心が温まる小説
小説はちょっと思い当たらんので、心温まるかは微妙ですが、絵を思い浮かべると笑みがこぼれる童話を。
めっさ長いので、お時間のある時にでも。
■雌熊 イタリアの千匹皮的なお話。舞良テイストでお届けします。
昔、王と美しい妃が仲良く暮らしていた。
二人の間にはプレツィオーサという妃に良く似た一人娘がいた。
妃が重い病に倒れ、明日をも知れない状態になる。
死の床で「もしも再婚するお相手が、私と同じくらい美しい人でなければ、あの世であなたを恨み続けますよ」と口にした。目が本気だった。
王は「お前以外の女など…だが、もし再婚することがあるならば、お前と同じくらいの美女にすると誓おう」と言った。
妃はそれを聞き届けると息をひきとった。
男の常というか、妃に誓ったどの口で言うか!状態なのですが、葬儀が終ったら王は次に誰を娶ろうかな~♥とるんるん気分でした。
○○ちゃんにしようかな?xxちゃんがいいかな~?なんて暢気に悩んでいましたが、妃の最後の言葉が心をよぎります。
「私と同じくらい美しい人でなければ、あの世であなたを恨み続けますよ…うらみ続けますよ…恨み続け…」そりゃぁもう、エコー付きでエンドレス。
こんな約束しなきゃ良かった…と思いましたが、国中探せば妃以上の美人がいるはずと一縷の望みをかけ、次のような命を出しました。
「我こそは!と思う美女は城に集え!!国一番の美女は王の妃として迎えよう」
国中から自薦他薦問わず、数多くの女が城に集まった。
しかし、先の妃の美しさと比べると、誰もどこかしら難があった。
王が深い溜息をついていると、娘の姿が目に入った。
妃比類するものがないほどの美女だった
↓
娘は妃の面影を色濃く継ぎ麗しい顔立ちをしている
↓
つか、若い分、妃より美人じゃね?
*ピコーン!*閃いた。
娘をお嫁さんに迎えれば万事OKじゃん♪「というわけで、プレツィオーサや、お前は私の妃となるのだ」と王女に向けて言いました。
プレツィオーサは烈火のごとく怒り(そりゃそうだ。宗教的にもないわぁ…)部屋に閉じこもり声を殺して泣き出しました。
いつも化粧品などの小物を売りに来る老婆が、窓の外を通りがかりました。
押し殺した泣き声を聞きつけ「王女様、どうされました?この婆がよい知恵を授ける事も出来ましょう」と声をかけます。
王女は老婆に父の愚かで恐ろしい計画を、どうすれば避けることができるのか相談しました。
老婆は「婚礼の夜、父君が不埒な真似をしようとしたらこれを口に含みなさいませ。たちまちのうちにあなた様のお姿は熊となります。父君がその姿に怯んでいるうちに森へお逃げなさい。きっと運が開けましょう。口から小枝を離せば人に戻る事が出来ます。心を強くお持ちください…」と、1本の小枝を手渡しました。
婚礼の夜、王女の寝室に王が足を踏み入れると、プレツィオーサは老婆から貰った小枝を口にしました。
美しい姫君は、たちどころに雌熊へと姿を変えました。
王が熊に恐れおののいている隙に、王女は森へむけて駆け出しました。
森に入った王女は、熊の姿のまま、森の動物と仲良く暮らしていました。
ある日、隣国の王子が狩りにやってきて、例の雌熊と出会いました。
熊…殺される…。
と観念していた王子ですが、熊は襲ってくるどころか、王子の周りをほてほてと歩きまわり、犬のように鼻面をグリグリ押し付けてきたり、コロン♪と寝転がったりして王子に甘えるような仕草をしています。
か、可愛いかも~♥熊ちゃん、可愛い、可愛いよ!熊ちゃん~♬状態になった王子は、熊に「一緒にうちにおいで♥」と言い、城に連れ帰りました。
王子は召使達に「私にするように、この熊にも良くしてやってくれ」と言いつけ、くまを庭園で放し飼いにしました。
王子の部屋からは、庭園を見下ろす事が出来、彼はいつでも可愛い熊を眺める事が出来ました。
城中の者が用で城を開ける事がありました。
一人残った王子は「熊ちゃんは元気かな~♥」と窓から熊を探しましたが、彼の可愛い熊ちゃんは見当たらず、金髪の美しい娘が髪を梳っていました。
娘のあまりの美しさに、王子は慌てて庭園に降りますが、プレツィオーサは素早く小枝を口にして熊の姿に。
どこを探しても美女の姿は見当たらず、王子は恋煩いで寝込んでしまいました。
病の床で王子は「熊ちゃん…僕の熊ちゃん…」とうなされます。
それを聞いた王妃は、あの熊が息子に何かしたに違いないと、熊を退治するよう召使に命じます。
しかし、熊は城中のアイドルでしたので、召使は熊を森に逃がし、王妃には「熊は殺しました」と報告しました。
王妃はそれを聞くと、王子の元へ行き「悪い熊は殺しましたよ。安心なさい」と囁きました。
それを聞くなり王子は*ガバリ!*と飛び起き「僕の熊ちゃんを殺したのは誰だ!熊ちゃんと同じ目にあわせてやる!」と叫びました。
呼びつけられた件の召使は「恐れながら…」と熊を独断で森に逃がした事を報告。
王子は半死半生の状態であるにもかかわらず、馬に飛び乗り、熊を迎えに森の奥へ。
無事熊ちゃんを見つけると、一緒に城に帰ってきますが、無理がたたってまたベッドに逆戻り。
苦しむ息子に「何かして欲しい事はありますか?」と母が聞くと「僕の熊ちゃんに看病して欲しいんだ…」とお前さん本気かい?という言葉を返す王子。
しかし、息子こそ我が命!状態の王妃は熊ちゃんに声をかけに行きます。
「可愛い熊や、王子の看病をしておくれではないか?」熊は人の言葉が解るかのように一つ頷くと、王妃と共に王子の部屋へ。
熊はベッドに近づき、王子の手をとって脈をみてみたり、額に手を当て熱を測ってみたり。
王妃は熊の鋭い爪で王子の鼻や目を傷つけるのでは…とひやひやしたがそんなことは無かったので一安心した。
「熊ちゃん、僕のために料理を作り、僕を看病してくれないかい?」王子の言葉にくまは「わかった」とばかりに頷く。
王妃はそのやり取りを見て、料理のための準備をさせた。
2羽の鶏や野菜、コンロに鍋を用意すると、熊は鋭い爪で*スチャチャチャチャ!*と鶏を捌き、*スパパパパン!*と野菜を刻むと、あっという間に美味しそうな鳥の串焼きとスープを作り上げた。
それまで砂糖水の一口さえ摂ることの出来なかった王子だったが、この料理をあっという間に平らげた。
また、王子がトイレに立った少しの間に、熊はベッドを整えると庭へ行き、香りの良いバラとレモンの花を摘んできてシーツの上に撒くことまでした。
それを見た王妃、この熊は人の言葉を理解し行動している。王子が寵愛するのも無理はないと納得した。
王子は熊の仕草を見るにつけ、あの時の美女はこの熊ではないかと思うようになった。
そして恋の病を再発し急激に消耗し始めた。
王子は母親に「僕の熊ちゃんがキスしてくれないと、死んでしまうよ…」と息も絶え絶えに訴える。
王妃は涙ながらに熊に王子にキスをするよう懇願した。
熊が王子に近づくと、彼は(逃がさんぞとばかりに)熊を強く抱きしめると、何度もキスをした。
そのうちに、プレツィオーサの口から例の小枝がポロリと落ちた。
美しい娘の姿になったプレツィオーサに王子は「さぁ捕まえた。もう逃がさないよ」と言った。
プレツィオーサは頬を染めつつ、頷いた。
王妃が今までの事を尋ね、その答えを聞くと王妃はプレツィオーサの貞淑さを称え、二人の結婚を祝福した。