フリージア

金狼の重圧…22

自作小説

 トップとしての悲しみは凡人には理解できない。
 バタフライもその理解できない1人だった。今までは所詮その程度のトップだったんだ。だが、彼はウルフを越えた。
 彼は一握りしかいないトップの仲間入りをしたんだ。

 ずっと最高速で飛ばすバタフライ。シンの心配はどんどんと膨らんでいた。
 「オイ、ハヤト、あまり飛ばすなよ」
 「ついて来れないのか?シン。まぁ、しょうがねえよ。お前が遅いんじゃない、俺が速すぎるんだ。ゆっくりついて来い」
 「ったく、調子に乗りやがって」
 尋常ではない速さ、今までに感じたことのない体感に益々興奮していくバタフライ。『俺が最強』その言葉がこれから全てにおいて自分を高見に置いてくれる。これは至福の時なのだろう。全ての走り屋が自分を目指し、自分を倒そうとやって来る。それを軽く一蹴する。今までウルフがやってきたことを代わりに自分がやるんだ。
 意気込みは脳天から爪先まで突き抜け、それが興奮を呼ぶ。
 『誰も俺を越えることはできない!』
 真っ暗な道でさらにスピードを上げる。後ろにやっとこ付いていたシンはだんだんと離され始めた。シンもそれなりのEM乗りだ。それを圧倒以上に突き放す。
 「シン!俺に付いてこられなければ、ゆっくり帰ってこい」
 「ハヤト!」
シンの声はもうバタフライには届かない。距離的にも、そして…
 「うるせえんだよ、俺はトップなんだ…」
 バタフライのミッドパープルの車体がさらに加速する、軽くスラロームしながら。
 

 もう使われなくなった高速道路は街灯などもなく真っ暗だ。そこへ何かがやってくる。
 「ん?」
 バタフライは後ろから何か来る気配を微かに感じた。後ろを見る、しかしシン以外誰もいなかったし何か乗り物の光も見えなかった。シンは何事もないように走っている。
 しかし、それは気のせいではなかった。光が後ろからやって来る。それはやがてシンを抜き去り、バタフライに追いつこうとしていた。
 シンは抜かされたことさえ気がつかない、だがバタフライはその光が近づいてくることに気がついた。
 「なんだ?」
 一瞬気を抜いたバタフライの横を光の筋が並列した。横の光を見ようとした刹那、その光はバタフライを抜き去り、さらに加速していった。
 「てめえ、俺を誰だと思って前に出てるんだ!俺は最強のバタフライだぞ!」
 バタフライはその光を追いかけ始めた。何が起きたのか全く分からなかったシンは付いて行けない事を悟り、速度を緩めたはじめた。
 「どうしたんだ?ハヤト?」
 シンの目の前に見えていたミッドパープルの車体が暗闇に溶け込み、徐々に見えなくなっていった。