「翼」
翼が、欲しい。
逢いたい人が、いるから。
今、私の背中に翼が生えたら。
そうしたら、その翼をゆっくりと動かし、私は空へ行く。
逢いたい人が、いるから。
夕也の死は、あまりにも突然だった。
交通事故で、あっさり。
日曜日、横断歩道を渡っていたら居眠り運転の車が突っ込んできて。即死だった。夕也の身体は、それは無残な形にと変わっていた。
雨の日に行われた葬式で、涙は出てこなかった。
おかしいのだろう。恋人の死を、悲しまないなんて。
でも、どうしてだか、私は予感していた。
夕也にまた逢える。それは、予感というよりも確信に近かった。だから、寂しいとは思わない。
そして、夕也の死から一週間目の夜に私は夕也と再会した。
「……め、夢」
頭の中で反響する、私を呼ぶ夕也の声。これは幻聴? 本当は私は、夕也の声を聴きたいと思うほど、恋人の死がショックだったの?
眠ったままの脳みそであれこれ思う。
「夢」
今度ははっきりと名前を呼ばれ、私の意識は覚醒した。
目をあけて、体を起こせば一目でそこは現実ではないと分かる場所。
あたり一面真っ暗で、何もない。私が眠っていたはずのベッドも、見慣れたはずの天井も、一切無し。でも、夕也の存在が確かにそこにあった。
「夕也? 」
私はあまりにも現金だった。声を耳にして、懐かしさがこみ上げるなんて。恋しいと思うなんて。
「夢。ごめんよ、今の俺は死んでるから、幽霊を怖がる夢の前に姿を見せるわけにはいかない。事故ったこの身体なら、尚更ね」
ここにきて、私の幽霊嫌いが障害物となった。
ああでも、夕也だったらどんな姿でもかまわないのに。
「手短に用件を言うよ。君のベッドの下を覗いて。君は、僕に逢うための翼を手に入れることになるから」
それだけ言って、夕也は消えた。姿は見えないけど気配ではっきりと分かった。
目を覚ませば、朝だった。日曜日なので、早く起きる必要は無い。壁に掛かった時計で時間を確認すれば、午前五時。いくらなんでも早すぎか。でも、身体は早い起床時間を不満に思っていない。それをいいことに、言うことを聴く筋肉を動かし、頭をベッドと床の隙間に入れた。ほの暗いその空間で見つけたのは一つの小箱。手にとって、開けてみる。
そこには、翼があった。
小さなダイヤを使った、銀の指輪。迷わず、左手の薬指にはめる。
サイズは、面白いほどその場所にぴったりだった。
背中になんて翼は生えない。
でも、この指にあるのは紛れもない翼。
夕也のいる天国へと私を連れて行ってくれる。
逢いたい人がいるから、翼が欲しかった。
今、手に入れた。
夕也の愛に、私はやっと涙した。
ヨネ
2009/07/23 17:30:07
みかのさん>
書いてる自分が言うのもなんですが、
ホントに小説って難しい><
勿論、みかのさんが扱う詩も同じく……。
私なんてテーマに沿って無いし、
大したオチも無いので全然ダメですよ。
みかの
2009/07/23 15:38:45
なんて感動的な小説でしょう(;_;)
とても愛を感じます。
小説って難しいですよね。
わたしもチャレンジしてみたんですが
内容がぜんぜん違う方向へ行ってしまいました。。
ヨネさんはとてもテーマに沿って上手にまとめていらっしゃるとおもいます。
すごいです。