガンがあったなら散弾を打ちこんでしまいそうです。
    ……逆にギルドの迷惑になりそうですねw

    飢餓ジョーとの戦いは息を継ぐ間もないほどでしたね。
    切れ味のときも、捕食されかけたときも、引きが秀逸なのにその続きでもっと盛り上げる手腕がすごいなあと思わずにはいられません。
    前回蒼雪さんが「連載少年漫画のよう」と仰っていましたけれど、わたしは連載で引かれたドキドキ心を何日も何日も必要以上に育てすぎてしまって、実際に続きを読むとがっかりしてしまうことがあるんです。「なあんだ、だいじょうぶじゃないか」とw
    でもそんなこと、ありませんでした!

    それにしてもブルースがナイスタイミングで素敵です。
    夜明けの飛行船、梯子に立つ赤い騎士、映像で見てみたいくらいに絵になりますね✿