フリージア

金狼の重圧…26

自作小説

 今回の光もシンにはまったく見えていない様子、追い抜かれた感覚もないようだ。シンのずっと前を走っていたバタフライは、再びその光の気配を感じた。そして考える。
 『さっきと同じ気配?』
 さっきと同じEMでないはずだ。逆送するか高速を降りてまた戻ってこなければ、後ろから来るなどあり得ない。それにこの短時間だ。
 信じられないが、先ほどと同じ光が同じ速さでやって来る。もちろんバタフライなど凌駕するほどの速さで。
 「…また来た」
 瞬間だった、気配が辺りに伝わってからものの数秒で光はバタフライに並ぶ。光が真横に来た時、バタフライは身構えながらもその光に対して恐れを抱くように素早く光から離れた。バタフライは光を見る。
 しかし、その光は追い抜いていかなかった。明らかにバタフライよりも速く走れる能力があるにもかかわらず同じ速度で走っている。
 バタフライは不確かな恐怖を感じながらも、そのEMの全体像を見るためにさらに5mど距離を置く。またあのウルフなのか…ウルフが来たのか?
 徐々に光の靄が解けて、中から全体の形が現れたと時、不確かな恐怖は震驚へと変化する。

 そこにいたのは先程のウルフでは無かった…自分だ。自分がいる。バタフライは目を見開き確認した、錯覚ではなかった。

 声が出ないとはこの事だ。こんなことなどあるはずがない事実。目の前に自分がいる事実、先程のウルフを見たという事実より信じることはできない。そこにはミッドパープル色のEMに乗った自分がいた。もちろん、それは幻影。
 先程のウルフも幻影だったんだ。幻影はバタフライにしか見えていなかった。だから、先程も今もシンは気が付かなかった。
 幻影と人間。二人は当然の如く目があった。
 もう1人のバタフライは自分を見てあざけ笑っている。最強の男を見るような目ではない。まるで最弱の男を見るような目で自分を見ていた。
 「……こ、これはいったい何なんだ?」