フリージア

金狼の重圧…21

自作小説

 「君たちが知っている通り、ウルフは連戦連勝、向かうところ敵無しの男だった。彼の速さは尋常ではなかった。全てに勝ってしまうことは一見すると喜ばしいことだと思うよな…君はどうだい?トップになってみたいかい?」
 「俺は…」
 正直、言葉に詰まる。ミカミはそれを理解した。
 「そうだ、トップになるというのはそれ相応の資格やプライドがなければならない。普通の精神力では務まらないと言うことだ」
 追われるものの立場。ずっとバタフライや仁王はウルフを追ってきた追う者側の立場だ。ユウジも多分にもれず追う側だからそんな精神力を感じることはないだろう。
 だが、気持ちは理解できる。
 トップになると言う怖さ。どれほどの強い精神力を持っていなければならないのか凡人には計りかねる。
 凡人にさえ感じる非凡の重圧。その非凡なる者はその何十倍の見えないプレッシャーを抱えているんだ。そのプレッシャーを感じても撥ね退けられる人物こそトップとして相応しい。そのような人間はなかなかいないんだと。
 ミカミはそう考えている。
 その貴重な1人がウルフのはずだった。
 「ウルフはそのプレッシャー、プライドをものともせずに走ってきたんだ。しかし、ウルフは君たちとの対戦と言う根本的な事に対して疑問を抱きだした。俺が感じていたプレッシャーは無意味かもしれないと」
 ミカミは少し疲れたのか、すぐ側にあった木箱に腰を下ろした。ユウジは相変わらず立ちすくんでいる。
 「無意味とは…どういう事だ?」
 「追われる者と言うプレッシャーをモノともしないと言ったが、感じてはいる。それがトップとしての宿命だと。速い挑戦者が現れると言うプレッシャーを感じる、それがあるからこそ、勝つんだと言うモチベーションへと変わるんだ。ウルフはそう言っていた…しかし誰も」
 「俺たちが遅すぎたと言うのか?…」
 「君たちはウルフを倒そうという意気込みや気迫は凄まじかったが、いかんせん遅すぎた。退屈だったんだウルフは、その退屈さにずっと耐えていたんだ」

 何と理解しがたい悩みだ。最強の称号だけで満足ではないのか?
 走りが退屈だっただと?ウルフを目標にしていた俺たちは一体何だったんだ?彼の足かせにしかならなかったのか?
 ユウジの行き場のない虚しさはミカミにも伝わったらしい。気持ちの整理がつくまで話すのを止めた。その表情はそよ風のように優しかった。